第4話「鏡裡(きょうり)」
一頃めっきり寂れてゴーストタウンと揶揄されながら、近年奇跡のV字回復を遂げたマンション街。低中層の集合住宅と広い中庭を挟む格好の別棟にオフィスやショップが入っていて、そのうちの一軒が雑貨も扱う古着屋だ。品揃えのセンスは微妙だけれど、時々冷やかすと、適度に商品が流れ、入れ替わっているのがわかる。
面白半分に通っていたら、おかしな噂が耳に入ってきた。街角で不審死を遂げた人の着衣を奪ってクリーニングして売っている……?
と、秘かにツッコミを入れたものだが、ある日、畳んで並べられたシャツやブラウスを手に取って眺めていたら、棚に置かれたスタンド式の鏡にフッと見知らぬ美しい顔が映った。
妖艶な赤い唇——だが、まだ大人の女性と呼ぶには未完成な、伸びしろを感じさせる面貌。周囲を見回しても、店内にそれらしい人はいない。もう一度鏡を覗くと、またしても蠱惑的な微笑み。その瞳の動きに促され、手に取った服に視線を落とした。大きなプリント柄に紛れて、洗い流し切れなかった血痕らしき茶色い染み。
ハッとして
*
ショートショート連作『emergence』【完】
■第1話「裏口」
私家版『珍味佳肴』(2016年2月刊行)収録。
Romancer『珍味佳肴』収録。
https://romancer.voyager.co.jp/?p=20414&post_type=epmbooks
■第2話「風聞」
Romancer『掌編 -Short Short Stories-』収録。
https://romancer.voyager.co.jp/?p=116877&post_type=rmcposts
■第3話「
私家版『珍味佳肴』(2016年2月刊行)収録。
Romancer『月と吸血鬼の
https://romancer.voyager.co.jp/?p=116522&post_type=rmcposts
■第4話「
Romancer『月と吸血鬼の
https://romancer.voyager.co.jp/?p=116522&post_type=rmcposts
上記私家版とWeb無料小説サイトにて縦書き版をお読みいただけます。
◆ 初出はいずれもnote(2015年)退会済。
emergence 深川夏眠 @fukagawanatsumi
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