とあるつがい

そして、歩みゆくのは






「風が気持ち良いですね、ラオイン」

「そうだな、ルリ」


 ふわり。黄と赤の落ち葉が混ざった晩秋の風が、ルリたち二人を撫でては通り過ぎる。

 今日は伏籠家の本邸からは少し離れたところにある場所に、墓参りに来ていた。




 マザーコンピューターがただのシステムになって、それから。

 ルリとラオインはすぐに、伏籠夫妻とその末娘の弔いをした。


 いつの間にかどこからか現れた柘榴石の色をした人形――ガーネディゼットが伏籠一家をあの墓所へと運ぶ手伝いをしてくれたのだ。彼のおかげで、きちんと丁重に彼らを送ることができた。



 そして、彼らの墓所には毎日のように新しい花が置かれている。

 今日のは、まるで柘榴石ガーネットのような濃く深い赤色のコスモスのようだ。




「こんにちは二人とも。こんにちは皆。……こんにちは私」

「……自分たちは達者で暮らしています」


 ルリとラオインは、そんなふうに石碑に話しかけ、それぞれのやりかたで祈りを捧げる。

 この鳥籠楽園には神はいないし、この世界のどこにも神はいないのだろうけど、こういうのはやること自体が大切なのだと、ルリは思えるようになっていた。




 マザーコンピューターがただのシステムになっても、ルリたちの日々は変わらない。

 アクアシェリナとガーネディゼットは少しだけ微笑みが柔らかくなって、モルガシュヴェリエは相変わらず人形の調理人で、そしてアメジスティーニャは、いない。



 でも、隣にはラオインがいる。大切なひとがいる。



 祈りのために組んでいた手を解いて、ルリはふとつぶやく。

「これで、よかったんでしょうか」

「それはわからない、だが……俺たちはもう、道を選んで歩き出したんだ」

「そうですね」

 ふふふっと笑う。

 選ばせてもらえないことの苦しさは――ルリは何者よりも知っているつもりだ。

 自分で選んだというのは、尊いことだ。






「ねぇラオイン、私でよかったんでしょうか?」

「あたりまえだ。俺が選んだんだ。俺の……大切な人」








 ――これは 鳥籠で育ったルリと 傷ついて鳥籠に落ちてきたラオインが つがいになるまでの、優しい物語。






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鳥籠楽園の幼妻 冬村蜜柑 @fuyumikan

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