第三話

 翌朝。朝食の時間ということで、ダイニングルームに集まった。

 朝9時にはみんな集まって食事を始めると、昨夜祖父が言っていたが、肝心の祖父がいなかった。

「おかしいわね。自分の言った時間はきっちり守る人なのに……」

 と朝からばっちり濃いメイクをしている叔母さん。

「そうだな。……ちょっと呼んでくるわ」

 逆にかなりラフな恰好で座っている叔父さんが席を立とうとした。

「あ、僕が行きますよ」

 この中で一番年下ということで、僕も行こうとした。


 結局、僕と父、叔父さんの三人で祖父の部屋のある離れに向かう事になった。

 屋敷の裏口から出て離れに向かう。裏口を出てすぐの所に祖父が乗る車(運転するのは秘書の中村さん)や家政婦の住子さんの車が止めてある駐車場がある。

 そこから東に向かったところに離れはあるのだが、そこへ向かう道……というか庭に、離れに行って帰ったとみられる足跡があった。

 昨日の夜9時から11時まで降った雨のせいで土の地面がぬかるんでいて、僕たちが歩くと地面に足跡を残すのと同時に、靴の裏を泥で汚していく。

 ちなみに、離れに向かうのには二種類の道があり、今僕たちが歩いているように、裏口から出て庭(といっても地面が広がっているだけで、植物すら生えていない)を歩いていく道。

 もう一つは、屋敷の二階にある、ベランダからそのまま木々に囲まれた通路を通り、離れの二階へと向かう道。こっちは裏口から行くより少し距離がある。

 

「足跡があるけど、誰か離れに行ったのか?」

 返事を求めるようない言い方ではなく、独り言のように叔父さんが言う。

「お父さん?まだ寝てるのかい?」

 すでにある足跡を踏まないように先頭を歩いていた父がそう言いながら木製の少し古びた扉を開ける。

「お父さん?………え?」

 離れの中に入り、部屋の中を見ると、床に物は散らばり、誰かと誰かが争ったような惨状だった。

「お、親父……」

 そんな荒らされた部屋の中央で祖父は倒れていた。犯人と争ったのか、衣服がすこしはだけ、頭には血がこびりついている。

 祖父の体の傍には、これまた血がついている分厚い辞書が落ちていた。

 祖父の体を調べてみたが、すでに息をしていなかった。

「えっと……きゅ、救急車か?いや、それとも……」

「もう亡くなっていますけど、救急車と警察を呼んだ方がいいですかね」

 呆然と立ちすくんでいる二人に、僕はそう声をかけた。


「そ、それにしても、こんだけ荒らされているけど、泥棒でも入ったのか?」

 叔父さんが電話をかけている間、父は部屋の中をキョロキョロと見回している。

 棚に置いてあるトロフィーや本が今にも落ちそうになっている。

「あ、やば」

 体が棚に触れ、棚に置いてある重たそうなトロフィーが落ちそうになるのを父は慌てて止めた。棚には祖父が昔大会で取ったメダルやトロフィーが並んでいる。

 台座までもが金属でできているからなんだか見ててまぶしい。

「お父さん、あんまり部屋の中のものを触らない方がいいと思うよ」

 見るからに殺人事件の現場で、家族とはいえ指紋とかそういったものをこれ以上残すのは良くないと思った僕は、父と叔父さんを連れ、離れから出ることにした。


 電話をして三十分が過ぎたころ。通報を受けた警察が屋敷へと到着した。

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