第9話 歌い手が見る夢
江戸時代におけるアイドルというと、一つには歌舞伎役者があげられよう。
お目当ての役者を見に、男も女も舞台へと足を運んだ。
歌舞伎役者を題材とした錦絵も人気を博した。手ぬぐいや絵草子などにも用いられたというから、今の時代のポスターなどといったグッズとそう大した違いはない。
江戸時代と今の時代のアイドルを比べた場合、その違いの一つとして電気機器の存在の有無が挙げられる。今の時代ではポスターにしろ、CDやDVDにしろ、大量に生産され供給される。情報についても、インターネットを筆頭に、テレビ、書籍などで拡散される。
この時代には、電気機器が無い。無いというと語弊があるが、実際は、非常に少ない。
鈴原梨恩(スズハラ リオン)は、アイドルという職業に就いている。この時代でアイドルという仕事が成り立つのは、需要があるためである。
最も多い仕事は、ライブ活動であった。東京国内には、そのような施設がいくつかある。それらは、今の時代よりは小規模ではあるものの、照明器具やスピーカーも備えており、同時に千人ほどの客を相手にできる。無論のこと、大量の電力を消費するため、ライブの実施には関係各省への許可申請が必要である。
その日は八月某日。時刻は十四時。夏の暑さが厳しい。ライブは炎天下の中、渋谷区にあるで大きい公園でライブが行われた。夏場では、屋内でのライブ活動は行わないのが通例である。ほとんどのライブ会場には空調設備が無いため、屋内では熱中症で体調を崩す者が大量に出るからである。
梨恩は濃い青を基調としたスカートとブラウスという衣装で踊っている。その歌の間奏部分であった。
梨恩がウィンクをして片手を大きく振り上げると、観衆が盛り上がった。
屋内なので、歓声がこれでもかと反響し、うるさい。
梨恩がくるりと回ると、腰ほどの黒髪もふわりと回る。
梨恩の姉、鈴原清祢(スズハラ キヨネ)が、舞台の袖で、梨恩を見守っている。
その表情は、不満げである。
間奏が終わり、梨恩がマイクを口元に近づける。
より一層、観衆たちが盛り上がったが、歌が再び始まった途端、清祢は顔を満足気にし、頷いた。
梨恩の歌声の出来には満足している。
舞台の上で、梨恩が楽しそうに歌っている。
十六時になり、ライブが終了になった。日が落ちるより前にライブのセットなどを撤収しようと、スタッフたちが躍起になって片付けを始めている。
梨恩は控室に戻り、衣装から私服に着替えた。梨恩の私服は、和服である。汗をタオルでふき取って、藤色の浴衣に袖を通すと、すっかり涼しげになった。
が、その腰帯には刀が一振り差さっている。一尺七寸の中脇差である。
浴衣は、刀を差せる作りにはなっていない。腰帯に差すには、鞘を腰帯に巻き込んだ上で通常よりもきつく締めなければならない。が、梨恩はやってのけている。絶対に浴衣は着たいし、絶対に刀は身に着けるのだという気持ちの表れである。
清祢が呆れた顔をしている。その顔のまま、手に持っていた刀を梨恩に渡した。
長い。三尺三寸。多種多様な打刀に対し、平均というくくりはおそらく誤った見方であるが、それでも打刀の平均の長さはどれほどかというと、二尺と二寸か三寸ほどであろう。一尺は約30センチメートルである。千円札の横幅が15センチメートル丁度だというから、それなりに長い。
浴衣姿で中脇差を腰に差し、長刀を手に持ち、梨恩は安堵した表情になった。
「止めなさいよ。アイドルに刀なんて似合わないわ」
清祢が非難するが、梨恩は気にしない。
「私には必要なの」
にっこりと笑う。
鈴原梨恩、十六歳。
普段はアイドルを生業とする少女であるが、同時に、剣志隊隊士でもあった。
スタッフたちが撤収作業をしている中を、梨恩と清祢が歩く。
梨恩は帰るつもりだが、清祢は帰らない。スタッフたちが仕事を終えた後、ライブ成功を祝して酒の席が設けられる。
これは祝賀の他に、次の仕事を生む場でもある。ライブには関わっていないものの、芸能関係者が多数出席するため、清祢は彼らと話をするのである。清祢の今日の仕事は、まだまだ終わらない。
「梨恩も出なさいよ。大事な場になるのよ」
と清祢は言うが、梨恩はいつものようにかぶりを振る。
「ごめんなさい。家に帰って、剣の素振りしなきゃ」
「あなたは、アイドルなのよ。歌って、踊って、みんなを楽しませるのが仕事なの。そんな野蛮なことは、もうやめなさい」
「駄目。私は、剣志隊の隊士なんだから」
この事は、梨恩のファンの中でも有名だった。市井を守るために剣を振るう武芸者がアイドルをやっているという事が、最初のうちは話題になったのである。梨恩が剣志隊隊士でなければ、今日のような人気は得られなかったかもしれない。
珍しかったのだろう。
確かに珍しい。
普段は学校にも行かず、アイドルに関する活動ばかりしている梨恩は、剣志隊の道場に顔を出すのは二週に一回ほどである。
剣の稽古をおろそかにすれば、そのまま武芸の低下を招く。
そんな者が剣で争闘に挑めば、命を落とす。
それは、剣志隊隊長の武井初芽(タケイ ハツメ)の望むことではなかった。
そのような者を見つけると、初芽は抜き打ちで竹刀の試合をさせた。相手は自分である。
大抵の場合、審判役の隊士の「はじめ」の声と同時に、初芽は素早く真正面から面を打ち、その後に除隊を命じた。そのような腕ではいずれ無駄に命を落とす、というのが理由である(たとえ、普段から稽古をしていたとしても、初芽の初太刀をはずすことができるだろうか、と隊士たちは考えているが)。
入隊した後も、まともに稽古に来ない梨恩は、早々に初芽に呼び出された。
また除隊だな、とどの隊士も思った。アイドルをやってるような奴が、箔でもつけるために入隊したのだろう、と思っていた。
面篭手をつけた初芽と梨恩が竹刀を手に向かい合う。蹲踞し、竹刀を構えた梨恩を見た時、初芽は、おや、と思った。面構えが、いつもの除隊される隊士たちと違う、と思った。
はじめ、の声と同時に、だが、初芽は全力で面を打ちにいった。
稽古をサボるような隊士であれば打たれていたであろう竹刀を、梨恩は横っ飛びに避けた。鮮やかだったと言っていい。初芽の竹刀は完全に空を切った。
即座に打ち返してきた梨恩の篭手を払いながら、初芽は、この少女に除隊処分にふさわしくない、と判断した。
数合打ち合い、初芽が篭手を打って一本をとった。
試合が終わり、礼をするその姿にも悔しさが滲んでいて、ますます初芽は気に入った。
試合後に初芽は梨恩に、「これからも励め」と声をかけた。
梨恩は、隊長に言われずとも励むつもりだった。
市井を守る剣士、という自分を、梨恩は気に入っていた。
守る、という事と、アイドルの仕事はそぐわない。
むしろ、梨恩としてはアイドルの仕事こそ、やめたいのであった。
だが、清祢は、梨恩にアイドルの仕事を辞めることを許すつもりはない。命を落とすかもしれない仕事よりもアイドルの方が平和だし、稼ぎも多い。その上、清祢は梨恩のマネージャーであり儲けの元だとも言える。手離す方がどうかしている。
両者の折衷案として、「普段はアイドル稼業をして良いが、剣の稽古は常に行って良いし、剣志隊の仕事もして良い」という取り決めがなされた。
そのため、ライブの仕事を終えた梨恩は、早々に自宅に帰り、剣の稽古や運動をして良いことになっている。
たとえ、アイドル稼業としては、この後の酒の席に出た方が明らかに有利だとしても、梨恩は平気でそれを蹴ることができるのだった。
清祢の責めるような目を背中に感じつつ、梨恩は出演者の控室を出た。
ライブ会場に使った建物の中では、スタッフたちが一生懸命に働いている。出口にたどり着くまでの間、梨恩はその一人一人に「お疲れ様」と声をかける。梨恩はアイドル稼業のことも決して疎かにはしていない。
会場を後にし、自宅に向かおうした時、ライブ会場の周りの様子を窺っている女の姿を見た。長い髪を二つの三つ編みにまとめて、ジャージの肩から無造作に垂らしてある。年は、二十を超えたくらいだろうか。眼鏡をかけているのが、少し野暮ったい印象の女だった。
その左の腰に、刀を差している。
梨恩は、自分の左の腰に下げた中脇差と、左手に持つ長刀を意識した。
しかし、斬り合いの時に感じるような冷気は、今は感じられなかった。
この時代、刀をファッションとしている者も多い。少なくとも、女の挙措に、剣客らしいものは見受けられなかった。刀の代わりにハンドバッグを持たせても、今と雰囲気は変わらないように思える。
梨恩は足を止めて、その女をじっと観察していた。
ライブ会場の建物をあれこれ見ていた女は、やがて梨恩の存在に気付いた。
きまずくなったらしく、軽く会釈をして、去った。
梨恩は、それでも、僅かばかり漂っていた緊張を解いた。
追っかけだったのかもしれない。
とすると、狙いは、ライブの出演者である自分だろうか。
梨恩は、アイドルという仕事に熱意が持てないため、アイドルとして扱うファンという存在が苦手である。キャーキャー言われるのが好きじゃないのだ。
梨恩は、今は帽子やらマスクやらで姿を隠そうとはしていない。それなのに、あの女は梨恩に気づかず行ってしまった。
(私以外に、会いたい人がいたのかな)
ふと、清祢に会いたかったのかもしれない、と思った。アイドル志望なので、敏腕マネージャーで通っている清音と話をしたいというのは、理屈が通る。
が、ここで考えても、答えが出るはずもない。
梨恩は頭を軽く振って、女のことは忘れることにした。
