無音
深川夏眠
無音(ぶいん)
今夜は百物語の会にお招きいただき、ありがとうございます。とは言っても、怪談って呼べるほど怖い話じゃありませんが。
私が小学生の頃、母がバレーボール同好会に入っていたんですよ。毎週水曜夜七時から九時、体育館を借りて練習。で、父が仕事で不在で、私が一人きりになるときに限って無言電話がかかってきたんです。二時間のうちに何度も、繰り返し。昔のことですから、ナンバーディスプレイなんて気の利いたものはなく、応答すると、鼻息・吐息、一切を押し殺したような無言——いえ、
いたずらにしては神妙過ぎるのが不気味でしたね。受話器を通して、自分の耳に、どこからか虚無が、真空が運ばれてくるようで、うすら寒い気分になったものです。
ある水曜の晩、母がいつもより少し早く帰ってきたら、また着信。母は「いい加減にして!」と怒鳴って乱暴に電話を切ると、怒りに任せてモジュラージャックを引き抜き、一晩放置しました。
その、母のブチ切りの後は、確か、音沙汰なし。無言電話は二度とかかって来なくなったと記憶しています。
お後がよろしいようで。
【了】
◆ 初出:note(2015年)退会済
*雰囲気画⇒https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/6nhIE7e3
*縦書き版は
Romancer『掌編 -Short Short Stories-』にて無料でお読みいただけます。
https://romancer.voyager.co.jp/?p=116877&post_type=rmcposts
無音 深川夏眠 @fukagawanatsumi
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