第四話
「久しぶりだね。一カ月ぶりかな?」
目の前に座っている
「そうですね。あの研究所の事件以来じゃないですかね」
そう、僕が殺人事件に遭遇するのはこれが初めてじゃない。何度か事件に遭遇していて、その際にこの藪不知警部と顔見知りになっている。
「……こんだけ事件に遭遇するって、呪われてるんじゃないかい?」
「そうですね。今度お祓いに行こうと思います」
軽く相槌を打つ。
「それで、一番最後に僕の話を聞くってことは……」
「ああ、うん。とりあえずこれまでに分かっていることを伝えようと思ってね」
なんとなく分かっている人もいるかもしれないが、これまで僕は何度か事件に遭遇し、そのたびに解決の一役を買ってきた。
そんなわけで、警部自身から事件の話をこうして聞くことも最近は増えてきたのだ。
「まず、被害者の死因だけど、これは頭部を殴られたことによるもの。凶器は被害者の傍に落ちていたあの分厚い辞書だね。あれでなんども殴打したみたいだ」
僕が死体を見た時に感じたこと大体一致していた。
「死亡推定時刻は?」
「昨夜9時から12時までかな。特にエアコン等も使われた形跡もないし、死亡推定時刻がずらされたような痕跡はないね」
「はあ。えっと、外部の犯行の可能性は?」
「それはないかな。周りの塀を乗り越えての侵入は無理だし、玄関にはこの屋敷内で唯一の監視カメラがあって、誰かが入ったり出たりしてないのは確認済みだよ」
ということは、この屋敷にいる人たちの中に犯人がいるということだ。もちろん、僕の両親も例外じゃない。
「犯人は、9時から12時までの間に離れに行き、おそらくそこで被害者と口論か何かになったんだろう。そこで、被害者に殴りかかろうとして、被害者はそれをよけよとする……みたいな感じで部屋の中で争っていたみたいだけど、逃げる被害者の後ろから右肩をつかみ、手に持っている凶器を頭……大体後頭部の左の方か、そこを殴りつけた。致命傷を負った被害者は床に倒れこみ、そのまま犯人は上から何度か殴打した……といったところだろう」
これまでの調査から分かった事を丁寧に説明していく警部。
「犯人は一人ですかね?」
「たぶんね。現場の様子を見るに、そうだと思う」
「犯人の痕跡とかはありましたか?」
「これからもっと詳しい調査をすればあると思うが、今の段階ではめぼしいものは無いね。離れの中は割といろんな人が入れるみたいだから、被害者以外の指紋とかがあっても、それがすぐに証拠になるわけじゃないからな」
「犯人は裏口から庭を通って離れに行ったと思うんですけど、そこに関してはどうですか?」
「そうだね。庭に面している扉にかんしてきれいに拭き取られている痕跡もあるし、侵入経路はそこで間違いないだろう。庭にあった足跡だが、この屋敷内に置いてある靴を履いて離れに行ったみたいで、その靴は誰でも使える場所に置いてあったらしい」
その靴の存在は僕も知っている。黒色のいたって普通のランニングシューズだ。裏口のそばにある収納スペースのところに入ってた靴で、サイズは27cmらしい。
「離れには屋敷とつながっている通路があるんですけど、そっちの入り口はどうでしたか?誰かが出入りした様子は?」
「あの金属製の大きな扉の方かい?そっちは長いこと開けられてないみたいだよ」
鍵はかかっていないが、今となっては誰も(離れで生活している祖父も)使っていないようだ。埃がたまっていて、ここ一か月以上は触れられた形跡がなかった。
「それで、アリバイはどうなんですか。死亡推定時刻が9時から12時って言ってましたけど、その間にアリバイがある人はいたんですか?」
藪不知警部は首を横に振り、
「いや、9時から12時を通じてアリバイのある人物はいなかったよ」
「その言い方は、一部の時間帯ではアリバイのある人がいるってことですか?」
「うん。えーっと、それぞれの供述をまとめると……」
と藪不知警部から聞いた情報を以下にまとめる。
父 9時から10時、叔母さんと中村さんと一緒にいた。
10時から11時、叔父さんと一緒にいた。
11時から12時のアリバイなし。
母 9時から11時までのアリバイなし。
11時から12時、家政婦の住子さんと一緒にいた。
叔父さん 9時から10時のアリバイなし。
10時から11時、父と一緒にいた。
11時から12時、叔母さんと一緒にいた。
叔母さん 9時から10時、父と中村さんと一緒にいた。
10時から11時のアリバイなし。
11時から12時、叔父さんと一緒にいた。
中村さん 9時から10時、父と叔母さんと一緒にいた。
10時から12時のアリバイなし。
住子さん 9時から11時までのアリバイなし。
11時から12時、母と一緒にいた。
以上が、部分的にアリバイのある人の、アリバイの様子を簡単にまとめたものである。ちなみに、屋敷で働いているのは家政婦の住子さんだけだ。
「それで、犯人は分かりそうかい?」
「ええ、たぶん。犯人はあの人でしょう」
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