佐野 雅之 (32歳・無職)

僕は世間でいう引きこもりの1人だ。

5年ほど前に仕事を辞めたことがきっかけで、それ以降ずっと部屋に閉じこもっている。


実家に住ませて貰ってはいるけど、親とは引きこもってから数回しか顔を合わせてない。

最近ではもういない存在として扱われてる。


部屋にこもり、テレビを見ながらただ時間が過ぎるのを待つ日々。

正直死ぬことだって考えた。

けれど、どうしても死ぬ勇気が出なかった。

首を吊って死ぬことを想像すると、怖くてどうしようもなかった。


そんなある日、ずっと注目していた安楽死制度が可決されたとTVで報道されていた。

これで救われる。やっとこんな人生を終わらせることができる。


そう思ったが安楽死するには100万円が必要らしい。

なにが"死ぬ権利が認められた"だ。

結局お金がないと何も出来ない世界なんだ。


そもそもどうして僕がこんな目に合わないといけないのか。


子供の頃から"あがり症"に苦しめられてきたけどずっと頑張ってきた。


人前で顔が真っ赤になり、手や言葉が震えて上手く振る舞えない。

頑張って改善しようと大学生になってからは、プレゼンも積極的にやってみたけど全然ダメだった。


就職してからもすごく辛かった。

オフィスで電話に出ようとしても、手と声が震えて上手く応えられず何度も怒られた。

来客のお茶を出しに行っても、手が震えてるのを見て笑いながらバカにされた。


当然そんな僕に仕事が回って来るはずもなく、ずっと雑用扱いされてきた。


それでも仕事を休まず頑張ってきたのに。

結局僕はうつ病になり働くこともできなくなった。


心療内科に通い、薬を処方してもらったけど全く効果はない。


全く何もする気がおきず、仕事にも行かなくなった。

そのまま家に引きこもるようになり、気持ちが落ち着いた頃には、携帯も使えなくなり絶望的状況。

そのままズルズルといき、気づいたら5年間も引きこもっていた。


一体どうしたら良かったんだろう?

薬に頼った自分が悪かったんだろうか?


まあ今更嘆いたところで仕方ない。

どうせ自分は安楽死もさせて貰えないのだ。


それから1週間経ったある日、両親が2人とも仕事に行ったタイミングで、いつも通りリビングに向かった。


ふとテーブルを見るとA4サイズほどの紙が2枚置いてあった。


親からの置き手紙なんて珍しい。

そう思い手紙を手に取ると、こう書いてあった。

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100万円払えば苦しまずに死ねる世界で、あなたは生きることを選択しますか? 若宮ナオ @wakamiyanao

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