エピローグ

 結局、二人の差し違い事件は、喧嘩の末にそうなったと発表があった。

 僕らにはどうにも立ち入られない大人の世界があるようだ。

 亡くなられては、ご遺族もご傷心だと思う。

 しかし、相手は、SNSに潜む『ハンムラ』だ。

 誰かが、『@ハンムラビ法典で裁く』を使うにしても、効果を確かめることもできない。

 中学側でもどこかの探偵事務所に依頼して、このイタズラに近いアカウントを探させたらしいが、存在しないとのことだ。


「僕らは確かに見たのに」


 誰もが、そう呟いた。


「あの赤い文字までも、今は血の色に感じる」


 僕も百合愛さんも気持ちはシンクロしている。


 この事件もあって、『つぶやきくん』の管理人らも事情聴取を受けたが、『ハンムラ』の噂すら知らなかったと言う。


 ◇◇◇


 十月の朝焼けが、人の住処を焦がしている頃、僕は、百合愛さんと肩を並べていた。

 凄く度胸のある彼女だけれど、本当は僕よりも十センチ程小柄なのだなと気が付く。


「一戸建てなんだ、丹羽さんのお家」


 実は、さっき丹羽さんのお家へお迎えに行った。


「え、でもでも。さっき聞いた端田くんの妄想と違うよ。白いグランドピアノはないからね。ご近所迷惑になるからね」


 彼女の慌てぶりが、妙にツボにはまる。

 少しほっとしていた。

 正義感の強い百合愛さんが『ハンムラ』を利用していなくて。

 こうして、普通の中学一年生だ。


「そこの角を道なりに曲がると、学校が見えるの」


 そっと手を添えて教えてくれる。


「クラス委員の丹羽さんと一緒なら、遅刻にならないかもね」


「この! 光太くん!」


 そして、僕をぽこぽこする百合愛さんは、可愛い……。


「ゆ、百合愛さーん」




 ――幻。


 それは、誰もが求めるから、与えられるモノだろう。



 人を呪わば穴二つとも言う。


 愛すればいいと思うようになろう。


 愛した方がいい。




 そのとき、秋風が僕の頬を去った。














Fin.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハンムラビ法典は夢のまた夢 いすみ 静江 @uhi_cna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