第二話

 時刻は19時。結構広いダイニングルームに集まり、夕食になった。

 家政婦のおばさん一人で作ったとは思えない豪勢な料理がテーブルの上に並んでいた。

「やっぱり住子ちゃんの作る料理っておいしいわね。ホントに見習いたいわー」

 右隣に座っている母が料理を食べながら、感心した様子で言う。

 ちなみに住子ちゃんとは家政婦のおばさんである。母とおなじ同い年で、何か知らないけど結構仲が良いみたいだ。

 まあ、美味しそうに料理を食べるのはいいけど、もうちょっとひじに気を付けて欲しい。僕の右ひじにがつがつ当たっていて、ちょっとイライラしてきた。もうちょっと自分の利き腕を考えて欲しい。

 そんな僕以外のメンバーはいたって和やかな雰囲気の中食事をしていた。おそらく、祖父に会社のこれからのことを聞きたいであろう叔父さんや叔母さんたち(たぶん秘書の中村さんもだと思う)は、とりあえず当たり障りのない感じの会話をするにとどめていた。

 そんな中。

「そういえば、お父さん体調が悪いって聞いたけど、大丈夫?なんか引退するかもって聞いたけど」

 と周りの空気に気にすることなく、父が祖父に聞いた。

「ああ、そうだな」

 周りの人間がギョッとした様子で父を見る中、祖父はいたって普通に答える。

「こないだ病院いってな。その時に割といくつか悪い所が見つかってな。いまさら薬とか手術とかめんどくさくてな」

「大丈夫ですか?」

 隣に座っている母が心配そうに言う。

「ああ。まあ、すぐに死ぬとかいう話ではないからな。ただ、いつ何があるかわからないから、こないだ遺言書も作ってな。……あ、明日次の社長は誰にするか伝えるから」

 何でもないように爆弾を投下して、夕食を食べ終わった祖父は自分の部屋である離れに戻っていった。



「ちょっとどう思う?わざわざ私たちが来てるときに言うってことは、やっぱり私たちの誰かが社長になるのかしら」

 夕食を食べ終えたあと、ビリヤードやダーツのできるサロンに集まり、各々お酒を飲みながら談笑していた。

「そうだな。まあ、そう思いたいけどな。ただ親父のことだからなあ……」

 しみじみと叔父さんが言う。たぶん思うところがあるのだろう。

「あと気になるのは遺言書かしら。土地とかいろんな形でお父さんの財産があると思うけど、それは私たち子どもに均等に割り当てられるのかしら」

 右手に持ったダーツの矢を投げ、的のド真ん中に刺した叔母さんが言った。というかダーツうまいな。

「さあ。そういう遺産相続の話はよく分からないからな~」

 そう言いながら、父もダーツの矢を投げる。父の右手から放たれた矢は、ボードに当たったが、刺さることなく床に落ちた。……こっちは下手だな。

「引退するって言っても、会長として経営に口挟んできそうだけどな」

 叔父さんの右手から放たれた矢は、ボードに当たることなく床に突き刺さった。

 こっちも下手だな。というか危険だわ。



 時計を見ると、時刻は9時を少し過ぎていた。僕は柔らかなソファーに座って本を読んでいるだけだし、早いけど部屋に戻ってねようと思う。

 ふと窓の外を見ると、雨が降り始めていた。そういえば来る時から雨が降りそうだったっけ。

 その窓からはうっすらと離れの明かりがついているのが見える。祖父はその昔、水泳をしていたみたいで、色んな大会で優勝するくらいの実力があったらしい。昔離れに言った時、金ぴかのトロフィーとかがあったっけ。

 そんな事を思い出しながら部屋に戻り、シャワーを浴び、ゴロゴロしながら本や漫画を読み、夜を過ごしていった。その間、事件が起こっていたことに全く気付くことなく。



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る