えさし藤原の郷2
2019年6月、ジューンブライドの季節。
この日は…小夜姫たちがえさし藤原の郷で最初に出会ったコスプレイヤー「
式場はなんと…えさし藤原の郷!!
しかも政庁で行われる公開結婚式!
えさし藤原の郷の入り口には「八重樫家・金城家 結婚式会場」と立札が立ててあった。
人生の門出を祝う晴れ舞台に、小夜姫・真美・瑞樹含む史学部5名と家庭科部の3人と文芸部の5名が江刺バスセンターから奥州市営バスに乗って江刺藤原の郷へかう。
本来高校生が結婚式に出席する場合はその学校の制服が正装だが、今回は全員事前に申し合わせて小夜姫以外は訪問着に袴と和の正装で合わせてきた。
「結婚式なんて出るの初めてー!」
「えさし藤原の郷で行われる結婚式はここでしか見られない独自の結婚式ですから、もう一生の思い出になりますよ」
「参加する人全員ね」
「まだ高校生なのに結婚式に参加していいのかな?」
「なぁにかだってんのっしゃ?
「OBとOGのマイルドヤンキーなんて奥州高校卒業してすぐ結婚して今では2児の
「ええっ!?遊んだりしないですぐに結婚!?」
「奥州市では結婚するのが早ぇのっしゃ!」
「まだまだ遊びてぇ
「残った人だは“マイルドヤンキー”だなんて言われて、前時代的な“男は仕事!女は家事!”を何の疑いもなく受け入れて暮らして既得権益のずさまばんさまさ気に入られてんのっしゃ」
「そんな文化が…」
バスの車内で奥州市の結婚事情を聴かされた真美は唖然とした。
やがて奥州市営バスはえさし藤原の郷に到着した。
「待ってだで~」
天平装束姿の籠姫とスーツ姿の康秀が一行を待っていた。
「おー!みんな和服姿だか!似合ってるで!」
「ありがとうございます!」
「そういえば梨恵ちゃんは?直接ここに来るって?」
「ああ、あいつは…」
家庭科部の鎌田梨恵だけ別行動で合流する予定だった。
そこへ一台の車がやってきて、車から降りてきたのは、
「みんなお待たせ~」
「梨恵っ!?」
鎌田梨恵だったが、ぼさぼさのショートボブ、浴衣の上にライブ帰りとされるアイドルの応援法被を着たままだった。
「梨恵っ!何だでやその
「いやぁ~盛岡からオールナイトしてそのまま…」
「あんやほにっ………!!」
誰がどう見てもマナー違反な梨恵のドルオタモードに一同はあきれる。
「確かえさし藤原の郷では普通の着物のレンタルはやってねぇけんども、壺装束と小袿のレンタルならやってるのっしゃ!オラちょっときいてくる!」
籠姫がえさし藤原の郷の受付の人に事情を話すと、幸いにもレンタル用の|女官装束(小袿)があったので、入場後に梨恵は着替えることにした。
その前に梨恵は千田光子と和川凛に洗面所に連れ込まれ、ボサボサの髪を洗い、ドライヤーで乾かしてブラシで溶かし、ライブの汗をボディペーパーで全身を拭かされた。
こうして身だしなみをキチンと整えたら、受付に渡す…ご祝儀…!
奥州市ではご祝儀の相場として、友人・知人は1万円、職場の同僚なら3万円、その上司や金銭に余裕のある人なら5万円!
真美達学生の場合は五千円!
そしてできる限り…ピン札であること…!
ご祝儀を渡し、滞りなく受付を済ませたら、入場…!
会場となるえさし藤原の郷の政庁!
えさし藤原の郷の中心部にして大広場!!
誰しもがここを通って園内を観光し歩くために、必然的に公開結婚式となる!
その政庁の広場に用意された参列者用のパイプ椅子に、真美たちは腰を掛ける。
全員が着席を済ませたところで、司会進行を務めることとなった、えさし藤原の郷インターンシップ生の沼里愛梨がご挨拶する。
「本日はほんっに晴れの場さえさし藤原の郷を選んでけでありがとあんした!さて皆様、お待たせしゃした…!新郎新婦の入場です!!盛大な拍手で迎えてけらしぇ!!」
ーギィイイイ
政庁の壁の一角が開き、そこから現れる、新郎新婦!
日本の国風文化より続く、我が国の最上礼装、束帯と十二単!
