ありふれた物語にHello!~特別な事しか出来ない男の話~

Lalapai

異世界転生なんて…


「とある会社に疲れた男が帰路の途中でトラックにはねられて異世界転生、、、」


性格はともかく今時の男子中学生が勉強机に肘を置きスマホで小説サイトを眺めながら座っていた。今読んでいるのは異世界転生もの。10年前と比べて今最も盛り上がっていると言ってもいいジャンルの一つだ。

しかし、読んでいる男の顔はつまらない顔のお手本となるくらいつまらなそうに読んでいた。


「ありふれていてつまらねぇーなー」


その男は目見田 めみだ れんという男子中学生。特別を好み、普通を嫌うおかしな男子中学生だった。

例えば今、蓮が読んでいる異世界転生ものの小説は普通であるのだ。中身はさて置き蓮は断片的に捉えて普通だと思ったものは嫌うのだ。言わば厨二病を拗らせているのである。


「まーた直ぐ批判しちゃって〜。そういうのは最後まで読んで感想を言うものでしょ?」


蓮に対して顔の隣でメスを入れるごく普通の女。髪の毛が頬に当たってくすぐったい。背にあたる貧相な胸。距離が近い。蓮の頬が一気に赤くなる。


「絵梨?!近いって!ちょっとは離れろよ」


この女は幼馴染の仁和寺 絵梨にんなじ えり。小さな頃から蓮が絵梨を家にあげて放課後の暇を潰しているが相も変わらず極端に距離が近いのだ。こういうのは大抵歳をとるにつれて異性を意識して距離を取るはずなのだが絵梨もまた特別なのだろう。


「えーだって離れて話したら普通でしょー?だから近くで話してるの。蓮ちゃんは普通が嫌いだもんねー」


絵梨は押し退けようとする蓮に対してあえて強くぎゅっと抱き締める。


「おいおい…苦しいぐるじぃ、、ギブギブ!」


蓮は溺れた犬のようにもがいてみせる。それを見てクスクスと笑いながら絵梨は腕を外してあげた。


「ふー、、、てか絵梨はやる事ないのか?」


何とか解放された蓮は絵梨を遠ざけようと牽制する。


「生憎だけど宿題も全部終わっちゃったの。だから蓮ちゃんは何してるのかなーって。」


「あーそーかそーか。なら邪魔にならないように離れてくれ」


「ちぇーー。あ、あれから蓮ちゃんが書いてる小説は進んでるの??」


蓮は少し前から小説を書き始めていた。理由は単純で物書きに憧れていたからである。


「んー全然進んでない。。」


「わざわざ難しい表現にするからでしょー。ずっと思っててあえて聞かなかったんだけど何でそんなに特別にこだわるの??」


絵梨はずっと不思議に思っていたがあえて聞いていなかった。あれほど特別に執着する蓮には特別な理由があると思って。だがついに聞いてしまった。


「そ、それはー、、、」


「それは?」


「カッコいいから…」


蓮は紙一枚でも会話に挟めば聞こえないような細々とした声でそう言った。

思わず絵梨は笑ってしまった。そして何かのチャンスだと捉え蓮のふところを攻める。


「へーそんな事でこだわってたんだー。子供っぽーい」


「な、なんだとー?!普通の方が子供っぽい!」


「そーかなー。私は普通の方が好きかな。特別特別ばっかり言ってるとお嫁さん貰えないよ?」


「え?いや、なんでお嫁さんの話になんだよ!関係ないだろ。」


蓮の威勢がだんだん消えていく。


「蓮ちゃん顔赤〜い。昔から恋バナとか苦手だったもんね〜。」


蓮は顔を真っ赤にし恥ずかしがっている事を悟られまいと即座にスマホを見るが、それがまた逆効果だった。

昔から蓮は人一倍恋愛に敏感でいつも恋愛話やドラマを見てると恥ずかしくて目も耳も塞ぎたくなってしまう。女の子と話すのだって絵梨ぐらいしかまともに話せない。そう言った意味では絵梨もまた蓮にとっては特別であった。


