「世界が白く燃えている」
という「白」に埋め尽くされた、夢なのか現実なのか定かでない、美しくも激しい場面から物語がはじまる中、主人公であるエルバは見知らぬ荒野で目覚めることになります。
エルバの手にあるのは、白い剣のみ。
状況の飲み込めない彼の元に、奇妙な獣が現れ襲いかかってくる――
という風に、物語はどんどん進んでいきます。
エルバが出会う人やものを通して、徐々に世界観が明らかになっていく構成がとても自然で、ファンタジーにありがちな説明されている感がありません。
描写も非常に精巧で、目の前に場面が浮かんでくるかのよう、エルバとともに荒涼とした世界を旅しているような気になります。それほどに世界観が素晴らしい。
白い人。荒れ果てた世界。人を食らう獣ヒトハミ。贄の王国。
様々なものが絡みあい、物語の真実が明らかになる時、作品のタイトル『花の贄』という言葉がとても響いてきます……。
まずは第一話を読んでみてください。最初から引き込まれ、物語の世界にじっくりと浸れる優れたファンタジー小説です。
どうか、荒涼とした世界へ足を一歩進めてみて下さい。
世界観設定が、凄かった。
精密に築き上げられたそれは、物語が進んでいくにつれて、どんどん深掘りされていく。
深まる謎。解けていく謎。世界が広がっていく様。
それに私たち読者は、抗う術もなく呑まれていく。一気読みは仕方のないこと。
そんな濃密な世界観設定に劣らない、キャラクターもまた凄い。
彼らは皆、性格が全く違う。共通点も薄い。
だが、彼らはそれでも協力し合って生きていく。
これが、人と人が『繋がる』ということだと、実感させられた。
違うからこそ、面白い。
違うからこそ、寄り添おうとする。
それが絆なんだと、読み進めていく中で、私の心にすとんと落ちた。
そして、彼らは物語を通して成長していく。
でも、それを直接的には描かない。
あくまで、彼らの言葉から、行動から、それをうっすらと感じられる。
私が彼らの成長に気がついたのは、初めて成長について語られた時。最後の最後だ。
でも確かに、彼らの成長は私の記憶に刻まれていた。
人は、『変わらない』。だけど、『変わる』。
そんな人の矛盾した在り方が、この物語ではリアルに描かれていた。
濃い世界観、リアルに描かれたキャラクターたち。
読んで絶対に後悔することはないので、是非読んでほしい。
荒野で強く生きようとする、彼らの物語を見届けて欲しい。
気がつけば、見知らぬ場所に放り出されていたエルバ。
自分の知っている世界ではない場所で、追剥にあい全てを失う。
記憶の中にある白い人。
持っている白い剣。
彼に託されたこととは、一体なんなのか。
彼は何を選択し、何を学び、そしてどう生きるかを選ぶのか。
知らないことわからないことだらけの世界に放り出され、持っているものを全て奪われてしまったら、人は人を疑わずにはいられないだろう。
それでも、誰かと出会い共に旅をする中で、根底では信じる心を捨てられずにいる。
それが人というものかもしれない。
この物語には、現実の世界と重なる部分が多々ある。
作者は、今あるこの世界の現状をこの物語に重ねたのではないか。
正義とは人それぞれの中にあり、相容れるのは難しいことだ。
それでも生きていかなければならないし、その上で平和を願わずにはいられない。
不条理な現実を突きつけられたエルバ同様、私も悔しくてならない。
最後の、フューレンプレアの「花を見に行ってきます。」
がとても素敵でした。彼女の、ふわふわっと微笑むような雰囲気を想像できました。
トップに立たなければいけないことで毅然としてきた彼女の言葉だからこそ、ジーンと来るものがあります。
しっかりとした世界観があり、文章も淀みなく読み進められます。
是非、ご一読を。