恋慕と呼ぶには醜すぎる
一度だけ「好き」と思った。
それから、何度も「死ね」と念じた。ある時は海、ある時は階段。彼女の丸っこい背中を突き飛ばしたくて仕方なかった。
こんな感情は恋とは呼べない。恋慕と言うには醜すぎる。
……歩道橋を彼女と歩いていた。突然風が吹いて、あの娘の柔らかな髪を崩す。さらさらと、髪が宙に舞った。くすぐったそうにそれを払う手のひら。
その動作全てに見惚れていた。その全てが私にはないものだったから。
(ないものねだりってやつなのか)
ふいに、さらに強い突風が吹く。私はぐらりと足元を踏み外し、そのまま転げ落ちそうになる。 あ、と声がして、ぐいと体を引き寄せられた。
「危ない」
彼女に腕を引っ張られて、体の重心が元に戻る。
好きな人の死を願ってしまう私は、罰のようにこのまま落ちてしまえばよかったのに。
恋愛なんて嫌いだ。取り繕おうとする気持ちをぼろぼろにされて、気づけば丸裸にされた自分と向き合わざるを得なくなってしまうから。
自分さえ振り回す吊り橋のような私の感情を、なぜ君はためらいもなく土足で入り込むことができる。
そう思って、花粉のせいに出来なくなるくらい、ぼろぼろに泣いた。
手のひらに、幻想初恋 階田発春 @mathzuku
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