新郎新婦もコスプレとしてではなく、れっきとした結婚式の正装として着用して臨んでいる。
当然、岩裂こと綾子もコスプレの時に見せる雰囲気とは全く別の厳かな雰囲気を出していた。
政庁の中央まで平安装束で歩いていくその姿は、この日えさし藤原の郷に来た観光客の心を掴んで離さず、観光客は一斉にスマホを新郎新婦に向ける。
「きゃー!きれい!」
「これが十二単か!」
「私もこんな結婚式挙げたいな…」
真美が心の中で羨ましそうに新郎新婦の平安装束姿を見る。
司会の愛梨が新郎新婦を紹介する。
「みなさん、この度結ばれます新婦でがんすが、江刺生まれの江刺育ちのコスプレイヤー「岩裂」で、本業はリンゴ農家の八重樫綾子さん!新郎は沖縄から東京さやってきて、この度あるIT企業のエンジニアとして江刺さIターンすることさなった、
「どうもよろしくお願いします」
ーパチパチパチパチ
観客と参列者の万雷の拍手の中で新郎新婦の稼頭央・綾子は包まれる。
続いて主賓によって述べられる祝辞!
祝辞を読み上げるのは大衡小夜こと小夜姫であった!
(小夜ちゃん大丈夫かなぁ?)
参列者も観光客も、小夜姫の奈良時代を思わせる天平装束、筒衣(つつぎぬ)に領巾(ひれ)と羽衣を褶(したも)と着て裙もを巻き、翳(さしは)を持ち、栗毛色の長髪を半分を頭の頂に輪のような髻(もとどり)を二つ結って髻花(うず)を付けた髪型といった万葉風のいでたちに目が行ったが、ここは結婚式。
すぐに目線を平安装束姿の新郎新婦に戻した。
「本日は、こんたならずもねぇ
(ようし、その調子!)
小夜姫は文芸部の協力を得て、史学部と祝辞の文章を紙に書きだし、それを読み上げていた。
「岩裂さ…いえ……新婦、綾子さんの後輩にして岩手県立奥州高校1年A組、大衡小夜でがんす」
ーパチパチ
「八重樫先輩は一言でいえば、“
(いがんす…)
瑞樹も固唾をのんで見守っていた。
「んだどもまぼいから
ーどっ
(い…いいのかな!?)
(いいのっしゃ、これで)
小夜姫の祝辞に会場が笑いに包まれる。
祝辞は長すぎず短すぎず、時折ユーモアを交えて場を和ませるとOK!
祝辞後は会場が野外ということもあり、余興やスピーチもなく、式はつつがなく進行。
「皆様、短いお時間ではございましたが、記念撮影をもってこの場でお開きとさせていただきます。続きはホテルニュー江刺にて披露宴及び二次会を予定しておりますので、そちらへご移動をお移動をお願いします」
愛梨がこの後の予定を説明した後、新郎新婦と参列者の記念撮影が始まる。
撮影係はもちろん愛梨だ。
「は~い皆さんいい笑顔です!そのままそのまま!それでは3・2・1…」
ーサッ
「ミュージックスタート!」
撮影が終わると瞬間に愛梨がポケットからスマートフォンを取り出し、ポチッとスイッチをタップした。
すると…
ータカタカカッ♪
―タッタッタッ♪
―タカタカカッ♪
―タッタッタッ♪
「!?」
(ええっ…!?)
(何これ…?小さいときにテレビとかでよく聞いていたような…?)
「あっあれ!」
小夜姫が翳(さしは)で刺した先には、w-inds×G-Dragonの「Rain Is Fallin`」の音楽に合わせて扇子をもって優雅に舞う愛梨の姿があった。
「サプライズでオーガナイズ!♪君をみんなに紹介したい♪」
すると申し合わせたかのように、奥州高校から参列した真美、小夜姫除く一同が一斉に撮影台から飛び出し、愛梨に混ざって同じく扇子を出して舞い始めた。
「もっと浴びよう♪スポットライト&シャンパン♪」
「あんやほに…これは一体なんじょなってるのや?」
(これってもしかして…フラッシュモブ!?)
「あんやほに!すげぇなや!まぼいで!オラもまぜてけらしぇ!!」
「オ、オラもだで!!」
「え?小夜ちゃん!?加子ちゃん!?」
小夜姫と籠姫もフラッシュモブの中に入って見様見真似ながらも踊り始めた。
「まるで流行りのよう♪回るよミラーボール♪」
ーわぁっ
「入った!奈良時代の服装のあの子も!」
「すげぇ!」
「ひょお~」
「なんでだろ!?すっげぇ似合う!」
式を見ていた観光客や参列者の多くが小夜姫と籠姫がフラッシュモブに入った瞬間、肯定的な盛り上がりを見せていた。
それを見ていた真美はフラッシュモブには参加しなかったが、多くの人が見入るフラッシュモブのパフォーマンスを見ると。
「下手ではあるけど確かに伝わってくる、祝いの気持ち!場の雰囲気に全くそぐわない選曲なのになぜかこの異様な盛り上がり。みんなそれぞれ知恵を出し合っているんだ!祝いの仕方を!」
ーパチパチパチパチ
圧倒的祝福に万雷の拍手をえさし藤原の郷園内に響き渡らせる。
えさし藤原の郷よりおめでとう!岩裂こと八重樫綾子夫妻!
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