笑顔
――と、いうことで。
スイーツとやらを食べられる地を探すべく、学校を出た僕たちだったけど。
案の定というか、なんというか。
結社が、エスの大天才の重要人物を放っておくわけもなく。
こうして――僕たちは、追われる身となったわけだ。
路地の奥。
行き止まりの、コンクリートの高い壁。背後から迫ってくる、硬い鎧を着た結社の人間たち。――ここまでか?
そう思ったけれども。
本気を出した、先輩の力は。それはもう、すごいってわけで――。
「爆破しますから!」
そう言って、手のなかで白くてパールみたいななにかを化合して。
白い眩しさが、去って。
目を、開けてみれば。
コンクリートの高い高い壁が一瞬にして砕け散るところだった、……うん、やっぱ、わかっていたけどすごいよな、これ。
みごとに、通り穴が空いた。……穴の向こうは、明るく見える。
僕たちはそこを、走って、通って。……どこまでも。どこまでも。
「っていうか先輩。すごいね。そんなふうにきれいなホワイトパール状に火素元素も錬成してしまえるなんて。集結して構築して、空気の意思と化合させるのってそうとう――」
「……あれ。若葉くん。錬金術における、空気の意思を知っているとは。そこまで、私、教えましたっけ? それってたしか高校二年課程でやる範囲。一年生の範囲で鮮やかな赤点を取ってしまっているあなたはまだそこまでの理解はぜんぜん追いつかないはずですが――」
「……あっ、違う。違う。いまの、なし。それより先輩、タピオカとクレープだったら、どっちがいい?」
路地は、三叉路に分かれている。
「タピオカだったら右だし、クレープだったら左だし……」
「……両方、って答えたら、空間の意思を歪めないとたどり着けませんか?」
「スイーツのために天才っぷりをむやみに発揮するのやめて!」
よしよし、話題が逸れてきた。
……先輩に、気づかれたくはなかったから。
僕は。
天宮雨音と、話したいがために。恋愛事業で多忙な彼女を、ひとりじめしたいがために。
中学までの優等生っぷりをぶん投げてでも、勇気を出して。
わざと、赤点を取ったんですよ、なんて。
僕は、先輩には、……言う気はない。
「じゃあ、第三の選択肢で、そうですね、そうですねっ、ケーキというのはっ――」
「だったら、このまま直進!」
僕に勢いよく腕を取られた先輩は、びっくりしていた――そしてくしゃっと顔いっぱいにちょっと困ったように笑ってくれたから、僕はたぶん、間違ってなかったんだなって思えたんだ。
(おわり)
アルケミストの初恋 人間関係、実験中止! 柳なつき @natsuki0710
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