3.ノック
昔とある池と池の間にに住んでいたんだけど。
その池というのは、浮島が浮いていて何万年も前にできたという天然記念物と、完全に人口的に作られた池なんだけど、どちらにも幽霊話があるのね。
それも結構面白いのだけれど、またそれは別の機会に話すわ。
私の住んでいた小さなかわいいお家。
そのお家には二階があって出窓があって、雨戸が付いてた。
小さな庭も、素敵な花壇もキチンと手入れされていて、春には春の花が、夏には夏の花が、秋には葉が色づいて紅葉して、冬にはクリスマスの飾り付けがされてたわ。
ポーチには素敵な緑色のライトが付いてた。
玄関を入ると、いつも美味しそうなおやつや、夕飯の匂いがした。
小さいけれど、暖かくて、素敵なお家だったの。
だけど、どうしても好きになれなかった。
二階の奥の部屋、そこがね、どうしても、どうしても好きになれなかったの。
その部屋の飾り棚の奥、部屋の角っこ、線が三本集まるところ、そこにね、黒い、黒い影がいてね。
なんなのかはわからない。黒い影、としか言いようもないもの。
明るい昼間でも、なんだか薄暗いし、モヤっとしているように見える。
それがね、怖いから。
一番怖いのは、夜眠る時、灯りを消して目を閉じようとする時、その影がね。なんだか一層濃くなって、その場所から進出してこようとするかのように圧みたいなものを発するの。
目を閉じてても感じる。
でもまだ目を閉じて感じていても、眠って仕舞えば、朝が来て仕舞えばなんでもなかったのよ。
あの日まではね。
ある晩、いつものように圧を感じながらも『これには何もできない。私は大丈夫。』って自分に言い聞かせながら眠ったの。怖い日には、そうして自分で自分に言い聞かせて眠ってたの。
だって、大人にそんな事言っても信じてもらえないって思うじゃない?
だからそうやって、その日も眠った。
いつもなら、いつのまにか朝が来る。悪い夢を見ても、いい夢を見ても、明るい光が瞼をあけてくれる。
でもその日は違ったの。
圧が、暗闇が私の瞼をこじ開けた。
真っ暗闇の中で目覚めた時、この世でアレと私の一対一しかないように感じて恐ろしかった。
アレは黒々として、いつもより濃く、深く、力強く圧を発してくる。
ひとりぼっちの私はともかく『これには何もできない。私は大丈夫。』を頭の中で繰り返し、繰り返し、ついには声に出した時だった。
『コンコンコン』
アレ、の位置からそれは聞こえてきた。
家鳴りって有るでしょ?でもそれとは違う。だって、そこからハッキリとノックの音がする。
向こう側からこちら側へ、入れて、ってノックよ。
ハッキリ。
『こんなのは家鳴りだ。気のせいだ。私は大丈夫。』
「これには何も」
『コンコンコン』
私は枕を掴んでママの部屋に転がり込んだ。もっともっとちっちゃい子みたいに泣きじゃくりながら。
ママは
「いつまでも赤ちゃんねえ。」
と優しく抱きしめて、お布団に入れてくれた。
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