翅は自由を齎し、蝶は標本を誘う。

人の背中に蝶のようなハネが生え、恋をすればハネは落ちる、クピド病。
そんな奇病にかかった少年少女が集められる施設は『虫籠』の異名で知られる。美しい温室も備えたその施設は、不穏な謎も纏いながら、思春期の揺れ動く感情を湛えている。

とかく、美しい。
蒼穹に透ける翅、温室のガラスに触れそうな掌、夜闇に融ける会話。クピド病という病の美しさに、サナトリウムのような(この奇病は治るはずなのだが)静謐さが輪をかけて、情景を美しくさせる。
短編集の趣きだが、共通する登場人物が抱える謎こそが一層仄暗く、物語の輪郭がはっきりと見える日が待ち遠しく思える。

現代を舞台に、隔離された施設での、奇病を介した感情の機微。美しくも儚い青春をいつくしみたい。

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