今日の夜に、梨恩にはアイドルとしての予定がない。
ということは、この後にどこぞの仕事場に出て何かをするという事がない。
梨恩が剣志隊の道場に顔を出せるのは、こういう日に限られた。
が、道場での稽古は、日が落ちるまでと決まっている。
この日は、ライブが終わったのが夕方なので、日が落ちるまでは一時間もないだろう。
梨恩は、そのほんの少し時間でも構わなかった。一分でもいいから、竹刀を振りたい。
早歩きで剣志隊の本営に着いた時には、そろそろ今日の稽古は終わりだという空気が漂っていた。
道場の中には、まだ七人ほどの隊士がいる。余程の稽古好きか、努力をしている事を他人に見せたい者である。梨恩は前者であった。
面篭手を身に着け、竹刀を手に取り道場に入ると、道場の中にいる隊士たちの視線が梨恩に向けられる。
普段、滅多に道場に顔を出さない梨恩が来た事を知って、ある種の緊張と好奇の雰囲気が満ちた。
梨恩がアイドルであることは、隊士たちも知っている。
ファンもいた。
芸能人がいるとなると、色めきたつのも自然だった。
だが、梨恩はこの雰囲気が嫌いだった。自分を、剣志隊隊士ではなく、アイドルとしての目を向けられるのが嫌だ。
それをはねのけるのは、剣しかない。
梨恩は隊士の一人を捕まえて、「お相手お願いできますか」と問うた。
相手は少しだけ緊張してうなずく。
梨恩はあっさりと突きで一本を取った。
その次の相手には、突きを繰り出してもかわされ、十数合をやり取りし、胴で一本を取られた。悔しいと思ったが、腰垂れの字から、相手が剣志隊副隊長の糸無柚希(イトナシ ユズキ)だと分かると、少しだけ納得した。
その後も何人かと打ち合ったが、一本を取ったり、取られたり。
ふむ、と梨恩は考える。まだまだ腕が足りない。
少しばかり悩んでいると、声をかけられた。
「久しぶりね、鈴原さん。お相手しましょうか」
面篭手をつけているから顔は分からないが、腰垂れの字で分かった。
事務方兼剣術指南役の京本房江(キョウモト フサエ)であった。隊内でも屈指の使い手である。
「ぜひ! よろしくお願いします!」
梨恩は気色ばんで笑顔を向けた。もっとも、面をつけているので、嬉しそうな声しか伝わらなかっただろうが。
梨恩と房江が竹刀を構える。
房江の構えは緊張していない。余裕がある。
梨恩は意を決して、突いた。
房江は竹刀の鍔元でさばく。即座に梨恩の手元に飛び込めば面を打てるが、梨恩はそうはいかないと突きの手をもう手元に引いている。
梨恩は焦らず二ノ太刀、三ノ太刀でも突きを繰り出したが、房江はそれも難なくさばいた。次に梨恩は突きを繰り出すと見せかけ、面を打ったが、房江はそれを素早く擦りあげ、篭手を打った。
完封である。梨恩はがっくりと肩を落としたが、房江が「悪くないよ。以前よりずっと、突きが上手くなってる」と言ってくれた。
房江は面を外して「そろそろ日も暮れるし、宿直でない人は家に帰って」とみなに声をかけた。
梨恩も面を外した。竹刀を振るったのはわずかな時間だったが、汗で髪が濡れている。正直なところ、梨恩も宿直として、剣志隊の宿舎で一夜を過ごしてみたかったが、梨恩は特別に宿直当番は免除されている。清祢からの必死の嘆願による。アイドルとしての仕事もあるため、というのが理由である。そんな状態でも梨恩が除隊に至らないのは、偏に梨恩の熱意と剣の腕による。
シャワーを浴びて汗を流すと、梨恩は元の浴衣に着替え、中脇差を腰に差して長刀を左手で提げて家路に就いた。
梨恩の自宅は、この時代においては豪奢な一軒家である。一階建てではあるが、三部屋に加えて居間まで備えており、広い間取りだった。屋根には大型の太陽電池が備えてあるため、日が落ちても電灯を使うことができる。この時代、二十四時間で電灯を使える家は、非常に稀である。
梨恩は家に着くなりジャージに着替え、庭に出た。
手に持っているのは、長刀である。
三百年ほど前の刀工、原田重命斎(ハラダ チョウメイサイ)による刀。長さは前述した通り、三尺三寸。
重命斎は、名工、天才と言われた刀鍛冶で、かつ、金属工学の学者であった。「丈夫でかつ斬れる刀」を目指し、古くからの鍛冶製法を則りつつ、科学からのアプローチで名声を集めた。「重命斎」という名は、命は大切にするものだ、という口癖をもとに、世間が呼んだ名である。
この時代の商いで扱われる刀剣としては最上級のものだった。
重命斎は、上作には古典文学や短歌などを銘に切ることから、重命斎の作刀のうち著名な刀は歌ノ字とも呼ばれる。梨恩の刀には「陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに」という短歌が刻まれている。これは小倉百人一首に含まれる短歌で、詠み人は河原左大臣として知られている平安時代の貴族の源融(ミナモトノトオル)で、光源氏のモデルの一人とされている。そのため、梨恩の刀は通称「光源氏」とも呼ばれ、刀の辞典にも載っている。
つまり、梨恩の持つ刀は、実用品としての刀として一級品である他に、美術品としても一級品なのであった。
アイドルで大金を稼いでいなければ、十六歳の少女が買えるような代物ではない。
なお、中脇差についても、相当に値が張る。MIHASI製の刀で、一尺七寸。モデル「スティングレイ」。量産モデルの中では、際立って高価な刀で、重ね(厚み)が通常よりも薄い。肉を薄くすることで軽量にし、より俊敏に扱うことを目的とした脇差である。その分、耐久度が落ちるため、長丁場には耐えられそうにはないが、高価な分だけの切れ味と、軽量なための扱いやすさから、梨恩はこの刀を二本目の差料に選んだ。
梨恩は長刀を青眼に構えると、日課の反復横飛びを始めた。前後に百回、左右に百回。剣志隊に入りたいと思い始めてから今日まで、仕事がどんなに忙しくても、体調が悪くても、一日も欠かしたことのない日課である。
それを終えると、梨恩は汗びっしょりになった。
しかし、休まない。
庭の端に立つと、刀を突きの形で構えた。
地を蹴った。
庭の端から端までは、およそ十メートル。それを全力疾走する。ごく短い短距離走という具合である。
それを、百回。これも日課として欠かしたことがない。
全てを終えると、居間に戻り、冷蔵庫から冷たい水の入った水筒を取り出し、一気に飲み干した。
日課のせいで、梨恩の体は鍛え上げられており、うっすらと筋肉の隆起すらある。清祢はそれを嫌った。体を鍛えるのはいいが、誰もアイドルの筋肉など見たくない。覆えるように贅肉もつけて欲しい、とよく言われる。甘いものを無闇に勧められたりもする。
梨恩としては、まっぴらごめんだった。
贅肉などあれば、剣を振るうのに支障が出る。
自分は剣士なのだ、という確固たる意志があった。
喉を潤した梨恩は、体のすみずみをストレッチし、寝ようかと思ったところで、次のアイドルの仕事を思い出した。数日後、新しい曲のミュージックビデオの収録があるのだった。今日は振り付けを一通り覚えないといけない。明日にレッスンがあるからだ。
ああ、と梨恩は溜息をついた。まだ眠ることができない。
梨恩は剣士であると確固たる意志を持っているが、同時に、アイドルであるという意志もあるのだった。
翌日、梨恩はベッドの上で目を覚ました。
パジャマ姿である。
右手には、鞘に収まっている「光源氏」を握っていた。夜盗やストーカーが家に乗り込んで来ることを警戒しているのもあるが、鞘を握って寝ると、とても気持ちが落ち着くのだった。
少し変だろう、と梨恩は自分でも思っている。
梨恩に玩物趣味はないが、しかし愛していると言ってもよいのかもしれない。
ベッドから降りると、私室を出た。
隣は、清祢の部屋である。
ドアをそっと開けると、清祢がスーツ姿のまま眠っていた。きっと、昨夜は遅くまで祝賀会をやっていたのだろう。忙しかったに違いない。
もしかしたら、新しい仕事の話があったかもしれない。
梨恩は嘆息を漏らすと、リビングで朝食の準備に取り掛かった。
清音が起きるまでに朝食の準備をするというのも、梨恩の日課であった。
日課だらけだ。
自分はきちんと、昨日よりも進歩できているだろうか、と自問する。
少し、自信が無い。
今日の朝食は、トースターと目玉焼きと決めた。
作り終えて、コーヒーを淹れようとしたところで、清祢が目を擦りながらリビングに現れた。スーツからは着替えて、パジャマ姿だった。朝食の後は、シャワーを浴びて、またすぐに仕事だろうに。
「おはよう」
まだ眠そうに清祢の目は半分ほどしか開いていない。テーブルについても、すぐにまた眠ってしまいそうな姉を見て、梨恩は楽しそうに笑顔を浮かべた。
二人でテーブルにつき、いただきますと挨拶をして朝食を摂った。
「今日のお振り付けのレッスンて、場所はどこだっけ?」
梨恩がトーストをもぐもぐしながら言っても、清祢は目を伏せたまま、ベーコンをフォークで刺そうと苦戦している。ベーコンが薄いものだからうまく刺せないのだが、それよりも眠いからというのが理由だろう。
「ねえ、お姉ちゃん。どこだっけ? 日本橋のスタジオ?」
清祢は答えない。というより、聞こえていない。眉の間にはっきり皺を寄せて、フォークでベーコンを苛めている。
梨恩はすっかり膨れて、唇を尖らせた。
「いいもん。後で、スケジュール帳見て自分で確認するから」
トーストに戻った梨恩を見て、清祢は眠かった目を大きく見開いた。
拗ねてるような顔でトーストをかじっている梨恩を見て、清祢は目をとろけさせた。
(可愛い!)
