十年分の喜怒哀楽を読者のみんなにお裾分け

 事故により意識を失った少女が、意識を取り戻すと女性になっていた。そんな冒頭から始まります。タイトルにもありますが眠っていた期間は十年。それだけの時間が経てば想像もつかない変化がありますね。それに彼女の場合は子どもから大人になる大事な時期を丸々置き忘れてきたわけです。読者として自分に置き換えてみましたが、周囲だけでなく自身の影響も図り知れませんでした。

 一人称視点で書かれた本作ですが、特徴的だと思った点があります。終始、自身の内面と向き合っていることです。創作という面でみれば、周囲の状況を豊富に取り入れて作品に彩りを加えたい、もしくは読者の想像を補うために広く書きたいと思うことがあると思います。もちろん描写を増やすことが正ではありませんが、本作は文字通り少女じみた女性の内面を、女性の視点で、気持ちで、これでもかというほど書き連ねています。序盤と終盤では印象が変わりますが必死なんですよね、彼女は。そんな彼女へのスポットの当てかたが巧みですので、誰もが感情移入し、文章の河に浸ってしまうはずです。ただし本作に限っては、彼女の内面の描写に惹かれることと、彼女自身に惹かれることは別ものです。主観的な見方では、彼女の魅力が溢れるのは最終回、またはラストシーン以降の話だと思います。そう思うほどにラストに向かうにつれ、彼女の心境や周囲との関係にドラマ性がありました。独白形式に終始した上で、読者の心を掴んで離さない文の力を感じた気がします。それは正しく、主人公の良い面も醜い面も含めて、一人の人間を丁寧に書き上げた作者様の力です。

 短い文字数で多感な心の移り変わりが綺麗に、でも生々しく書かれています。辛いシーンもありますが、だからこそ光るシーンもあります。読んでいるときは一人の少女を見守っている気持ちになり、読み終わったときには感動と、未来への希望を予感する喜びで満たされます。分量・内容ともに超おすすめです。