隅川ブーツ文庫『世界を救えやしない僕と君のラブコメ』(2/2)
「じゃあ始めますねレビュー。といっても周辺情報は先輩も知ってるかもしれないですね。『このラノ2021』で二位にランクインした『らーめんていまー!』の作者・
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
「舞台は現代ですけど、あらすじにもある通り、地球の内部が空洞化するという謎の現象が起きていて、次々と地表が崩落しているという世界の話です。崩れた地面は、空洞化した地球の中心にある眩い光の方へ吸い込まれて消える。現代の科学では解明の糸口さえ見つけられない、不可思議な現象」
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
「崩落が始まってから一年後、まだ無事な土地を巡った大規模な戦争が起こって、その混乱の中で、空中都市建造計画や宇宙への移住計画などといった延命策は破綻しました。そして崩落開始から五年後には人類はほとんど滅亡していた、という、だいたい全てが終わりそうなところから始まる物語ですね」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
「本作は、今のところ完全な崩落からは免れている小さな地域が舞台で」
「ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ」
「先輩、うるさいので今後一切呼吸しないでもらえますか?」
「死ぬやろがい!! ねえねえねえこれもしかして先輩様への卒業祝い的な? 今までありがとう的な? えーやばい、泣くんだけど。感動で泣いちゃう。わー」
「鋭利な刃物で涙腺を破壊すれば一生泣かずにすむそうですよ」
「だから死ぬやろがい!!」
「主人公の
「律儀かよ。てか、草太君にちょっとシンパシー感じちゃうな~。私も後輩君と出会うまではぼっちだったからな~」
「それは今もでは?」
「は? おめ~がいるだろが。後輩君と私は同じ空間で呼吸してお互いの息を吸い込んでいる、つまり間接ベロチューしまくってんだからもはや恋人同士だろ~が」
「そうですか。話を戻しますね。先輩の爆殺の方法についてですが」
「話を戻せや!!」
「草太の前に現れた少女は、アマネクを名乗っているとはいえ、どう見てもかつて同じ小学校に通っていた
「大好きだったはずのものが、自分の中でどうでもいいものに成り下がっていたことに気づく瞬間、虚無だよな……。とてもつらい」
「草太は、天音と一緒にいることで自分の中の喪われてしまった部分を直視してしまうのが苦しくて、天音を遠ざけようとします。でもこの天音、めちゃくちゃグイグイくる。無気力な草太を元気づけようとしているらしく、さまざまなアピールを繰り返します。草太のお腹が鳴ったら食事をつくってあげたり、寂しそうだからと添い寝してあげたり……」
「アマネクになる前の天音ちゃんはどういうロリっ娘だったの?」
「そこなんですよ。小学生時代、草太と天音はそこそこ仲の良い友達だったんですが、その頃の天音もグイグイくる子だったんです。常に自信がみなぎっていて、行動のひとつひとつに信念があり、困っている人を助けずにはいられない。そして、いつでもニコニコ笑っている。現在でもそれは変わっていないのに、なぜか言動だけがちょいちょいおかしくなっているという」
「なんで宇宙人を自称するようになったんだろ……気になるな」
「草太にとって天音は、楽しかった小学生時代の象徴でもありました。告白したことはなかったし、片思いなのはわかっていましたが、それでも天音と過ごした時間は楽しかった。でも今は。草太はまた会いたいと思っていた天音と再会したのに、嬉しくはない。原因は明白でした。草太を陰気にした、三年前のとある出来事。世界中が最も混乱していた頃にはありふれていたことですが、草太の両親は、草太の目の前で首を吊ったんです。草太は、見ていることしかできなかった」