清祢はそんな事を考えている。
(こんな可愛い顔してるんだから、アイドルが天職に決まってる!)
梨恩をアイドルに仕立て上げたのは、清祢である。
梨恩が小学五年生の時、学芸会の演劇で「かぐや姫」の主演に抜擢され、その演技を観客席から見た時、高校一年生だった清祢は衝撃を受けた。あの子は人前に出るべきだ。きっと、見る人を満足させる仕事ができる。
小学校を卒業するのを待ってから(学業を疎かにさせるつもりは無かったが、一刻も早く妹を芸能人にしたいという気持ちもあったので、その間を取ったというのが、小学校卒業だった)、芸能プロダクションに応募させた。
書類審査を通過し、プロダクションのスカウトマンが会いたいと言ってきても、清祢は当然だという気持ちだった。実際に会って、事務所の所属タレントになって欲しいと言われても、清祢は当然だという気持ちだった。
タレントになった初めての仕事はアイドルの後ろでコーラスにするというものだったが、その撮影を見に来ていた某音楽プロデューサーの目に止まり、歌ってみないかと声をかけられた時は、さすがにうまくいき過ぎて、清祢は少し不安になるくらいだった。
だから、梨恩がどこかで剣道に興味を持ち、剣志隊に入りたいと言い出した時は、夜の町で幽霊を見た時よりも驚いた。まさか、そんな。なぜアイドルが日本刀を持った公務員になりたいと言うの!
清祢は高校を卒業すると、梨恩が所属するプロダクションのマネージャーとして勤め始めた。自分こそが梨恩の才能を咲かせることができると思っていたのも理由であるが、それ以上に、梨恩の剣志隊隊士になるのを阻止するためでもあった。
清祢は、最初は強硬に止めた。だが、梨恩は一切止まらなかった。清祢は次第に怒りだしたが、それでも梨恩は止まらない。しまいに清祢は泣いて止めたが、やはり梨恩は止まらなかった。もはや、マネージャーとしての清祢でも、姉としての清祢でも、人生の先輩である清祢をもってしても、梨恩を止めることはできなかった。
中学校にまともに通わず、歌、ダンス、演技の勉強をしながら、梨恩は剣志隊に入隊すべく、剣道の稽古と勉強を始めた。剣道については、清祢からしても、いつ寝ているのかというくらいに熱心だった。
剣道を始めて一年が経ち、剣志隊の入隊考査を受けた時には、頼むから不合格になってくれと清祢は本気で祈ったが、願いは届かなかった。合格通知を受け取り、全力で喜んでいる梨恩を見て、清祢の心中は複雑だった。
正式に剣志隊の一員となった後は、時間を作っては剣を帯びて市井の巡察に回っている。清祢からすれば、いつ悪漢に殺されてしまうか気が気でない。
それでも、梨恩は剣客としての自分を誇りに思っている。清祢では、何をしたとしても梨恩から剣を奪うことは出来そうになかった。
「お姉ちゃん、早く食べて。時間は覚えていないけど、そんなに遅い時間じゃないでしょ。早く支度しなきゃ」
梨恩に声をかけられて、清祢ははっと意識を現実に戻された。
見れば、梨恩はとっくに朝食を食べ終えて、食器を台所に運んでいる。
清祢も急いで朝食を口に運び始めた。
出足が遅れた清祢が化粧をして外出する支度をしている間に、梨恩はスケジュール帳で今日のダンスのレッスンを行う場所を調べておいた。
記憶通りに、日本橋であった。レッスンとは呼ぶものの、収録内容のテストや、カメラリハーサルなども同時に行う予定である。セットも組まれつつあるので、その隙間でレッスンを行うことになるだろう。
梨恩と清祢が住むこの家は、旧東京駅の近くである。日本橋までは、歩いて十分もかからない。清祢が油断しがちなのも、これが理由なのだろうと梨恩は思った。
清祢がいつものスーツパンツ姿になると、梨恩も浴衣姿になった。いつものように中脇差を腰帯に差し、「光源氏」三尺三寸を左手に持っている。必要な衣装などは日本橋のスタジオに用意されているので、特に持っていかなくてはいけない荷物はなかった。
二人で連れ立って日本橋のスタジオに向かう。
この日もよく晴れていて、日差しが強い。清祢は何度も、辛そうにハンカチで汗を拭っていた。
梨恩は汗を一滴も流さず、平気な顔で歩いている。外部要因で容姿が崩れることがないというのも、梨恩のアイドルたる能力の一つかもしれない。だが、梨恩は自分に対して、汗をかかないということは夏でも剣の闘争に支障がない、という風にとらえていた。
スタジオに着くと、清祢は慣れた様子で受付に行く。分厚い鉄製の戸の他には、カウンターがある。カウンターの向こうには対応を行う女性が椅子に座っている。他に、鉄製ドアのすぐ横に、屈強な男が一人、槍を持って立っている。スタジオを守る守衛であった。梨恩と目が合っても、軽く会釈をする程度という徹底した無愛想である。その体つきから、かなりの使い手だと梨恩は見ていた。真剣でやり合っても、果たして勝ちを取れるかどうか。
受付をしている女性は清祢のことを見知っていた。「お待ちしていましたよ」と言いながら、入館者を記録するノートを清祢に渡す。
清祢はさらさらと自分と梨恩の名前を書きながら、「他の人はもう来てる?」と聞いた。
「設営スタッフはみんな揃っていますが、先生はまだ来ていません。練習する時間なら、まだありますよ」
「良かった」
と言うのも、指導をしてくれる先生が来る前に、清祢は必ず梨恩の歌やダンスの出来を見ておきたいのである。プロ意識が高いと言えばそれまでだが、それ以上に清祢は過保護なのであった。
カウンターの奥から女性が見えなくなり、しばらくして鉄製の戸からカチリと音がした。守りが厳重である。このご時世、いくらかの金があれば、たいていはこの程度の守りは備えているものだった。
清祢に続いて中に入ろうとしたところ、梨恩は横目で人影に気づいた。
昨日、ライブが終わった後に見かけた女が、今もいる。昨日と同じ服装で、同じように左の腰に刀を差している。受付を、じっと見つめていた。
「梨恩。早く」
声をかけられて、梨恩ははっと気づいて清祢の後に続いた。
鉄の戸をくぐる直前にもう一度女の方を見た。
女が、じっと梨恩の方を見つめている。
(見ているのは、私なのか)
梨恩には判断がつかなかった。
スタジオの中に入ると、細い廊下が先まで伸びている。すぐ左が、受付ある部屋である。中は八畳ほどあてって、広そうである。
廊下の奥には、等間隔に戸がいくつか並んでいる。それぞれが、スタジオで働く人たちの休憩室や、タレントたちの控室になっている。
梨恩と清祢はまっすぐに廊下を進んだ。
その途中、何人かのスタッフと思われる男とすれ違った。梨恩と清祢を見て「お疲れ様」と頭を下げる。その様子には、ただのタレントやそのマネージャーを相手にする態度の他に、畏敬の念が見てとれた。梨恩が左腰と左手に持っている日本刀のせいであろう。梨恩のファンの間で、梨恩が剣志隊の隊士であるというのは、スタッフたちにも周知の事実である。
廊下の突き当たりには、両開きの大きな扉がある。
それを開けると、スタッフたちがセットを組んでいるのが見えた。
レストランの店前を模したセットだった。
清祢がスタジオの中を見渡すが、「本当に先生は来ていないようね」と言った。
スタッフの一人が梨恩と清祢の二人に気づき、近づいてきた。
「お疲れ様です。鈴原さん」
梨恩はいつも思うが、自分も清祢も苗字は同じ鈴原なので、名前で呼んで欲しいのだが、そのようなスタッフは一人もいなかった。そのため、姉と一緒にいる時は、スタッフは必ず清祢の方に話しかける。
もうアイドル稼業を始めて数年経つが、心のどこかで馴染めていないという気持ちがいつまでも消えない。その一因はこれだと思った。
「衣装が届いてます。レッスンは、衣装でしますか?」
「いえ、レッスンはこっちでするわ。控え室は何番?」
「二番です」
清祢が梨恩に、
「じゃあ、着替えてきて」
「うん」
「刀、私が預かっておくわ」
「いいえ。私が持ってる」
梨恩としては、刀が自分の目から離れるのは、日頃から可能な限り避けている。
スタジオを出て二番の控室室に行く。
戸には、「鈴原梨恩様」という貼り紙がしてあった。
中は、ごく狭い部屋である。大きな鏡を備えている化粧台と、あとは畳が二枚敷いてあった。
壁にハンガーがかけてあり、そこに衣装が下がっている。赤い色を基調とした、西洋レストランの店員の制服を模したドレスだった。きわどい丈のミニスカートに、給仕をするには派手過ぎるブラウス。ご丁寧に、腰にはエプロンまで巻いている。
手に取って、梨恩は少し眉をひそめた。ブラウスの肩が大きく開いていて、胸のラインもかなり際どい所まで降りている。大きな胸であれば、さぞかし映えるであろう。
(むー……)
梨恩も、自分では、それなりに育っているとは思う。が、この衣装をデザインした人は、かなり大きな胸の女性をイメージしていると予想できた。
