作中空気の変化に注意

 「黒づくめで行ってはならない」といわれる小瀬路という街。なぜそんな噂が流れているのか、その理由と真相を確かめるため主人公自らが黒づくめとなり現地へ赴く話です。

 ジャンルはミステリーに設定されていますが比較的ポップな文体で、途中まではコメディーもしくはファンタジーかと思うほど愉快な描写が続きます。ただ最後まで読むとわかりますが、この筋書きは間違いなくミステリアスもしくはホラーのようです。

 冒頭が「何かが起こる」ではなく「黒づくめが駄目」という切り口で始まるため、話の焦点が不透明なまま進むことになります。これが上手いところですね。黒が「なぜ」駄目なのかをずっと考えながら読むことになり、読者としては作中の些細なことに逐一敏感になってしまいます。不気味でしたが、この辺がミステリーたるところでしょうか。また、ネタバレを避けて書きますと、本作には単純なリアリティーに拘らず、突拍子もない出来事を持ち出してきます。急な変調に意表をつかれますが、冒頭から常に勢いのある進行ですので、不思議と納得し、ハッとさせられるものでした。

 作中の街には、創作物のルールとして歪で不自由な箇所がいくつかあります。それらが読者の想像力を刺激し、尚更不気味な印象を与えているのだと思います。謎を解くより、話の先が気になりました。こういうミステリー作品もあるんだなと感心しました。

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