「ああ……えぐい……」
「それへの防衛反応だと思うんですが、草太は、感情を殺すことで悲しみや苦しみも感じないようになろうとしました。第二章の最後の段落を引用します。『僕は空っぽになることに成功した。これは僕にとっての福音だ。がらんどうの地球が回り、無意味に滅びていく。同じように、どうせ僕も、すべてを喪う時が来る。まったくそれで構わなかった。』」
「章の最後にそれかー、マジで天音ちゃんだけが頼りやん」
「で、第三章。遂に出雲でも大規模な崩落が始まります。草太の家の地盤もゆっくりと沈み始めるんですが、草太は家から出ようとしません。家を捨てて逃げればまだ崩れていない場所で生き延びられる、と説得する天音でしたが、草太はすっかり諦めている。むしろひどく陽気になって、保存食を無節操に開封しては豪勢なパーティーのように並べて『天音も食べなよ』とへらへら笑ってるんです。その時でした。天音がガチギレします。どうせなんて言うな。足掻け。諦めきれてないくせに。……実際にはもっと長々としたやりとりがあります。このシーンは本当に良かったですね……! 先輩が僕の前で犬の鳴き真似をしながら命乞いしているシーン並に良かったです」
「私がレビューの途中で後輩君のツッコミ待ちを挟むところを参考にしやがったな!?」
「天音は草太が実はまだ幸せになりたいと思っていることをとっくに見抜いていました。草太が天音を避けようとしたのは、空っぽの自分を受け入れたくないから。受け入れたくないということは、本当は空っぽになりたくないということを意味する。そう指摘された草太はようやく自分の素直な気持ちに気づくのでした。天音は草太の手を引いて家から脱出します。崩れゆく世界を丘の上で眺めながら、天音は、草太の心を幸せでいっぱいにするぞと宣言した……というところで第三章が終わって、第四章からは本格的なイチャコラが始まります。カラーページのこれみたいな風呂シーンとか、いろいろ」
「アッヒョウ! お風呂えっち回ィ!」
「えっちはしないです。死んでください」
「今の後輩君の言葉を『えっちなんかしてあーげない♡ しんじゃえっ♡』って言い換えるとサドなメスガキ感あってすこ」
「今の先輩の言葉を『後輩に全財産を譲渡する契約書にサインした後、速やかに豚箱へ入ります』って言い換えると自分が神になった感じがして好きですね」
「今日の後輩君、覚醒してない?」
「まだ恐る恐るといった様子で歩み寄る草太と、相変わらず元気いっぱいに励ましてくれる天音。ふたりは急接近していきます。でも互いが互いに恋愛感情を抱いているかどうかは描写されません。雰囲気だけが、どこかラブコメ。草太は天音と肌が触れ合っただけでなんだかぎこちない反応するし。天音はそんな草太が面白いのか、ボディータッチの頻度を増やすし」
「草太君、きっとピュアなんだね。かわいいね」
「で、ラブコメパートと並行してアマネクの謎が深まっていきます。先の展開が気になるように書かれてて退屈しなかったです。あとは、廃墟の遊園地に行くところが印象的でした。草太は自分を醜い人間だと思っているから、天音が一緒にいてくれることが不思議で仕方がない。でも、なんだか心があたたかい。草太は気づかないんですが、読者はここで、草太が幸せになり始めたことを知ります。そして……」
「ああ~来るか? クライマックス?」
「アマネクの謎。滅亡したルシャンシア融合銀河。惑星を蝕む異次元生命体。旧宇宙消滅の理由。〝大いなるさなぎ〟。この世界が辿る、抗いようのない運命……。物語はスケールを一気に広げます。そして草太は、天音のいない朝を迎える。またひとりぼっちになった草太は、心身を引き裂くような切なさによって、ようやく気づくのでした。『僕は、僕はまさか、天音のことが好きなのか?』」
「そっか……! 取り戻せたんだ……!」