アイドルとしての自分には、一切の期待を持ってはいないが、姉やファンの期待に応えたいとは思っている。なので、胸が大きい方が喜ばれるというのであれば、そのようになりたいとは思ってはいるが、如何せん、筋肉や剣術と違い、これをしたら大きくなるという方法は思いつかない。こればかりは、まだ残されている成長期に期待するしかなかった(もっとも、同じ成長期には、刀を振るうために骨格や筋肉の成長への期待の方が大きかったが)。
衣装に着替えた梨恩が、来た時と同じく刀を手に提げたまま清祢がいるスタジオに戻る。
ふむ、と清祢が満足そうに頷くが、梨恩が持つ刀に眉の間を曇らせる。およそ、アイドルらしからぬ装いだった。
「しばらくしたら、ダンスの先生が来るわ。それまで、おさらいしておくわよ。振付は覚えた?」
「昨日の夜にね」
「よろしい」
梨恩は刀を目のつく壁に立てかけて、そのすぐ横でダンスを始める。いつ、いかなる者が襲撃に来ても、すぐさま刀を掴める距離である。
清祢の手拍子に合わせて、梨恩は手足をきびきびと動かし、笑顔を浮かべ、振付師が意図した可愛らしさやら華憐さやらを体全体で表現した。剣士であるところの梨恩は、体を動かすのは嫌いではない。ダンスはアイドルの仕事の中でも梨恩の好みだった。だが、それよりも歌う方が好きだとも思っているので、なかなかうまくいかない。
曲の振付を三巡したところで、スタジオに入ってきた女性を見て、清祢が体を強張らせたのを梨恩ははっきり感じ取った。その理由は、スタジオの薄暗い照明でも顔がはっきり分かるくらいに女性が近づいた時に梨恩にも分かった。
現れたのは、ダンスの振付師、兼、ダンスの指導者である、木宮希実枝(キミヤ キミエ)。年齢は31歳と聞いている。その割には、服装が若いが、少々無理をしているようにも梨恩には思える。
希実枝は、以前、今回と同様に、梨恩のダンスの振付と指導を担当したことがある。その際、希実枝と清祢は、いわゆる「クリエイティブ」において衝突した。清祢が梨恩に踊らせたいダンスの内容と、希実枝が梨恩のために考えたダンスの振付内容に齟齬があったのだ。どちらも、自身をプロと自負し、相手の意見で自分を曲げる性格をしていなかったのが不幸の始まりだった。
その時は、希実枝の自宅でレッスンを行ったのだが(これも、見栄っ張りと言えるような一人暮らしには不要なほどに広い家、と梨恩は思っている)、落ち着いた声音で、しかし断固と言い合う清祢と希実枝の剣幕に、梨恩は随分と居心地を悪くしたものだ。その仕事はなんとか無事に完了したが、その後に清祢は「二度と、あの人とは仕事はしない」と言っていた。
そんな事が過去にあったので、梨恩は希実枝にもう一度会うことは無いと思っていた。
希実枝も、そのいきさつははっきり記憶しているらしく、スタジオに入った時から険しい顔をしていた。梨恩からすれば、なぜこの仕事を引き受けたのだ、と思うばかりだった。
清祢も考えることは同じであったが、もう一つだけ腑に落ちない点があった。
「なぜ、木宮先生がいらっしゃるんでしょうか。今回のダンスは、照本先生にお願いしたはずですが……」
照本のことなら、梨恩も知っている。愛想が悪い40過ぎの男性で、細いというよりは筋肉質な振付師だ。愛想が悪いというのは、愛想を振りまくのが苦手なだけで、見た目の印象に反して愛情深いと梨恩は思っている。
希実枝は、当然それを聞かれるだろうという顔をして、
「照本先生が急に風邪を引いて、連絡が来たんです。照本先生には、前回のあなたとの仕事の話はしたことないようですね」
清祢があからさまに嫌な顔をした。その話をしておけば良かった、という顔である。
「当人がいない所での批判は、私の信条に反するもので」
「良い心がけですね。ご不満なら、私はもう帰りますが」
それが出来ないというのは、清祢も分かっている。収録は二日後で、今から別のレッスンをしてくれる先生を探すには時間が無さすぎる。そして、ダンスのプロの練習を経ずに本番に臨むというのはアイドルにとってはあり得ない。練習と、確かな経験を積んでいる第三者の目が無ければ、良い仕事はできない。
急な体調不良により担当が変わるというのも、無い話ではない。希実枝も、この業界内で評価が低い人物ではなく、ただ清祢と反りが合わないというだけだ。同じだけの評価の振付師同士で、こうした仕事の振り替えを行うのは、仕事に穴を空けないためにも必要なことだった。今回不幸だったのは、清祢と希実枝の仲が悪いということだけである。
清祢は下唇をぐっと噛みこんでから、言いたい文句を全て喉の奥に飲み込み、絶死の決意のもと、絹糸のように細い声で答えた。
「希実枝先生、ダンスのご指導、よろしくお願い致します」
その後の二時間は、梨恩にとっては八寒地獄に落とされたも同然の心地だった。
希実枝によるダンスの指導に、清祢がいちいちと注文をつけるたびにレッスンは中断する。
清祢の注文が、梨恩に踊らせるダンスの振付にとってどれだけ良くないかを希実枝が淡々と説明するが、それで納得などするはずもない清祢がさらに注文を重ねる。こんなことでは二時間では足りないと希実枝が言えば、それはあなたの指導力不足ですねと清祢が言い返す。
最大被害者は、間違いなく梨恩であろう。ダンスに熱意は向けられるとはいえ、剣道のそれとは比べるべくもない梨恩にとって、早く終わらせたいレッスンがこんなやり取りで長くなっていくのは、一秒が一夜に感じられるほどの苦しみだった。
通常なら、十分で二巡はダンスを終え、そこからさらにより良くするための精査と検討を重ねるのがレッスンではあったが、二時間かけて二巡するのが精いっぱいだった。
帰り支度をする希実枝を、清祢は害虫のような目を向けていた。
「照本先生は、まだ明日には回復しないんですよね」
希実枝は清祢に目を全く向けないまま、
「今日、お会いした限りは無理でしょうね。念のため、明日、もう一度確認はしますが、レッスンが出来そうもなければ、また私が来ます」
「今日のレッスンで十分では無いんですよね」
「それは、そうでしょう。あなたがあんなにレッスンを中断しなければ、十分だったかもしれませんが」
これに清祢は何かを言い返そうとしたが、日本刀を喉から飲み込むような顔をして、文句を飲み込む。今日何度目かも分からない。
ここで無理に「十分だ」とレッスンを打ち切れば、この先生は方々で「勝手に仕事を止められた、あの女はろくでもない」と言いふらされる。一部は希実枝に非があるとして受け止めるだろうが、一部は清祢に非があるとして受け取るだろう。今後の仕事に支障が出るのが明白である。
「では、明日もよろしくお願いします」
清祢が深々と頭を下げたので、慌てて梨恩もそれにならった。清祢が下げた頭でどんな顔をしているのか、梨恩は恐ろしくて目を向けることもできなかった。
希実枝は二人に何か声をかけることもなく、軽く会釈をして、背を向けた。
スタジオを出て行こうとする希実枝の背中を見送る清祢は何を考えていたか。小銃があれば引き金を引いていたかもしれないし、弓矢があれば、矢をつがえて引き絞っていたかもしれぬ。
希実枝がいなくなったあと、清祢はふんと鼻を鳴らした。
「すまわないわね、梨恩。こんなことになってしまって」
清祢も、梨恩に辛い思いをさせていることは重々承知である。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
梨恩としては、そう答えるのが精いっぱいだった。
梨恩が控室で衣装から私服の浴衣に着替えている間、清祢はスタジオにいるディレクターと、本番前までの段取りを詰めていた。その時には、清祢の不機嫌は表に出ない程度には収まっていた。
梨恩が着替え終えて、腰に中脇差を差して「光源氏」を左手に掴んでスタジオに戻った時には、清祢にはいつもの笑顔が戻っていた。
「明日も同じ時間よ。明後日は、カメラリハからスタートで、収録。オーケイ?」
それで、梨恩もちょっとばかり安心できた。
「うん。分かったよ、お姉ちゃん。明日も頑張るね」
二人は、スタッフたちに声をかけながらスタジオを出て、帰路に就いた。
希実枝は自宅に戻るなり、苛立ちを手に持っていた革のバッグにぶつけて、思い切り床に叩きつけた。
前述したとおり、女の一人暮らしにしては広い家である。玄関で靴を乱雑に脱ぎ捨てると、足音を鳴らしながら廊下を進み、居間に入った途端に、置いてあるソファを思い切り蹴りつけた。
居間にある調度にはどれも金がかかっている。見栄っ張りと判断するのは簡単だが、そうなったのは、二年前に夫を病気で失ってからであった。それまでも、穏やかで慎ましいとは言えなくても、今ほど仕事で他人に当たり散らし、休みには高価なものを買い漁るようなことはなかった。
清祢は、明日も希実枝のレッスンを梨恩に受けさせるのは御免被るという気持ちであろうが、それは希実枝も同様だった。ただ、仕事仲間の体調不良に手を貸さないといったことをしていれば、いずれは信用を失い仕事も無くなる。希実枝としては、なんとか怒りを腹に収めるしかない。
