第24話 終幕

 音楽は止んでいた。もうコンサートも閉演となっている。客席に座っているオーディエンスはとっくに外へと出ていかなければならない。


 終わりの終わり。

 終幕の終わり。

 エンドロールの終わり。

 

 だと言うのに、私は立っている。白い空間の中。


 遠くには機械群が見える。群。それは群れている、まるで、巣を守る蜂のようだ。


 感動する。それは美しくて、繊細で、人をも殺めてしまいそうで。それから、まるでよく研がれた包丁のように輝いている、輝いているから、切れる、よく。耳を澄ませば、ささやかに、けれども緻密な音が。

 けれども、それは破壊しなければならない。理由はわからない。覚えていない。私はもう、私では無い。考える力を失ってしまった、私では無い私。さようなら、私。


 機械群のある場所まで、歩みを進める。近づけば近づくほど、音は大きくなる。けれども、頭の中のピアノの音をかき消すほどの大きさでは無い。そっと、こめかみに銃口を当てる。誰かが言っていた、いつでも撃てるように、と。


 私は、私に言っていた。海水の入ったバケツは持ち込めないけれど、血の通った自分の体ならば、容易だ、と。自分の体をひっくり返して、ドス黒いペンキをぶちまけれて、それを黒く塗りつぶせば——世界は少しだけ平和になる。と、私は私に言っていた。

 

 だから、さようなら。

 さようなら、地下都市よ。


 さようなら、私。

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地下都市の太陽に嫌気が差した、と言って彼女は笑った Sanaghi @gekka_999

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