「そこからの怒濤の展開はすごかったですよ。正直に言って、僕ですら涙が止まりませんでした。草太は走って、跳んで、空洞の地球へと飛びこみます。もはや地球を救うことなんかできやしない。滅びは不可逆で、楽しかった過去や、死んだ両親だって戻ってこない。それと同じように草太は空っぽのまま終わるはずだった。でも、不可逆をあっけなく覆して、満たしてくれた人がいた。草太は命を懸けます。好きだと伝える、ただそれだけのために」
「ブラーヴォ……(立ち上がり、感涙とともに拍手)」
「まあそんな感じです。これ面白いんで読んでください。卒業祝いにあげます」
「やっぱこのレビュー、先輩様への卒業祝いなんじゃん!! ヌフフォ!! うれしヒィ!! ありがとう、もらうね!! いっぱい使わせていただきます!!」
「使うな。読め」
「いや~~しっかし後輩君がこんなサプライズ用意してくれてるとはね~~。してやられたよ。しかもめちゃレビューうまいやん。私よりうまいんじゃね?」
「どうでしょうね、まあ先輩よりかは気持ち悪くない自信はありますけど」
「ちゃんと読みたくなったよ。後輩君の成長を見られて、先輩冥利に尽きるってもんだ」
「……どうも」
「うん。……あ。チャイム鳴ったね。そろそろ帰らなきゃ……」
「…………」
「日も少しずつ延びてきたね……。まだ外けっこう明るい」
「そうですね」
「この部室、日当たり悪いよね。電灯が壊れてた時期とか、暗くて、目が悪くなりそうだった……つっても私は元々眼鏡なわけだけどさ」
「はい」
「……来年度は部員増えるかねえ。後輩君だけになっちゃうし、何人か確保した方がいいと思うよ。新入生の勧誘、がんばってね」
「わかりました」
「……。…………寒いね、部室」
「…………」
「…………」
「…………」
「……帰ろっか」
「先輩」
「ん?」
「僕、帰りたくないです」
「あ……」
「もう少しだけ、ギリギリまでいましょうよ」
「うん……、うん。……これが最後だからね」
「…………」
「…………」
「……先輩。好きです」
「……、あ……っ」
「卒業した後も、会えませんか?」
「も……もちろん、さ。……ぅ、あ」
「……先輩?」
「ぁ、あはは、なんだろこれ、涙が……」
「……僕のでよければ、ハンカチどうぞ」
「ごめ……ありがと……。……後輩君」
「はい」
「私、も……後輩君が、好き……」
「……はい」
「ずっと、好き、だったんだ……。ぐすっ、ずず」
「……ティッシュいります?」
「ぅあ、ごめん……いる……」
「どうぞ」
「うぅ……じゅる……」
「…………」
「ぐす…………」
「…………先輩の」
「じゅ……、うん?」
「先輩のおかげで、僕、高校生活を耐えられてました」
「……ふふ。なぁんだ……後輩君も、もしかしてクラスではぼっちなの?」
「クラスメイトとは一言も会話しませんね」
「私も。……ふ、くくっ」
「……はは」
「くふふ、はははは……」
「ふっ、はははっ……」
「ふひ……んじゃあ、似たもの同士、傷を舐め合って生きてこっか」
「はい。これからも、よろしくお願いします」
「うん……! あと陰部も舐め合って生きてこう!」
「死ね」
「恋人相手に死を願ってんじゃねえ!!」
「はいはい、帰りますよ(リュックを背負う)」
「ラブホ寄ろうぜ~(リュックを背負う)」
「先輩の、そういうこと言うくせにそういうことする度胸がない甲斐性なしところ、好きですよ」
「喜んでいいのかよくわからないんだが!?」
「え? 今のは罵倒ですけど?」
「私たちさっき恋人同士になったばかりじゃなかったのか!?」
「はっはっは」
「はっはっはじゃないが!! てかその誤魔化し方、『青春なんてクソクソクソクソ愛してる』の登場キャラのコードネーム:チャランポランの真似でしょ」
「根暗で眼鏡な女子の先輩がラノベの話を延々としてくるんですよ」
「悪いか!?」
「いえ、むしろ……」
「むしろ?」
「むしろ、そこが好きです!」
「言ってくれるじゃんこのやろ~!」
【おわり】
根暗で眼鏡な女子の先輩がラノベの話を延々としてくるんですよ かぎろ @kagiro_
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