2.23日

「デカ藪は来ねえ。」

ものすごく不機嫌そうに頭を掻きむしりながら、宮本が呟いた。

「そうやね。みやもっちゃんちっちゃいから、藪内君デカく見えるよね!」

「今はそう言う気分じゃないです。」

くるくるくるくるペン回しを繰り返しながら、また反対の手で頭を掻く。

「頭削れんで。」

本当にめんどくさそうにすごい顔で睨んでくる。

おおこわ。

僕は携帯の画面を覗き込んだ。

「電話しても無駄だと思う。」

ペン回しも睨むのもやめて、宮本が低い声を出す。

「どしたん?」

電話しないわけにいかない。だって、藪内君と僕、宮本でチームじゃないか。

3人で出さなきゃいけないレポートのために今日だってこうして、こんなに晴れたいい日だってのに研究室なんかで待ち合わせしたんじゃないか。

僕だってイライラしてるんだ。とは、宮本のイライラを見てると言えなかった。

「ほんまに。どないしたん?」

宮本は気のいいやつだ。いつもなら僕がイライラして宮本が冗談なんか言ったりしてなだめる役じゃないのか。

「俺、朝電話したんだよね。そしたらさ、

やぶーち、変なこと言ってて。ノックが、とかなんとか。」

「え。」

「なんかやな感じがすんだよ。うまく説明できないけどさ。なんつーか、ほんと。まるで藪内一人じゃないような気がするんだ。」


ノック。


その何でもないはずの単語に僕は固まってしまい、身動きできなかった。

「どうした?」

「…話してへんかったっけ?」

「何を?」





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