だから、その時、希実枝の自宅を、その弟の木宮稔侍(キミヤ ネンジ)が訪れたのは不幸だったかもしれない。
希実枝は、別の仕事のため振り付けをしたためようかとも思っていたので、何者かがドアを乱暴に叩いた時、さらに苛つきが増した。目の粗い紙やすりで、頭の内側をごしごしと磨かれる心地だった。
「姉さん、出てくれよ。ちょっと、手持ちの金が無くなったんだよ。出て来てくれよ」
金の無心はしょっちゅうだったが、希実枝は未だにそれに慣れることができない。殺して殺してもどこからか沸いてくるアリかゴキブリのようだった。
希実枝は座卓に広げていたノートを閉じ、溜息をつきながら立ち上がり玄関まで行ってドアを開けた。
そこにいるのは、見た目によっては希実枝よりも年上に見える、汚い眼光をした着流し姿の男、稔侍(ネンジ)だった。こけた頬は満足に食事もとっていないことが分かる。
打ち刀を腰に差しているが、鍔は欠け柄巻もところどころが緩くなっている。鞘の塗りも粗悪で、あちこちが塗装が剥がれ、素材の木が丸見えになっている部分まである。まともな剣士であれば、剣闘には使えぬと言うだろう。稔侍が剣士ではなく、ただのゴロツキであることがよくわかる証左だった。
「姉さん、今、どれくらい金持ってる?」
「いくらかはあるわ。でも、あんたの金の使い方じゃ、もって二日ね」
「それでもいいよ。くれよ」
「待ってて」
希実枝は居間に戻り、財布の中から紙幣を掴むと、それを稔侍の手に握らせた。
稔侍はにやにやと笑みを浮かべて紙幣を数えると、帯に根付でぶら下げている巾着袋に突っ込みながら、「なあ、姉ちゃん。金持ってる奴、知らない? 姉ちゃんの仕事は、金を持ってる連中に会うこともたくさんあるだろう?」
これも、稔侍が金の無心に来る時に必ずする質問だった。
希実枝は、この質問に一度も答えたことはない。それを伝えるだけで、犯罪に加担することになるのは、希実枝にははっきり分かっていた。
だが、この日の希実枝は少々、冷静さを欠いていた。日中の怒りが、温度を全く下げず、腹の中で燃え盛っているのだ。一度の仕事で、金輪際関わりたくないと思っていたのに、二度目の仕事はより激しい怒りにさらされた。三度目は無いと願うが、今の仕事を続ける限りは有り得る話だ。
なら、三度目が無いと願うのは、そう悪くはない、と希実枝は思った。そう思ってみると、怒りの温度がだいぶ下がったのを実感した。いなくなった、ということになれば、怒りは喜びに変わるだろう。
そのいなくなって欲しいという人物は、アイドルのマネージャーをしており、そのアイドルは、国宝級の刀を持っている、というのは広く知られている話だ。だが、そのマネージャーとアイドルが、明日どこにいるのかという情報については、この時点では数人しかいない。そのうちの一人が、希実枝である。
「あんた、重命斎って人の刀知ってる?」
「知らんよ」
薄ら笑いを浮かべて吐き捨てるように答えるあたり、この男には刀を使う資格は無いな、と希実枝は思った。
「とんでもなく高価な刀よ。たいそう稼いでるアイドルが、今までに稼いでた大金に、借金までこさえて買ったらしいわ。もう借金は返済したって聞いてるけど」
へえ、と相槌を打つ稔侍の目が、今まで以上に汚くなる。こんな目をする男が身内というのが、希実枝は普段から我慢ならない。
「そのアイドル、好事家かい? 日本刀の蒐集が趣味?」
「その子、剣志隊の隊士なのよ」
剣志隊の名を聞けば、大抵の震えるか、畏敬の目で見る。
だが、法を破ることを生業にしている者たちは、大まかに二種に分けられる。一つは、警察隊や白兵隊などの腕利きと同格に扱うという者たちと、「所詮は子ども。腕は立つが、囲んでしまえば恐れることはない」と、前者と同様の思考ではあるが軽くみがちな者たちである。稔侍は後者であった。
稔侍は粗悪な刀の柄を撫でながら、
「それで、その剣志隊隊士が現れる場所とか知ってるの? 姉さん」
希実枝は、鈴原梨恩と、その姉、鈴原清祢のことを洗いざらい話した。
「俺んとこの兄貴分は、腕が立つんだよね。白兵隊ともやりあって、返り討ちにしたこともあるんだぜ」
希実枝は、それ以上のことは何も聞きたくなかった。興味が無いという顔でぱたぱた追い払うように手を振った。もう行け、ということである。
「じゃあな、姉さん。そういう金になりそうな話があったら、また教えてくれよ」
稔侍は口笛を吹きながら去って行った。その背中を見送ることなく、希実枝は家のドアを閉じた。
また一人きりになって、希実枝は腹の中の怒りがそれなりに冷えたことに気づいた。稔侍や、その徒党がどういった人間かは十分に予想がつく。目撃者から足が着くのを恐れ、その場にいる者は皆殺しにするだろう。その中に清祢がいるのなら、御の字だ。自分に対して失礼な物言いをするあの女がいなくなるのなら、心も晴れやかになるものだ。
希実枝の怒りはすっかり鳴りを潜め、その後の振付の仕事も捗った。今晩は半分ほどしか進められないと思っていたが、全てをしっかり仕上げてしまった。この振付は、梨恩とは別のアイドルに指導するものであるが、会うのは三日後である。明日は、清祢と梨恩は修羅場に巻き込まれるわけだから、その場にいるわけにはいかないので、明日は自主的に休日だ。また買い物にでも行こうと、希実枝は床に就いた。
まだ希実枝は、自分がしたことについて気づいていない。
とんでもない事をした、と思うのは、翌日の朝である。
翌日も、清祢と梨恩は同じ時間にスタジオに現れた。
また希実枝と清祢の剣呑なやり取りがあることを思い、梨恩の表情は優れない。
スタッフたちが、今日もセットを組むために熱心に働いている。今日の夜が来るまでには完成予定である。
梨恩は前日と同様に控室で衣装に着替えると、長刀と中脇差を両手に提げてスタジオに現れた。
可愛らしい、決して普段着にはできない衣装に身を包もうとも、この少女が剣志隊に所属する隊士であると、スタッフたちみなが思ういで立ちだった。
昨日と同様に二刀を壁に立てかけ、そのすぐ傍で振付のおさらいを始めた。昨日よりは動きも滑らかで、自信に満ちている。ただ、表情だけが優れない。
清祢も、それはすぐに見て取った。
「そんな顔してどうするの。眉に皺が寄ってるアイドルなんて、誰が見たいと思うの?」
「分かってるけど、仕方ないでしょ」
それは、清祢も理解している。希実枝と顔を合わせるのを嫌がっているのは、清祢自身なのだ。
「ごめんね、梨恩。レッスンの先生の手配は、私の仕事なのに」
清祢があまりに申し訳なさそうな顔をするものだから、梨恩はダンスの動きを止めて(息を全く切らしていない、剣の稽古に比べればダンスの練習など運動しているうちに入らない)、清祢の顔をじっと見つめた。
「ねえ、お姉ちゃん」
その次の言葉を言う前に、スタジオの入口辺りから女性の悲鳴があがった。梨恩の背後である。清祢は梨恩よりも早くにそれを見て、体を硬直させていた。
梨恩が素早く振り返った。
三人の男が入って来ている。いずれも、アイドルが新曲を収録しようというスタジオにはそぐわない恰好だった。
背の低い男。この事件ののちに判明したところによれば、名は兼井裕(カネイ ユウ)。小心者なのか、油断ならない視線をスタジオのあちこちに飛ばしている。長く着古した上下の着物には清潔感が無かった。右の腰に刀を差しているので、一目で左利きだと分かる。
三人の中では中背の男。先の、木宮稔侍である。この日も着流しに粗悪な日本刀を差している。
三人の中では、わずかに背が高い男。のちに判明したところによれば、名は阿久根正巳(アクネ マサミ)。他の二人と同様に、粗末な着物で、とても風雨には耐えられそうにない。ただ、腰に差した刀だけが異様なほどに金がかけられている。梅の花をあしらった金象嵌の鍔、赤銅色に塗られた鉄製の鞘。中に収まっている刀も、さぞかし立派なものであろうと想像できる。
明らかに野盗か、それに類する者たちだと分かる。
その三人は、スタジオに入るやいなや、梨恩に目をつけた。稔侍が、兄貴分の正巳に「あいつです」と耳打ちする。その傍には、壁に立てかけられた長刀と中脇差がある。
三人は酷薄な笑みを浮かべながら梨恩に近づいてくる。稔侍と裕は両手をぶらぶらとさせ隙だらけだが、正巳の左手は鞘のあたりで固まっている。即座に鞘を握り、右手で抜刀できる体勢だった。まずいな、と梨恩は思った。あの二人はともかく、この男は、かなり出来る。
梨恩はゆっくりと近づいてくる三人の男に顔を向けたまま、自分の背後にある刀のことを考えた。重命斎「光源氏」三尺三寸は、手に取れば半秒で抜ける。男たちに背を向け、刀を手にとるのにも半秒で済む。合わせて一秒。
その一秒があれば、正巳は即座に踏み込み、自分が抜刀するよりも早く、自分の顔を刃で割ることが可能なのでは?
