隅川ブーツ文庫『世界を救えやしない僕と君のラブコメ』(1/2)

「後輩君……」


「何ですか」


「その……私と後輩君が部室にふたりでいられる日は、今日が最後だね……」


「そすね」


「軽いんだよなあ。先輩様はもうじき卒業するってのに、愛の言葉とかねーのかよ」


「愛してる笑」


「鼻で笑いながら言われてもオカズにはならないんだが!? いや、なるか……? ある意味、なる。てか私の方は何度も愛の告白することで恥部を見せてんだからおめ~もそろそろ恥部見せろや。まろび出せや」


「人にものを頼む時は屋上から飛び降り土下座するのがマナーですよ」


「死ぬ!!」


「先輩が死んだら悲しみのあまり後を追って『先輩、滑稽な姿勢で死んでましたよ、笑』って言いに行きますね」


「…………………………ねえねえねえわかりにくいけどいま後輩君デレたでしょ。デレたよね? 私を死後もひとりぼっちにさせないために後を追ってくれるってことでしょ? ねえ?」


「いや、それだけ言ったら三日後あたりにサクッと現世に甦るので……」


「キリストか?」


「僕に右の頬を叩かれたなら、左の頬も差し出しなさい」


「残虐なんだよなあ。はあ……最後の文芸部活動日くらいデレッデレになってもいいのに平常運転でつね……。少しは感傷に浸らせてくれよ。ってわけでやります、二年間の振り返り!」


「僕が入部してから今までの回顧ですか」


「いや~いろいろあったよね。私が紹介したラノベもたくさんあったしね。私としては個人的おすすめラノベは全部紹介しきった感あるから満足なんだけれども。中でも思い出深いのは……んー、なんだろ」


「僕としては先輩と初めて会った時のアレが印象に残ってますね」


「アレ? ああ~はいはいはいアレね。そういやあんなこともあったよ懐かしいなあ。私と後輩君との出会いは、そう……私が部室で幼女キャラの耳舐めASMR聞きながらんほおんほお言ってた時のことだった……」


「回想の入り方が最悪なんですよ」






   ~2019年4月~






「失礼します。文芸部に入りたくて来たのですが」


「んほっ♡ んほほ……むっほ♡」


「…………」


「あっひ♡ あへ……あへぇ……♡ ……ん?」


「ええと……」


「…………」


「…………」


「………………入部希望者ですか?」


「いえ。違います。それではさようなら」


「待って待って待って! 違うんです! 今のはただローリエちゃんの耳舐めASMRを聴いていただけで! いやそうじゃなくて! 私は怪しい者じゃありません! 一応文芸部の部員なので! 清楚な文学少女なので!」


「変態部の変態……? 変態な文学変態……?」


「変態だということは否定しないですけどね!」


「清楚と矛盾してません?」


「そんなことはないですよ。様々な性質が重なり合って共存しているのが人間ですから。例えば私は今こうして饒舌にしゃべっているけれど、それはあなたに恥ずかしいところを見られてしまった羞恥をごまかすためであって、本来ならば私は根暗なオタクで、口を開けば早口でしゃべり出すことを中学時代にネタにされて以来学校にいる間は心を閉ざしてる女なんすよ。説明したらすごいつらくなってきた。どうして私は見知らぬ後輩にこんなことをしゃべってるんだよ。たすけてくれ。しにたい」


「……見知らぬ後輩だからこそ、なんじゃないですかね」


「え?」


「僕も暗い人間だからわかりますけど、初対面の人だけには饒舌な人っていますよね。関わり合い続けたり、同じ環境に居続けたりしたら距離感が遠くなっていって、友達は結局つくれないタイプの、コミュ障の一種。それもあるんじゃないですかね……僕がそうなんですけど。もし先輩もそうなのだとしたら、気持ちわかりますよ。つらいですよね」


