case 6:そして十二時の鐘は鳴った
「ミス・
ベルリッジは、目の前に座る二人の男女に向かって、心の底からそう告げた。五体満足、何事もなく今迄と変わらぬ姿で座る花菱とフレッドは、恒例行事ともいえる
――“シンデレラ”がハッピーエンドで終わったことで、無事
物語を進める上で、奇跡の所業ともいえる大魔術の同時刻複数行使に加えて、
その間、花菱の限界に気が付けなかったことを悔いたフレッドは
二人は、ベルリッジの元へ無事を伝える為に報告へ来ていた。
「記念に人喰い絵本だった
「
むっとした声音の花菱に、はっはっは、と何とも思っていないような真意の見えない笑い声が返ってくる。その花菱の隣、同席しているフレッドは、魔導書管理局の局長への態度にただただ冷や汗をかいていた。
(ミス・ハナビシ……いくら
しかし、そんなフレッドの思いは花菱に届くことはない。
「いやはや、これは手厳しい。資料作成課に伝えておこう」
「よろしくお願い致しますよ。後、今回のような受注の仕方は今後実施しないでいただきたいですね」
「すまないね、急を要するものだったものでね。まあ、悪かったとは思っているよ。出来る限り善処しよう」
衰えることない体術の腕と増える一方の魔術の知識。魔導書管理局局長は、その力と人望を以って組織を動かす。にこりとその顔に湛えられた笑みに、花菱は内心ちっと舌打ちをした。
(……ほんっと、喰えない
だが、この人の主導の元だからこそ、花菱は自身がこうして苦も無く
「兎にも角にも、これにて
「「
* * * *
「ミス・ハナビシ」
「……ん?」
ベルリッジ私有の応接間から出たところで、フレッドは呼び止めた。先に出て歩き始めていた花菱は、振り返り見る。
「何だ、用か?」
「……やっぱり、何故あの
丸一日、花菱が眠っている間考えに考え抜いても分からなかったフレッド。深刻な表情で聞くが、花菱はなんて事のない軽妙な声色で返す。
「そりゃ分かるだろ」
そう言ったところで、花菱は気が付く。目の前の男は、今まで碌に魔術司書としての
「……
「確か、ミス・ハナビシの概念は……真実の愛を求める話でしたね」
「そう。だから
着飾った姿、本来の姿。その差異の狭間で、彼女が人間らしくも疑念を抱いたのは、花菱の“シンデレラ”への概念が物語を改変したが故だろう。
「でも最後には結ばれた。これは紛れもなく、フレッド。君の“シンデレラ”への概念がもたらした結果だろう」
「幸せを掴む話……成程。なるべくしてなった、ということですね」
そこまで導くと、流石のフレッドでも道理が通ったようで。満面の笑みを花菱へと向けた。
「そそ。そーゆーことだ」
「説明を有難うございます。ミス・ハナビシ」
「ん」
短く、そして満足そうに返す。そして花菱は、またフレッドに背を向けて歩き出す――。
「……ミス・ハナビシ!」
「今度は何だ?」
立ち止まり、花菱は顔だけで振り返る。フレッドは、意を決して、それでいて不自然でないように、言葉を選んで口を動かした。
「よろしければ、ですが。此れからお昼ご飯をご一緒しませんか?」
伺うように、じっとその横顔を見つめる。そしてその口の端がにやりと上がって。
「構わんぞ。じゃあ食べに行くとしよう」
「……有難うございます!」
そう言葉を交わすと、また独りでにさっさと歩き出す花菱。己よりも小さなその背中を微笑ましげに見つめながら、フレッドはゆっくりと歩き始めた――。
* * * *
そして――、愛する二人は結ばれました。
真実の愛を祝福するかのように、りーんごーんと十二時の鐘が鳴ります。
全ての魔術が解けてしまう、十二時の鐘。
その鐘が何回鳴り響こうとも。シンデレラと王子様の、繋いだ手のひらが解けることは有りませんでした――。
そして十二時の鐘は鳴った 蟬時雨あさぎ @shigure_asagi
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