ちょっと不思議なハロウィンのお話
鳥皿鳥助
ハロウィン
今日の日付は10月31日。
そう、ハロウィンである。
今ではコスプレをしてバカ騒ぎをするイベントになってしまっているが本来は『秋の収穫祭』という意味だったり『秋の死者に混じってやって来る魔物や悪霊に仲間だと思わせ、あの世に連れていかれないようにする』という意味があったらしい。
後者の意味に関してはいくつかの説があるが基本的に『悪霊や魔物と同じ格好をし、危険から逃れる』という点は変わりないだろう。
だが現代日本はおいては先に述べたように、『ただコスプレをしてバカ騒ぎをするイベント』になってしまっている。
俺はただただバカ騒ぎをするようになってしまったハロウィンがそこまで好きではなく、今までろくに参加したことがなかった。
だが今年は『三宅』という友人の
時間と場所はここで合っているはずだ。俺は近くにあったベンチに腰を下ろした。
ショルダーバックに入れていたお茶を飲みながら少し周りを見回してみても三宅はどこにも見当たらず、目の前の道路をコスプレをした人々が行き交うだけだった。
「ったく……人を呼んでおいて三宅の奴はどこをほっつき歩いてんだ……」
時刻は夕暮れ時。
日が暮れる前には来ると言っていたのに、いつまで経っても現れない友人に対して思わず文句を言ってしまうがそんなことを呟いたところで状況は変わらない。
「……少し回って探してみるか」
俺はスマホのチャットアプリを起動し、三宅に『集合場所を離れているぞ』と一言メッセージを送った後、ベンチから立ち上がり集合場所から離れていった。
スタスタと歩く俺の目に映る町はハロウィンの関連商品を貼り出していること以外、特にいつもと装いを変えたりはしていない。
が、そこに存在する人だけが化け物のような姿をしたなんとも言い難い、不思議な光景作り出していた。
そんな町や人を眺めながら歩いていると次第に完成度の高いコスプレを身に包んだ人が多くなった。
すごい完成度だな……
そんな風に周りのコスプレに感心しながらも、俺は人混みに流されて行った。
そして……
「何なんだここは……!? 」
気がつけば大きなトンネルの手前に差し掛かっていた。
そこには国境検問所のように人を止めるために存在するであろうゲートが見受けられるが、何故かそのゲートは全て開かれていた。
ゲートの横にはいくつか小屋の様な建物があり、その中にも死神のコスプレをした人が門番のように待機している。どうやらゲートを通る人全てに声をかけているらしい。
「ハッピーハロウィン、向こうは楽しめましたか? 」
「ハッピーハロウィン。沢山楽しんできましたよ」
「ハッピーハロウィン。行ってらっしゃいませ」
「あぁ、ハッピーハロウィン」
こんな会話があちこちで繰り広げられていた。
「本当に何なんだここは……リアルなコスプレをした人が多いが何かのドッキリなのか……? 」
俺が今回三宅に無理矢理連れてこられた場所は俺たちが長年暮らしている商店街の一角。
つまり周囲の地形は熟知しているはずだ。だが俺が今見ているこの場所は一切記憶にない……
もし近くにこんな遊園地の様な場所ができたら三宅が真っ先に食いついて連れてこられていたであろう。
「これはもしかしたら……ちょっとマズイかも……」
昔お婆ちゃんに聞いたことがある。『良いかい? 昔から行われている神事には元々意味があって行われているんじゃ。“向こう側との扉”を封印したり、その土地の氏神様を鎮めたりね。だから“向こう側”に連れ去られない様に……神隠しに合わないように気をつけるんだよ。もし神隠しに遭った時は…………』
あれっ……?
この先なんて言ってたっけ!?
「やっべぇ! 思い出せねぇ!! 」
そんな風に頭を抱えていても人の……いや、“人ではない”者の列はその流れを止めずにいたつまり……
「ハッピーハロウィン」
ゲートにまで来てしまった。
声掛けられちゃったよ……なんて答えれば良いんだよ!!
「えっと……そのぉ……」
「おや……あなた……人間ですか? 」
早速気づかれたァ!!
「何? 人間だって? 」「人間……」「うまそー……じゅるり」「人間……? 」
今まで不気味な仮面で素顔の見えなかった死神は突然仮面を外し、素顔を
その仮面の下に隠れていた素顔は肉食獣の様に牙を生やした不気味な口元だった。
そんな死神の声に釣られたのかゲートの向こう側に居たコスプレの……いや、人ではない者達がこちらを向き、口々になにかを呟いている。
だが次第に静まって行き……
「「「生きた人間は……」」」
「「「「「「殺すゥ……!! 」」」」」」
ウォォイ!
殺意バリバリだよぉ! メッチャやべぇよぉ!!
訳も分からず突然殺意を向けられた俺はとにかく全力で人混みを掻き分けながら走り出した。
幸いにも後ろの方に居た奴等は殺意バリバリではなく、殺意バリバリの奴から殺意が伝染しているようだ。
暫く走ると人混みを抜けて狭い裏路地のような場所に出てきた。
周りに奴らが居ないことを確認し、ようやく一息付く事ができた。
「ぜぇ……ぜぇ……何なんだよ……これ……夢なのか?」
「おや? 君って“生身”の人間だよね? 何でこんな所にいるの? 」
一息ついていると突然黒い魔女のような服を着た女が声をかけてきた。
襲われるのかと思い一瞬身構えたものの、襲うつもりなら声はかけないだろう。
大分息も整った俺はそう思い、女の問いに答えた。
「理由なら俺が知りたいね。トンネルを超えて気が付いたらこんな所にいたんだよ」
俺がそう答えると女は興味深そうにこちらを見た。
逆光と帽子の
何だか嫌な予感を感じて逃げようとするも腕を捕まれ、逃げることが出来なくなってしまった。
「あっ、あの~……一体何を……?」
「イヤイヤ~……ちょっと向こうに帰してあげようとね? 」
俺の腕を掴んだ女はそのまま大きく振りかぶり……俺をどこかへ投げ飛ばしたのだ!
「ぅうわぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」
「いってらっしゃ~い! もう迷い込まないようにね~! 」
彼女は片手だけで平均的な成人男性の程度の体重はある俺を投げた彼女は特に疲れた様子も見せずにどこかへと歩いていった。
一方の俺はと言うと……
「いてて……落ちた先に茂みがあって良かったぜ……」
あまりの速さに目をつぶり、体に衝撃が来たと思ったら三宅との集合場所近くの公園にある茂みに落ちていた。
茂みから出た俺は立って軽くジャンプして体の調子を確認したり服が破れていないか、所持品を落としていないかといったところを確認したが特に何も異常は無かった。
「まさか……夢? 」
集合場所所から離れる前に送ったメールを見てみると、俺が送ったそのメールは三宅に送ったことにはなっておらず、時刻もあのトンネルを潜った時から数分程度巻き戻っていた。
「ん? タカヒロじゃねぇか。こんな所で何してんだ? 」
時間の巻戻りに頭を抱えていると俺をこのハロウィンイベントに連れ出した張本人、三宅が現れた。
トンネルを潜る前は数十分間待っても来なかった彼だが、今回は時間通りに来たようだ。
「いや、何でもない」
「そうか。じゃあ少し早いけど行くか! 」
「あぁ」
そんな会話を繰り広げた後、俺と三宅は夕日に染まる馴染みの街へと歩き出した……
ちょっと不思議なハロウィンのお話 鳥皿鳥助 @tori3_1452073
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