これは一つの男女のカタチ

 作中の社会には『ミスマッチングアプリ』なる相手との相性を表示する機能が登場します。この機能は「ミスマッチ率」が表示され、相手との相性の悪さも表示されるものです。正直、ここまでは大して物珍しい設定ではありません。しかし、冒頭のたった三行に非常に興味深い内容が書いてあることで、汎用性の高いよくある設定が大きく化けたと……結果的には思っています。掴みが完璧だと思います。

 少し内容に触れてしまいますが、まずメインである二人の男女は、例のアプリによると相性が最悪です。これについては文面を追っていても、ことごとく合わないことが分かります。ですが同時に恋愛は……少なくとも作中の二人にとっての恋愛はそういうことじゃないんだなとも思わされます。文面に書いてある合わない箇所なんて、二人の気持ちを前にすれば大したことじゃないのです。

 現実において、恋愛は様々なカタチをもって人々の生活に寄りそっています。つまり、答えもなければ結果論でしか成りえないものがほとんどです。そんな曖昧なテーマを扱った本作も例に漏れず、数ある恋愛のほんの一端を垣間見ることができるものです。すれ違いと歩み寄りを繰り返す様子、アプリにより単純化されたはずの男女の関係が上手くいかない様子。読者の頭に残る二人のミスマッチング率。そしてラストまでの展開。全てがドラマチックで感動できるものでした。

 また、起承転結がとても上手く、筋書きの流れが本当にキレイです。それと、本質としては社会の変化というより、恋愛のカタチに焦点を当てた作品だと思っています。

 私も作中の恋愛について少し考えてみましたが、仮にマッチング率が100%だった場合、それはもう恋人ではなく親友になれる相手だと思います。必ずしも同じ方を向くことが恋愛の良さとは限りませんね。ただはっきりと言えることは、背中を押してくれるのは同じ方を向いている人だけです。背中合わせでは互いに押せませんから。

 恋愛だけでなく、人間関係に対して前向きになれる素晴らしい小説です。

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