「そうだ蓮ちゃん!恋愛小説書いてよ!」


「恋愛小説??」


今、蓮が手掛けている小説はSFもので、過去にも他ジャンルは書いてきた。しかしながら、恋愛小説は一度も書いたことも書こうとしたこともなかった。


「お、俺はれ、恋愛なんて興味ねぇから書かねぇ。」


「えー。興味ないって事は蓮ちゃんにとって恋愛は普通なの?特別なの?」


「えっ」


その質問は蓮にとって予想外であった。いつもなら蓮に気を使ってかは知らないが恋愛の話はすぐ切り上げてくれていた。だが今日の絵梨は少し違った。まさかこんなにもぐいぐい聞いてくるとは思っても見なかった。


「れ、恋愛は普通かな…」


「普通かぁ。なら蓮ちゃんは恋愛が特別にならない限り恋愛出来ないね。」


絵梨は蓮の弱い答えに強く返した。そしてそのまま蓮の隣を離れ床に座り机に置いてあったクッキーの袋を開け食べ始める。

しばらく沈黙が続いた。ただ聞こえるのはお菓子のクッキーが砕ける音だけ。蓮は絵梨を怒らせてしまったと思い喋りかけれずにいた。それとクッキーを美味しそうに食べる絵梨を見て小腹が空く。


「なぁ絵梨。クッキー1枚くれよ。」


蓮がその言葉を口にしてから返って来るのは軽快なクッキーの音だけで、しばらく返事は返ってこなかった。

そして10秒ほど間が空いてから絵梨が言葉を発した。


「ねぇ蓮ちゃん。」


「お、おおなんだ絵梨。」


「蓮ちゃんは特別な事、何してるの??」


蓮は返事に困った。普通ではないようにしているがいざそれを説明しろと言われてもその特別が逆に蓮にとっては普通になってしまっているからだ。結局返事は出来なかった。

それに気づいたのか絵梨は問い方を変えてきた。


「じゃあししゃもはどこから食べるの??」


この問いなら答えることができた。


「それは腹から!」


「それは珍しいかも…」


絵梨も即答の腹に疑いも持つ余地が無い。そして質問を続けた。


「んじゃあお風呂はどこから洗う?」


「そりゃ歯磨きする。」


これも即答。


「なら、大乱闘の好きなキャラは??」


「んーそれはディオンかな。」


「ディオン??、、、ボスキャラかよ!?しかも最新版ではリストラされて出れてないやつじゃんか!」


これには即答ではなかったが誰も覚えてもいないようなキャラ名が出てくるだけ嘘ではなさそうだ。


「まあ確かに特別か。。。じゃあ箸はどうやって持ってるっけ?」


実は幼馴染だが一緒に食事をしたことがなかった。さらに同じクラスになったのは小学1年だけであり、箸の使い方など憶えていない。


「左手で使ってる…」


「それはなんかしょぼいなぁ、、、」


それにしても蓮の特別っぷりは凄いものだった。知ってはいたが改めて聞くと尊敬に値するほどの徹底だった。


「やっぱり凄いなぁ蓮ちゃんは、、、じゃあさぁ…」


そう言って絵梨は立ち上がり再び蓮の隣に立つ。絵梨の顔は少し赤く、さっきまでのにこやかだった表情が強張る。様子のおかしさに蓮は椅子から立ち絵梨の顔を覗き込む。


「ど、どうしたんだ??」


「最後の質問ね??」


「えっ?良いけど…」


「私は蓮ちゃんが好きです。付き合ってくれない??」


「え、えっ??!!」


蓮はあまりの急展開にオーバーヒート。必死に頭の中で事を整理するが事の大きさに整理が追いつかなく言葉がすんとも出ない。

少し時間が経ちやっと整理がついた。返事を返したいのは山々だが初めてされた告白。蓮はこの状況を客観的に捉えた時、自分の男らしくなさに恥ずかしくなり返事を忘れとっさに椅子に座りスマホで顔を隠した。

そんな蓮に対しても絵梨はにこやかに返事を待っていた。


「ね?これは普通の告白よ?嫌い?」


絵梨は一歩も引かず弱った蓮を攻め顔を覗き込む。鼻の下が伸びきった顔を見られまいと蓮はスマホに映るありきたりな異世界転生ものの小説を読む。


「やっぱり蓮ちゃんは特別じゃ無いとダメなのね」


絵梨がそう言って蓮の元をそっぽ向いて離れようとした時、蓮は絵梨の手を掴み言った。


「あれだな。トラックに轢かれて始まる異世界転生もいいもんだな。」


こうして一つの特別なカップルが誕生したのだ。

ここから蓮が普通になるための特訓を絵梨とするのはまた別の話。。。

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