第7話 冤罪を晴らせ
警察まで来て、大変な騒ぎである。
「俺はやってない!」
「じゃあ、何でここにいたのよ!?」
「変な臭いがして来てみたら燃えてたから、消していただけだ!」
「嘘をついてもばれるんだぞ、ああ?」
わたしは、カズが放火をしていないという事を知っている。なぜなら、一緒にいたからである。
しかし残念な事に、わたしにニンゲンの言葉はしゃべれないし、ニンゲンにも猫の言葉は喋れない。どうしたものか。やれやれ。
「にゃにゃにゃ、にゃあ、にゃあ」
わたしはカズの足にすり寄り、警官の足に手をかけ、よじ登ろうとした。
「あ、こら、痛い!
ああ!毛だらけになったぁ」
逆効果だった。しまった。
「俺がやった所を見たのかよ!?」
「あんた以外に誰もいなかったじゃない!」
「君。ポケットの中の物を全部見せてね」
「タバコ?」
「チョコレートだよ!身分証明書なしにタバコが買えるか!」
「何でこんなものを?」
「食うために決まってるだろうが!」
カズは切れそうだ。いかんぞ、カズ。冷静になれ。
わたしは辺りを注意深く見廻した。
なぜ人気も火の気もないところで小火が起こったのか。犯人は物凄く足の速いやつなのか?それで、火を点けて走って逃げたのか?
考えた。
真剣に考えているというのに、ニンゲン達がうるさい。
しかも、暑い。
なぜかと振り仰いで見ると、ニンゲンが雨に日に差す透明な傘が逆さまになって庭の枝に引っかかり、中に雨水が溜まっていた。
そして移動してみると、地面に、ゆらゆらと光の強く当たる事を示す点があった。
わたしは枝に飛びついた。
「にゃにゃにゃあん!」
「どうしたチビ」
「わ!ネコが急に暴れ出したぞ」
「何かガスか!?」
バカ者め!良く見るがいい!
枝をゆっさゆっさと揺すると、傘もゆらゆらと揺れ、光の集まった点もゆらゆらと揺れる。
ニンゲン達があっけにとられる中、警察官の、ネコ嫌いじゃない方が言った。
「待てよ。これはもしかして自然発火じゃないか?」
「はあ?班長?」
「収斂火災だよ。金魚鉢とか水の入ったペットボトルを窓辺においていたら、その水が虫眼鏡のレンズの代わりになって、焦点のあったところで火が起こるって事故が頻発した事があっただろ」
それで、彼らは簡易温室を見た。
天井部分のビニールが伸びている。これでは雨水が溜まる事だろう。
「そう言えば、うちも濡れた靴を干していた上にビニール傘を干していたわ。ひっくり返して」
「ああ。じゃあ、事故かもしれませんね」
途端に、カズは元気になり、近所の皆は狼狽えだした。
そしてわたしは、枝から飛び降りて、カズの足元で香箱を組んだ。
「すみませんでした」
「いやあ。それは彼に言ってあげないと」
「すみませんでした」
「……ふん」
「吉本君。君の普段の素行が誤解を招いた事には違いがないんだよ。今回は濡れ衣だったけど、疑われるような事はやめなさい。
大体、学校は?さぼったのかね」
「タバコを持っていただろう、放火しただろうって、停学になったんですよ!」
「それはまた……」
全員が気まずそうに目をそらした。
「私が一緒に言って、無実だと言ってあげるから。な、それでいいな?」
「それなら、まあ」
カズは渋々頷いた。
「しかし、どうしてシガレットチョコを?」
「好きなんですよ、昔から。コンビニで見かけたら懐かしくて。でも、子供みたいでカッコ悪いから、こっそりと食べようと……」
カズは気まずそうに俯いた。
「カッコ悪いもんか。
ん?このかつお節は?これも食べるのか?」
「これはチビのです。いつ会ってもいいように、その……」
「にゃあん」
カズは恥ずかしそうにかつお節のパックを持って、わたしを見た。
目が合い、笑う。
近所の人達も、「いい奴なんじゃ」と思ったらしいのが、表情に出ていた。
やれやれ。見た目や先入観に騙されるとは、世話の焼けるやつらだ。
わたしは背伸びをして、頭の後ろを掻いた。
春日丘町のネコさん JUN @nunntann
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