距離がある今しかない。待てば待つほど、自分を窮地に追い込む。
梨恩が背を向けようとした、まさにその時、スタジオの入口から男の怒号が響いた。
三人の野盗が、そちらに顔を向ける。
そこには、槍を持った守衛がいた。梨恩は、おそらくこの三人の男は、守衛がトイレか何かでスタジオの入口から離れた隙に入ったのだなと思った。戻ってきたら、受け付けにいた女性が死体か何かになっているかしているのを見つけ、槍を手に急いでスタジオにやって来たということだろう。
そうでもなければ、最初からあれだけの気迫でスタジオに入ってくるはずがない。
その怒りようは、最初に見た時の静かな印象とはかけ離れている。
男たちを生かしておかぬという勢いである。
槍を持って、男たちへ殺到する。
稔侍と裕は、肝が据わっているとは言えなかった。守衛の気迫に押され、刀を抜くこともしない。そのままであれば、槍に突かれるだけであったろう。
ただ、正巳はそうではない。振り返るなり刀を抜いた。
「てめえら、ぼさっとしてんじゃねえ!」
兄貴分の一括で、稔侍と裕が刀を抜く。
先んじて、正巳が刀を上段に構え、守衛との距離を詰める。守衛は相手が向かってきても、微塵も怯まなかった。
守衛は怒りに染まった顔のまま、全力で正巳の胸目掛けて穂先を突き出す。通常、槍術で突きを繰り出す時は、それをはずされた時を考え、突いた穂先を素早く手元に戻す動きが必要である。後先を考えず全力で突くのは、必ず突き殺せるという時だけだ。だが、今の守衛は、そんな基本的なことすら考えに及ばないほど、怒っていた。
正巳は冷静に守衛の突きから自分の体を左に逃がし、槍の穂先を刀でぱんと叩く。
守衛は外された槍を引こうとするが、明らかに遅い。守衛が二撃目を繰り出すより前に、稔侍と裕が粗悪な刀で守衛を切りつけた。
守衛の血が飛ぶ。切り裂かれた守衛は、しかし、まだ絶命には至らない。稔侍と裕の刀がまともに手入れもされていないことと、二人の素人剣法が幸いした。
その間に、正巳が剣を高々と振り上げる。この三人の野盗が多対一において闘いに臨む際は、正巳が相手の初手を引き受け、稔侍と裕がその隙に相手を切りつけたのち、正巳がとどめを刺すという流れだった。今までに何度もこの方式で剣を振るっているため、三人の連携はこの上なく滑らかだった。
稔侍は、正巳の剣が守衛の頭を割って終わりだ、と確信していた。
正巳は、目の前の敵を斃すことしか考えていない。
裕は、ふと気配を感じた。あの国宝級の長刀を傍らに立てかけていた、剣志隊の少女は、今どうしてる?
守衛がスタジオに乱入してから、まだ三十秒も経っていない。
だが、三十秒もあれば、刀を抜くには十分に過ぎる。
裕は守衛からも、正巳からも(稔侍のことはもとより気にしていない)目を外し、梨恩の方に視線を向ける。
そこで、中脇差を腰に差し、抜き身の重命斎「光源氏」三尺三寸を右手に持つ梨恩とまともに目があった。
守衛が現れ、三人の野盗が守衛に気をまわした直後、梨恩は履いていた靴を脱ぎ、靴下も脱いだ。
リノリウムの床が詰めたい。こんな床を裸足で駆け回れば、足の裏の皮が剥がれるかもしれない。だが、ぐずぐずすれば守衛が殺されるかもしれないことを考えれば、迷う必要もない。
幸運にも、衣装はエプロンを巻いており、しかも、激しいダンスでもずれないようにきつく腰に巻き付けている。多少無理があるが、梨恩は腰に巻かれているエプロンに無理やり中脇差をねじ込んだ。
続けて、重命斎「光源氏」三尺三寸を手に取り、鞘から抜き放つ。
ここで梨恩は、裕と目が合った。
が、今の梨恩に、何かを待ったり、様子を伺うなんて時間は無い。正巳の刀は、今まさに守衛に面を撃とうとしている。
市井の人々を守れずして、何が剣志隊隊士か。
梨恩は鞘を後ろ手で清祢に渡した。見えてはいないが、清祢が鞘を掴んでくれたのを感じた。梨恩は刀を構えた。
独特である。
長刀をまるで槍であるかのように、突きの姿勢のまま右手をぐっと引く。握っているのは柄尻である。
長刀であるため、剣尖が下がる。それを、左手の甲の上に乗せて支える。
突くことしか考えていない構えである。
剣を抜いてからこの構えに至るまで、瞬き二度ほどの時間しかかかっていない。
梨恩は、リノリウムの床を蹴った。全力で、しかし目を閉じれば足音が聞こえないほどに静かに。
まだ梨恩が戦闘態勢に入っているのに気付いているのは裕だけである。梨恩は裕に狙いをつけている。
裕は狼狽した。十六歳、とても日本刀を扱えるように見えない少女が、やけに手慣れた様子で刀を構えて突っ込んでくる。その上、速い。梨恩自身に一切の迷いが無いことが、さらに加速させている。
裕が刀を持ち上げ、梨恩に対応しようとする。梨恩からすれば、それは時間を引き延ばしたかのように遅い。
こんな相手なら突ける、とは考えない。外すかも、とも考えない。
必殺、必滅の覚悟で、ただ裕に肉薄する。
あと三歩で裕に届く、というところで、ようやく正巳と稔侍が梨恩に気づく。梨恩は心の隅のごく僅かな部分で、良かったと安堵する。守衛へのとどめが止まるなら、それで良い。
裕に刀が届くまであと二歩。
それまで全速力の勢いの梨恩が、それまで以上の勢いで床を蹴り飛ばす。
梨恩の刀は長く、約一メートル。標準的な日本刀の間合いよりはるかに広く、相手の刀が自分に届くよりも前に自分の一撃が届く。
まだ刀を構えることすら出来ていない裕の頸を、梨恩は突いた。兼井裕はその一撃で絶命し、くずおれる。
梨恩は走る勢いを殺さないまま、守衛の腕を掴み、裕の脇を抜けた。数メートル離れたところで、守衛を掴む手を離し、両足を踏ん張って勢いを止める。
振り返る。再び突きの形で刀を構え、床を蹴った。
その時はまだ、裕の体は地面に倒れてすらいない。
梨恩がこの闘法を編み出したのは、剣志隊に入隊して間もない頃だった。この動きが自分に合っていると思った梨恩は鍛錬を重ねていたわけだが、この闘法に名前をつけておこうと思い、道場で稽古をしていた副隊長の糸無柚希(イトナシ ユズキ)に相談してみた。
道場で、竹刀で披露したことが、梨恩にとって初めてこの闘法を人に見せることになった。
柚希はたいそう関心した。我流ではあるが、理に叶っており、また梨恩によく合っていると思った。
その速度と勢いに、柚希は「虎とか豹とか、そういう動物に似てるね」と感想を述べた。
梨恩からすると、自分の戦い方に、そのような強力な肉食獣の名を借りるのには気が引けた。そこまでの強さは、まだ自分には備わっていないと思ったのである。
ただ、猫科という点は気に入った。素早く、音も少なく獲物を仕留める姿は、確かに猫科と共通するものがある。
梨恩は、いずれ、肉食獣の名にふさわしい実力が身につくことを願った。
故に、自分の闘法につけた名は、「虎猫」。
梨恩の次の「虎猫」の狙いを、稔侍と正巳のどちらにするかを一瞬だけ考え、稔侍とした。
正巳は梨恩に気づいてから、刀を手元に引き寄せ梨恩に対応しようとしている。
稔侍は、ともかく梨恩が近づいてきたら切りつけてやろうと、構え何もなく、ただ刀を振り上げようとしている。
梨恩の裸足が床を蹴る音と、刀を持つ者の吐息の音だけが小さく響く。
梨恩が稔侍の間合いに到達する。梨恩の目は稔侍の額に狙いを定めている。稔侍は握った刀を顔まで持ち上げようとした。物打ちよりもさらに下、鍔に近い位置で梨恩の突きをさばこうとしている。巧者のやることではない。臆病者である。
梨恩の目は稔侍を射止めたまま、長刀の剣尖を支えている左手を不意に下げた。当然、切っ先は稔侍の額より落ち、稔侍の左胸を真っすぐ指している。
稔侍は梨恩の考えを瞬時に悟るが、その時にはもう遅い。
梨恩の突きは、無防備だった稔侍の左胸に突き刺さった。
それを正巳は待っていた。梨恩の腕が突きで伸び切ったところを、高い位置から切り下げた。
並の剣士なら、為す術もなくその刀を面上に受けておしまいであったろう。しかし、梨恩は並の剣士ではない。突いた腕を即座に引き戻すやいなや、正巳の面打ちを刃で擦り上げてさばいた。
梨恩がその場から大きく飛びのき、そこで「虎猫」の動きが止まった。
正巳も、梨恩を追いかけることなく、刀を青眼に構え直し、息を整えた。
二人が静止したところで裕が、続いて稔侍がその場に倒れた。正巳は、その二人の遺骸には目もくれない。
「今のをかわすか。まあ、オレが切り下げるのは阿呆でも分かるわな。それなら、対応するのも、まあ無理ではないか」
存外、優しい声である。ただそれは、梨恩からすれば、冷え切った心根を隠すための、貧相な藁の束に思えた。味方を囮にしたあたり、まともな頭をしていない、と梨恩は思った。
「その刀をオレに渡してくれるなら、引き上げるが、どうする? オレがお前を斬ったなら、ここは修羅場になるぞ。今この場にいるやつは、全員オレが殺す」
