最後の扉 エピローグ
春のうららかな日差しの中、私とその少年は桜の木の下で再び出逢った。あまりにも懐かしい横顔を今でも鮮明に覚えている。私と少年を暖かな風が包み、桜の花びらが宙を舞った。
「?」
ふと少年が私の存在に気づき、目線が桜から移った。いきなり目に飛び込んで来た私の存在にビクリと肩を揺らして、少年は肩掛けの鞄の紐をギュッと握った。
「あ、えっと、桜、好きなんですか?」
少し背が伸びている。声も年相応に低くなり、大人っぽくなっていた。そして、その瞳には緊張の色が濃く浮き出ている。以前見つめてくれた優しい光はそこにはない。
前と同じ質問。でも、そこに居るのは前とは違う人。
「……はい」
私は潤んだ目元を隠すように俯いた。こうなっていることは分かっていた。もうここには自分の居場所はないのだと。それでも、こうして現実を目の前にしてしまうと張り裂けそうなほど胸が痛い。
「僕も好きなんですよ」
「そう……ですか」
「温かくて、優しくて、包み込んでくれるような感じがするから」
「……え?」
少年の呟いた言葉に私は驚いて顔を上げた。すると、そこには優しく微笑んでくれる彼の姿が。
「お帰りなさい、桜木さん」
彼の目から緊張の色は消えており、以前のような暖かなまなざしが戻っていた。そして、いつの間に集まってくれたのだろう。彼の後ろには、優しく微笑んでくれている懐かしい少年少女たちの姿が。
「「お帰りなさい」」
彼らの声が重なって、穏やかな風が桜の花びらを巻き上げる。
「………ただいま」
これは心のない私と弱虫な少年が、笑顔と勇気を取り戻していく物語。
〈完〉
作者あとがき
ご愛読いただきまして、ありがとうございました。彼らの冒険を見届けていただき、読者の皆様には感謝の言葉しかありません。本当にありがとうございました。
未熟な点、至らぬ点も多々あったかと思いますが、ここまで彼らを愛してくださりありがとうございます。皆様のコメントや応援ハート一つ一つに励まされておりました。私自身楽しい執筆生活を送ることができました。
翼たちの冒険はここで終わりとなりますが、また機会があったら触れることのできなかった董魔のことや、風花が翼たちと出会う前の物語など描けたらいいなと思っております。
また近況ノートにて今後の予定を公開いたしますので、そちらも覗いていただけると嬉しく思います。
長くなりましたが、応援いただきありがとうございました。全ての読者様に感謝を。また会う日まで、どうぞお元気で。
花音
きみと桜の木の下で 花音 @kanonon
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