第26話 シン v.s. マルス
■9月17日 15時30分
「シン!」
後方からリーの声が聞こえた。
シンは、すかさず目くらましの光をマルスに浴びせ、声の方向へ飛び出した。
「リー、ありがとう。」
「ええよ! とっくに覚悟はできてる。その代わり、絶対に倒しぃや!!」
鉄扇に拳を添え、風の力を篭手に移す。
力が篭手に漲るとともに、リーの命の灯火が消えていくのがわかる。最期の風が溢れ出し、鉄扇がゆっくりと落下していく。シンは篭手を握り締め、風の感触をしっかりとつかむ。
「フゥー、フゥー、フゥー……ッ!!」
マルスが息を荒らげている。
「ふン、〝風のサカズキ〟を得タか。ダが、それだけのダメージを追ってイては、モうまともに起動するスゥる、ことも難しイんじゃアないカ?」
マルスは余裕の笑みをこぼしている。
その姿を、シンは全身に切り傷と火傷を負った状態で見下ろす。
これまでのマルスとの攻防は、たったの二、三分程度だった。しかし、攻撃を凌ぎきることはできず、相当なダメージを負っている。一方、マルスの方はほとんど無傷の状態だ。
〝サカズキ〟を三つ合わせただけでは、〝渦〟も、〝呪〟も、マルスの圧倒的な量のマナを前に効果が薄かった。また、〝光〟の力で残像を作ったり、目くらましをしても、問答無用の広範囲攻撃の前には意味がない。先ほどまでの戦いは、一方的な展開だった。
さらに気になることは、マルスの様子が徐々におかしくなっていることだった。
はじめのうちは、妙にマナの量に強弱のついた戦い方だったが、時間が進むにつれて、マナ全開の力任せな攻撃が増えてきていた。
本人は異変に気づいていないようだったが、明らかに何かに侵食されている。攻撃の最中に意識を失っているような状態で、無意識に攻撃をしながら「ホシタミィィィ!!」などと叫んでいる。
「こいつはまさに、スサノオの亡霊……といったところか。」
シンは深呼吸をしながら、体内にマナを溜めていく。
「スサノオの亡霊ィ? 私ガガガか?
フん、私は完璧にスサノオの力を我が物とした! スサノオに代わり、わわタスぃが〝草薙剣〟を手に入れレ、ヒトとトともにィ平和で安定シた、完璧な世界を作ルのだアアアア! そのタめにィ私は、ウン、運命に選ばれタノだァ!」
「完全に、スサノオのマナが体の容量を超えてるな。脳も犯されてる。
……自分で気づいていないならもういい。何が何でもお前を倒す。命に代えてもだ!」
全身から血を流しながら、シンは〝サカズキ〟をフル稼働させる。
短期決戦だ。回転を意識しながら、風の刃を纏った拳で、光の速度で呪いを打ち込むしかない。
シンは最大速度で間合いを詰めると、玉砕覚悟のインファイトで、一気にマルスに連打を浴びせた。
これまでよりも段違いのスピードに反応が遅れたマルスは、シンの連打をまともに浴びる。〝呪〟の効果が発揮され、体内のマナをかき乱される。通常であれば激痛が全身を駆け巡るのだが、マルスは痛みを感じていなかった。マナに犯された脳は、興奮物質が過剰に分泌され、異常なほどハイになっていた。
シンの手ごたえとは裏腹に、マルスは流れるように刀を構え、シンを切りつけた。
「ぐっ!」
咄嗟に後ろに避けたが、水で拡張された刃が、シンの胴を斜めに深く切りつける。
そこから熱波が送り込まれ、細胞が破壊される。おまけに全身が麻痺するほどの電撃つきだ。
痛みと衝撃で飛びそうになる意識を必死で繋ぎとめながら、即座に懐に飛び込みなおし、連打を加える。だが、それも頑強な体を持ち、既にほとんど意識を失っているマルスには意味をなさない。
「くそっ!」
次の瞬間、先ほどよりも素早くマルスが刀を振る。
対応に遅れたシンに二度目の刃が襲い、意識は闇に落ちていく。
気絶しかけシンが倒れようとしたところに、マルスは追い討ちの衝撃派を見舞った。
弾け飛び地面に仰向けに転がるシン。
そこにとどめの一撃を加えようと、マルスは天高く跳びあがった。
ありったけのマナを刀に込め、上空からシン目掛けて突進していく。
「アアアアノ女と同じヨウに、ムネにぃ刀をツッツ突き立ててッテやるッ!!」
もう数秒でシンを消し炭にできる。
そう確信したマルスの目の前に、槍が飛び出してきた。
ホシタミ やとやなか @yatoya_naka
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