スタジオにいる人々が、息無き息を飲むのが分かった。
それも嘘だと、梨恩には分かった。最初から、誰も生きて帰す気はないだろう。
「どうするんだ? お前の姉ちゃんも例外じゃないぞ。お前がその刀を捨てれば、みんなが助かるんだ」
正巳の甘言になど、耳を傾けるつもりはなかった。
梨恩は「虎猫」の構えを取り、再び地を蹴った。
アイドルをしながら、しかし日々鍛錬を重ねている梨恩は、非凡の剣士だと言っても良い。
それをたらしめているのは、足の速さでも、毎日稽古を欠かさない勤勉さでもない。使う刀が国宝級の日本刀であるからでもない。
明らかに自分より体格が優れている相手が、人間を斬殺できる凶器を持って今まさに自分を殺そうとしているのにも関わらず、髪の毛先ほどの恐れもなく突っ込んでいける胆力である。
梨恩の今の心に、恐れはない。だから、それで剣が曇ることもない。これこそが、梨恩の強さであった。
全ては、自分の剣で人々を守るため。
正井が刀を上段に構え直す。刀の届く位置まで梨恩が近づいてきたら、もう一度面打ちをするつもりなのが分かった。
梨恩は相手の間合いに踏み込むよりも手前、自分の突きが僅かに届くという距離で左足を強く踏み込み、右手で突きを繰り出した。
この通り距離なら、例え切っ先が正巳に突き刺さったとしても、親指の半分も刺さらないであろう。自然、突きの速度も威力も十分とは言えない。
正巳は上段に構えていた剣を下段に降ろすと、その突きを軽く払った。
同時に梨恩が長刀を離す。
それが宙に浮いている間に、梨恩の右手が腰に差している中脇差に飛ぶ。
ははぁ、と正巳は思った。なるほど、と。
今までに二度も見せた突きを、この期に及んで使うのは避けたということだ。近距離で、突きと共に突っ込む勢いがあれば、間合いで劣る中脇差にも分があると踏んだのだ。
加えて、今までと違う間合いで突きを繰り出せば、驚かせられるとでも思ったのか。
馬鹿め、オレは落ち着いているぞ。
梨恩の浅い突きをさばいた後、言葉無き思考で無意識にそこまでのことを一気に考えた正巳は、青眼の構えを下段のまま気を張る。梨恩の姿勢から、どのような斬撃が繰り出されようとも、それを払いのけ、返す刀で斬るつもりである。抜き打ちであれば、逆袈裟、胴、小手、上からの面打ち、下からの面打ちが妥当か。普段から、敵の初手を受ける役割を担っていた正巳は、後の先をとるのに自信があった。
敗因があるとすれば、それは、正巳が梨恩を見誤っていたことである。
この少女は、突き技を磨き上げている。ならば、勝負を決する一撃が突きでないはずがない。
梨恩が中脇差、モデル「スティングレイ」を抜き放つやいなや、一瞬よりもさらに短い一瞬で刀を縦に構えた後、真っすぐに正巳の首を突いた。斬撃が来ると思っていた正巳は、身を避けることもできなかった。
正巳が斃れ、スタジオの中に静寂が戻ってきた。梨恩は、激しい呼吸がどこからか聞こえてくるのに気づいたが、それは自分からだと分かるのにしばらくの時間が要った。
辺りには三人の男の死体。
すぐ近くで、傷を負った守衛。
自分の衣装には、大量の返り血。
このすぐ後に判明するが、受け付けの女性は死体となって転がっていた。正巳たちがスタジオに闖入した際、警察隊を呼ぶと脅したところ、稔侍と裕によって斬り殺されたのだった。
梨恩は手にしている中脇差を血振ると鞘に納めた。続いて床に落とした長刀を拾い上げると、鞘を持っている清祢の所まで頼りない足取りのまま近づく。
清祢の目の前まで来て、清祢の表情が良くわかった。
驚きと恐れが入り混じった、山中で熊か鬼にでも出くわしたかのようだった。
未だ激しい呼吸を繰り返しながら、梨恩は辺りにいるスタッフを見渡した。
みな、清祢と同じ顔だった。
梨恩は清祢の手からそっと長刀の鞘を受け取ると、同じように血振り、刀に納めた。
スタジオ内に沈黙が続いた。
その沈黙に、梨恩は耐えられなかった。
荒い息のまま、梨恩は頭を下げ、
「ごめんなさい」
清祢に、次はスタッフたちに、一人ひとりに頭を下げたところを見せるため、梨恩は回りながら頭を下げた。
スタッフたちも、沈黙に耐えられなくなってきた。
誰かが、梨恩に何か声をかけようとした時、刀を帯びた青年二人が入ってきた。
「無事ですか! 賊はどこにいますか!」
梨恩はその二人に見覚えがある。二人とも、剣志隊だった。誰かが、剣志隊の本営までこの事を伝えてくれたのだ、と梨恩には分かった。
入ってきた隊士の一人も、梨恩に気づいた。
「鈴原さん。本当に、鈴原さんか」
この剣志隊は、このスタジオに梨恩がいるのは聞いていたようだ。この二人には、梨恩がアイドルという意識は生まれなかった。大小の刀を備え、返り血を浴びている少女は、まさに闘争を生き抜いた剣士であった。
梨恩は、入ってきた賊三人を仕留めたことだけを説明して、フラフラと控室に戻った。
その後ろから、清祢も早足で追いかける。
控室に入った梨恩は、血みどろの衣装を化粧台に脱ぎ捨てた。それを見つめながら、
「ごめんなさい、お姉ちゃん。衣装を汚しちゃった」
清祢は蒼い顔のまま、「いいのよ。あなたが無事だったから。それに、守衛さんも、あなたに命を助けられた。みんなが今無事なのは、あなたのおかげよ」
やっと、固かった梨恩に、小さな笑みが咲いた。
「ありがとう」
梨恩が浴衣に着替え終わるまでの間、清祢は切羽詰まった顔で梨恩を見つめ続けていた。梨恩と、二本の刀を見やりながら、口をもごもごさせていた。
いつものように、梨恩が浴衣の腰布に無理やり中脇差を差し、長刀を右手に持ったところ、清祢は梨恩に右手を出した。
「その右手の刀を私に渡して、梨恩」
梨恩は不思議そうな顔をした。今までにも似たようなことは何度も言われたが、こんなに決然とした態度で言われたのは初めてだった。有無を言わせないようなきつい言い方でもなく、姉の立ち場で言うこと聞かせるような言い方でもない。それは、梨恩には優しさから出た言葉に思えた。
「どうして、お姉ちゃん。私は剣志隊の隊士なんだから、刀を誰かに渡すようなことはないよ」
清祢は首を左右に振った。
「あなた、辛そうじゃない。もうこれ以上、剣志隊をやることはないわ。今日は勝つことができたけど、次も勝てる保証なんてないのよ。私は、梨恩が誰かに斬り殺されるなんて、耐えられない」
清祢は、差し出した右手を引こうとしない。刀を渡されない限り、絶対に引くつもりはなさそうだった。
だが、清祢の右手を、梨恩が左手で包んだ。
「今まで、私の面倒を見てくれてありがとう」
「やめてよ……」
「今日、思い知ったの。私は、アイドルではなく、剣士なんだって」
清祢の目から、一筋の涙が伝った。なんだか、今生の別れのような気がして。
「明日が収録だから、それが私のアイドルとしての最後の仕事だよ」
「やめて……」
「ごめんね、お姉ちゃん」
梨恩が清祢の右手から左手を離す。それは、なんだか海に木片にしがみ付いて漂流している時に、その木片すら失ったかのような心地で、清祢は顔を両手で覆って、泣き始めた。
それを見ていて、梨恩も泣くのを我慢できなかった。
右手で長刀を握ったまま、泣いた。
二人が泣き止むのは、十分ほどかかった。
清祢と梨恩が控室から出た後、清祢は遅れてやってきた警察隊にその場で事情聴取を受けた。
それを清祢は強引に数分で打ち切り、スタッフを捕まえて、明日からの段取りを話し合った。
収録は、明日に行なうこととなった。
一人待つ梨恩は、セットを眺めていた。いざアイドル活動を辞めると決めると、少しばかり名残があった。アイドルの仕事も、嫌いではなかった。いつか剣を握ることができなくなったら、アイドルに戻れるのかな、と考えてみたが、剣を握れない時は、きっとアイドル活動もできないと思い当たった。だから、これが本当に最後だ。
いつまでもセットを眺めていることが出来そうだったので、用事を全て済ませた清祢に帰ろうと言われた時は、正直助かったと思った。
スタジオを出た時に、以前に梨恩が見かけた女が、その入り口に立っていた。今日はやたらとめかしこんでいるが、以前見かけたのと同様に、刀を佩いていた。清祢と梨恩の姿を認めると、はっと両手を口にやり、小走りに寄ってくるあたり、清祢を待っていたように見えた。
もしや、あの賊たちの仲間なのかと、梨恩は少し身構えた。なにせ、刀が物騒過ぎる。
だが、女の第一声は、梨恩にとっては意外なものだった。
「大丈夫でしたか?」
その言葉には、清祢も梨恩も、先ほどの闘争のことしか思い当たらなかった。
「あなた、この中で何があったか、知ってるの?」
清祢の言葉に、女がうなずきながら、
「三人の男の人が、守衛さんが何かで離れた隙に、中に入って行ったんです。その後すぐに、受付の人の悲鳴が聞こえたので、強盗か何かだと思って、剣志隊の本営に伝えに行ったんです」
