すべてが白になる
平中なごん
一 白い駅
とある地方都市に「
別にターミナル駅というわけではないし、けして大きくもなければ小さくもなく、利用客もそれなりのなんてことはない普通の駅であるが、この駅周辺の地域に関して、なんとも奇妙な都市伝説が囁かれている……。
〝その街に、けして黒づくめの服装で行ってはならない〟
そんな極めて短いセンテンスの、意味不明な都市伝説である。
語られてるのはただそれだけで、なぜ黒づくめで行ってはならないのか? もしも行ってしまったらどうなってしまうのか? その理由や結果に関してはまったく触れられてはおらず、それを知る者も俺の調べた限りではいなかった。
そこで、某チューバーとしてバズり、その広告収入で食っていこうと密かな野心を抱いていた俺は、自らの体を張ってその理由を解明するドキュメント動画を撮ろうと考えた……。
即ち、俺自身が黒づくめの格好でその街に行ってみるのである。
「――ええ、尾瀬路駅に到着しました。特に変わった様子は……ありませんね」
電車を乗り継ぎ、その駅に降り立った俺はスマホを構えながらホームを見渡す。
やはり、なんの変哲もない普通の駅だ……
と思ったのだが、しばらく眺めた後にふと、ある奇妙な特徴に俺は気づいた。
〝黒いもの〟がまったくと言っていいほどないのだ。
ホームの床や壁も、乗り降りする乗客の身に着けているものも、そして学生達の着ている制服までもが、赤や青や黄、他の色は普通に溢れているというのに黒い色だけがまるで見当たらない……。
辛うじて濃い灰色くらいなら目に映るのだが……逆に、白い色のものはなんだか多いような気がする。
そういえば、あそこにいる高校生の一団は珍しくも白のブレザーに白のスラックスという白づくめの制服だ。
「…はっ! まさか文字まで……」
そのことに思い至り、振り返って駅名の看板にスマホのカメラを向けてみると、通常、白地に黒で書かれているその文字はなぜか濃い緑色で表記されていた。
「まるで、黒を使うことが禁止されているような……」
思わず撮影を忘れて譫言のように呟き、再び周囲を見回してみると、ホームに屯する人々は皆、黒づくめの恰好をした俺の方へちらちらと憐れみを帯びた視線を向けている……いや、それはただの思い込みで、そんな気がするだけなのかもしれないが……。
「……と、とりあえず駅から出てみまーす」
不思議さを通り越し、なんだか得体の知れない不気味さのようなものを感じながらも、俺はスマホで撮影を続けたまま、外の街に下りてみることにした。
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