豪雨のために列車の中へ閉じ込められた「あたし」が遭遇する四人の乗客。女たちの繰り広げる会話は、他愛のない世間話かと思いきや──。
女たちを観察するあたしの一人称と女たちの会話のみで進んで行く、密室劇のような物語です。降り続ける雨、止められたままの列車、車内の密封感のある空気。それが、女たちの会話する声と相まって、なんとも酸素のうすい雰囲気をこちらにまで伝えてくれます。
そして、その中で展開される、一人の女の話が……。
自分の考える物事や人物は、あくまでも自分のものでしかなく、その視点が変わった瞬間、世界は覆るほどにも違って見えてしまう。その見せ方が非常に不穏で薄気味が悪い。このように人間を見せられるとゾワリと背中が寒くなります。
ふとした描写に主人公の人柄が見え隠れするところ。
舞台劇のようなエンディング。
すべてにおいて隙のない、上質な短編です。
突然の豪雨に見舞われた女たち。
そこで繰り広げた、たわいもない会話。
それだけのはずだったのに……。
女心を知り尽くしたこちらの作家さんが手掛ける短編は一筋縄じゃ終わりません。
女はやっぱり女。
いつ寝返るか、仕打ちを受けるか、手をくだすか。
語り手だからと安心してはいけませんよ。
たった一夜、それもただの暇つぶしの会話。
でもそれが、誰かの首を絞めることになるなんて。
プロットの巧みさ。文章の吸引力。心理描写のテクニック。魅力的な比喩表現。
何気ない会話の中から、女という生き物にハッとさせられた一夜の物語でした。
ぜひ、驚きの短編に出合ってみてください。