それで、すぐに剣志隊が現れたのに、梨恩は合点がいった。
「ありがとう。あなたのおかげで、みんな助かったわ」
清祢は礼を言いつつ、梨恩が剣を振るったことを伏せた。いくら梨恩が剣志隊で、みなを守るためであったとしても、他人を斬殺したことは伝えたくなかったのだろう。
それで用件は済んだと思ったのだが、女は去ろうとしない。俯いて何かを考えているようだった、意を決した風に顔を上げた。
「あ、あの、鈴原清祢さん! 私の専属マネージャーになってください!」
なんのことか分からなかったので、当然、清祢は説明を求めた。
女は、八馬歌江(ヤマ ウタエ)と名乗った。驚いたことに、梨恩の一つ年上の十七歳だった。随分と大人びている、と梨恩は思った。
梨恩は知らなかったのだが、梨恩と同じ芸能プロダクションに所属しているタレントであった。そして、迂闊なことに、清祢も自分が勤めている芸能プロダクション所属の歌江のことをまるで知らなかった。仕事の全てを梨恩に注ぎ込んでいたので、それ以外のことをまるで知らなかったのだった。
歌江は、清祢のことも梨恩のこともよく知っており、いつも、その仕事ぶりを見ていたとのことだった。
今までマネージャーをしていた人物が、病気を理由に退職することになり、次のマネージャーをどうしようという話になっており、歌江は、清祢にマネージャーになって欲しくて、ここ数日、仕事場に足を運んでいたのだった。
「お姉ちゃん、いいんじゃない?」
梨恩が、清祢に笑顔でそう言った。自分がアイドル業を辞めるというのは言わず、言外に、これからいっぱい時間があるでしょうということを伝えていた。
清祢は真面目な顔になって、歌江の回りを一周しながら、頭からつま先までまじまじと確認した。さっきまでわんわんと泣き腫らしていた清祢だったが、アイドルのマネージャーとしての本文を思い出したようである。
再び正面に回った清祢は、歌江に、「眼鏡をとって、三つ編みを解いてみて」
歌江が言われた通りにする。可愛いというよりは、綺麗な人だ、と梨恩は思った。実年齢より上に見えたのはこれが理由なのだったと。
清祢は拳を顎に当て「ふむ」と頷いた。
「得意なことは? 歌? ダンス? トーク?」
「今はモデルですが、女優業が目標です」
清祢は、もう一度、「ふむ」と呟いた。
「私、けっこう厳しいけど、大丈夫?」
歌江の評定が、期待でぱあっと明るくなる。
「それじゃあ……」
「明日、社長に相談してみるわ。いいっていう返事なら、引き受ける」
「ありがとうございます!」
額が膝にくっつきそうな勢いで歌江が頭を下げた。
「ただ、その前に一つ聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか」
清祢は、歌江が腰に差している刀を指さし、
「あなた、剣志隊にいるとかじゃないわよね?」
歌江ははにかみつつ、梨恩の方をちらちら見ながら、「これは、願掛けでつけてました。梨恩さんのように、人気が出たらなって。あと、いつか清祢さんがマネージャーになってくれないかなって」
清祢は少し照れ臭そうに鼻をかいた。
「気持ちは嬉しいけど、刀を身に着けるのはこれっきりにして頂戴。何かのきっかけで、梨恩みたいに剣志隊に入りたいなんていうのは勘弁して欲しいから」
「はい、分かりました」
と言いつつ、歌江はあまり良く分からない顔をした。今の言葉の本当の意味を知るのは、梨恩がアイドルを辞めるというのを聞いた後になるだろう。
どこかで食事を、と申し出る歌江を、清祢はそっと断った。今は、ただ早く家に戻って、体を休めたかった。梨恩としても、それがありがたかった。
家に戻る間、清祢と梨恩は、ただ明日の収録のことについて話をした。今回の曲については、ちょっとばかりダンスのレッスンが足りないところだったが、収録日を動かすことはできない。あとは、梨恩の運動神経に託すだけだった。
自宅に戻っても、梨恩は、今日だけは鍛錬をする気が起きなかった。今日という日は、今までに生きてきた大きな転機のうちで、最も大きいものだからと梨恩は思った。
帰宅途中に買った弁当を清祢と一緒に食した後は、早めにシャワーを浴びて就寝の準備をした。
自室に戻り、中脇差はベッドの傍らに立てかけ、光源氏をベッドの上に置けば、寝る準備は整った。
さて寝ようかというところで、ドアがノックされる。もちろん、清祢しかあり得ない。
「入ってもいい?」
「どうぞ」
ドアを開けた清祢も寝間着姿だった。
清祢は何かを言いづらそうにしてなかなか言い出さない。梨恩は助け船を出すように、
「どうしたの? もしかして、アイドルは続けて欲しいって話?」
清祢は柔らかく首を左右に振りながら、
「違うわ。あ、えっと、違うっていうと、ちょっと違うんだけど、まあ……違うわね」
弁解するように言う清祢が、今日の梨恩にとっては、愛おしく思えた。
「アイドルを辞めるっていうのは、もういいの。梨恩の人生なんだから、梨恩が思うようにするといいわ。だけど……」
ああ、これは来る、と梨恩はかすかに、しかし確かに感じた。
「梨恩は、アイドル業で一番好きなのは、歌うことよね?」
「うん」
それは、しょっちゅう清祢に話をしている。人前に出ることも、ダンスを踊るのも、自分の趣味ではない衣装を着るのにも慣れはしたが、ただ一つ好きだと言えるのは、歌うことだった。
「ここで一つ提案なんだけど、アイドルを辞めて、歌手をするっていうのはどう? もちろん、剣志隊が優先で大丈夫よ。一年に四曲くらい、歌の収録だけするの。ライブも、プロモーション活動も無しでいいの。ただ、あなたには、完全に芸能活動から離れて欲しくはないの」
清祢は、決して自分の野望や目的のためでなく、梨恩のためを思っているのが、梨恩には分かった。
剣志隊隊士は、死ぬまで働ける仕事ではない。誰に殺されることなく生き延びても、二十二歳になったら、除隊になるのだ。その後に再び芸能活動に専念できるように、最低限の活動は続けていこう、ということだろう。
歌うのは好きだ。
しかも、剣志隊が優先という事であれば、梨恩に断る理由は見つからなかった。
「分かった。お姉ちゃんの言う通りにする」
「良かった……」
清祢は心底安心したような表示をした。断られるかも、と不安だったのだろう。
「それじゃあ、お休み。明日の収録、頑張りなさいよ。最後なんだからね」
「うん。ちゃんと、全力で頑張るよ。お休みなさい」
清祢が去った後、梨恩に心地よい眠気が訪れた。
ベッドの中で長刀を抱きしめると、すぐに梨恩は眠りに落ちた。
翌日、清祢と梨恩は揃って寝過ごし、収録時間に間に合わなくなるところだった。
前日は激しい斬り合いがあったというのに、スタジオは綺麗に掃除され、またスタッフたちは普段と変わらない様子だった。おそらくは無理をしている、とは梨恩も思ったが、そこには触れなかった。
収録は無事に終了した。
その後、梨恩は剣志隊の道場に直行した。稽古をしたくてたまらなかった。
剣道着に着替えた後に道場に入ると、竹刀と足運びの喧騒が梨恩を包んだ。
竹刀を振るう隊士たちの中で、梨恩は見知った人物を見つけた。隊士たちの稽古の邪魔にならないように壁沿いに歩き、その人物に近づく。
その人は、相手もなく、ただ素振りを続けていた。
梨恩は面金の奥から声をかけた。
「隊長。お手合わせ願えませんか?」
剣志隊隊長、武井初芽(タケイ ハツメ)が振り返った。
「おお、梨恩か。今日は、アイドルはお休みなのか」
その言葉に、梨恩は明るく答えた。
「アイドルは、今日、最後の仕事をしました。今度は歌手になりますが、一年の間に少しだけです。今日からは、私は剣志隊隊士としてほとんどの時間を使えます」
その嬉しそうな声に、初芽は少し目を丸くしたようだった。やがて、
「そうか。良かったな。じゃあ、今日はたっぷりやれるな」
「はいっ」
その後、何回か手合わせをしたが、梨恩は一本も取れず仕舞で終わった。
しかし、梨恩は少しも気にしなかった。
隊長に敵わないのは、今だけだ。いつか、並び、そして追い越せる。
そうなれば、どれだけの人々を救うことができるだろうか。
そう考えるだけで、梨恩の心は晴れやかだった。
なお、木宮希実枝は、賊を幇助した角により捕縛。死罪は免れたが、終身刑。梨恩はそのことを知っても、清祢との会話にあげることはしなかった。悪い感情は、良くないことを引き込むと思っているためである。梨恩がアイドル稼業を辞めた後、清祢は歌江の仕事に心血を注いでいる。それは楽しそうで、熱心で、明るい未来のために力を尽くしているのだから、そのことは胸に留めておこうと思ったのだった。
JK剣客ダイアリー 羽法 伊助 @isuke_wahou
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