「そ……そっか。わかってくれるんだ。わかって、くれてる……。……。…………」


「まあ……でも部活には入らないんで。僕はこれで帰ります」


「ま、待って!」


「はい?」


「あ、あの……もう少しだけ、検討してくれてもいいんじゃない? 例えばさ、ええと、文芸部に入れば、ラノベオタクの私からいつでもラノベ情報を聞き出せるよ?」


「ラノベあんま読まないんですけど」


「ええ!? もったいない! でも幸せな人だね、奥が深いライトノベルの世界をこれから初体験できるわけだから……! そうだなあ、後輩君はどんな小説なら読むの?」


「うーん……ジャンルとかそんな気にしないし、そこまで小説が好きってわけでも……。けどまあ、純文学よりは大衆向けの……SFとかミステリとか読んだりします」


「ふむふむ。じゃあ、去年に日本SF大賞を『ゼウスの視座』で受賞した昏橋くらはしろうは知ってる?」


「まあはい。ゼウスの視座、読みましたし面白かったです」


「なるほどね。んじゃ、はいこれ。昏橋楼の最新作『骸の御霊のエイベルヒルト』ヴァヴァヴァ文庫」


「え」


「ラノベレーベルでも作品出してるんよ、あのスーパー作家。興味を持つきっかけにしてほしいな。それにね、後輩君。もちろんラノベはそれだけじゃない。たくさんの、可能性に満ちた物語がきみを待っている。異世界に転生して最強の力を手にし、神をも打倒し突き進む戦記。VRのオンラインゲームをプレイしていたらバグの世界に飛ばされ、仲間とともにサバイバルする冒険譚。世界から消えてしまう運命にある儚い少女と、そんな少女に恋をした普通の少年が織りなす切ない短編。滅亡した世界にたったひとり残された少女と、彼女に付き従うロボットの旅物語。私はね。ラノベが全部好きなんだ。もちろんつまらないと感じる作品や、認められない作品もたくさんある。でも、いつでもワクワクをくれるライトノベルの在り方が、私は大好きだ」


「…………」


「後輩君。きみを沼に引きずり込むことは容易い。高校生活の中で何か好きなものを見つけたければ、この文芸部に来るといい。私が後輩君の道しるべになって、必ず、きみの生活を充実させようじゃないか」


「………………はあ。もし僕が、ラノベオタクになんてなりたくないと言ったらどうしますか?」


「その時は、私が脱ぐ」


「は?」


「冗談さ。でもな~、きみには素質あると思うんだよな~。だって私と同じで根暗みたいだし~」


「失礼ですね。勝手に仲間意識持たないでください。常軌を逸した暴言を吐きますよ」


「構わないよ、暴言吐いても。本音で語り合える、それが根暗フレンズ! つってな!」


「……。…………。……………………まあ考えておきます。入部するかどうかには期待しないでください。そろそろ帰ります」


「うん。……あ、その、入部してほしいとは言ったけど、それが負担になるようだったら、忘れてもらっていいから」


「はい。わかってます。それじゃ……」


「うん。じゃあ……」






((じゃあ……また))






   ~現在~



「いや~実はあの時から既に後輩君のちんちんに興味があってさ~」


「先輩」


「入部してほしい気持ちと脱ぎたいって気持ちはガチの本物だったんすわな~」


「先輩。あの」


「やっぱ初めて高校で友達ができそうってなるとドエッチな気分に」


「あの、先輩、いいですか。聞いてください」


「え……。う、うん。どうしたの?」


「どういうふうにしようか迷ってました。何か、物を用意しようかとか、当たり障りのない言葉で送りだそうかとか。でも、僕はやっぱり、こうすべきだと思いました。これが一番だって思った」


「こ、後輩君? 真面目モードなの?」


「先輩。これ、読んだことありますか?」


「それは……ブーツ文庫のラノベだね。タイトルは知ってるけど、読んだことはないな……」


「よかった。先輩がまだ読んだことのなさそうなラノベを何冊か揃えて読んでみたんですけど、一番使いたいのがこのブーツ文庫の作品だったんですよね。ちゃんと使えそうで、よかった」


「後輩君……? 使えそう、って……何に?」


「レビューにです」


「えっ」


「今まで先輩が僕にそうしてくれていたように、今日は僕が先輩に向けて、このラノベのレビューをします」


「えっえっ」


「僕なりの角度から、僕なりの感想を言ってくんで……」


「えっえっあっあっ」


「じゃあ、その……始めます」


「あ、あひ」






 隅川ブーツ文庫『世界を救えやしない僕と君のラブコメ』


 ~あらすじ~

 地球内部が不可思議な力で空洞化し、地表は少しずつ崩れ落ちて消滅し始めた。このままでは二年以内に人類は滅亡すると予言されてから五年後、人類はその数を残り0.001%以下にまで減らし、確実な滅びへと向かっている。

 十六歳の少年・草太そうたは、終わりゆく世界を受け入れて滅亡までの時間を静かに過ごすつもりでいた。しかし彼の日常は、宇宙人を自称する少女・アマネクとの出会いで一変する。「私はルシャンシア融合銀河から地球を救いにやってきた」「いや、あんた、同小の島崎しまざき天音あまねだよな?」「地球へ来る時に消費したカオスマターが回復するまで、居候させてもらうとしよう」「帰れ」唐突に始まった残念系美少女とのハチャメチャな生活。草太の胸中は複雑だった。天音は、彼の初恋の相手だったから――――

 終わりゆく世界で、始まらなかった恋が始まる。これはたったのふたりが紡いだ地球最後のラブコメディ。

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