第206話 二人
一つの大きな街、あらゆる強者が集うそこは今やある事で大盛り上がりであった。
それはゼフという人間…… いや、神の事である。
この街、名前をリアルクといい、ゼフが生まれ育ち冒険者としての活動拠点であった。
だからか、冒険者組合にも悪い意味でゼフを知る者が多く、仮覇王の役割を得て全宇宙にその情報を開示した時には盛り上がったものだ。
「あの糞召喚士はまだ死なないの?」
「どうやら生きてるみたいだな」
今話しているのはゼフが冒険者をやっていた時、最も戦った相手と言えるだろう。
勿論、直接的には戦っていないが、冒険者に就いた時に騙されたり、強力な蟲を召喚するのを邪魔されたり…… などなどである。
しかし、それも仕方ない事だ。
この世界では騙すのは当たり前であり、強力な魔物の召喚は阻止すべしという共通認識を持っている。
だから、この二人以外にも様々な事をされた。
だが、その中でもこいつらが一番だ。
「まじかよー、もう既にくたばってると思ったのによー」
「だが、所詮は悪あがきだ。 この宇宙はハデスのもの、他にも魔王であるグレイラゴロスと大魔王であるギブスがいる。 そいつらを相手するのは誰であろうと骨が折れる。 下手な事はできんよ」
「あーあ、玩具が一つ無くなるのは残念だなー」
「それは仕方ない事だ、だがそれよりも考えなければならないのではないか? 私達が宇宙に出るという事を」
「…… 確かにそうだな、ゼフは魔物主体の召喚士だったのが悪かったんだ。 いずれは他の奴にやられる運命だった。 だから、その免疫をつけさせた俺達に感謝してほしいぐらいだぜ」
「その話はその辺でいいだろ、それでだが今保有しているSランクは捨てる事になる。 それで問題ないか?」
「ああ、大丈夫だ」
「そうか、それなら出発はいつにする?」
「そうだな…… 今日と言いたい所だが、やる事が残ってるからな」
そう言いながら髪から服まで全てが茶色のこの男、レグザは周りにいる冒険者をチラッと見る。
そうされた者達の反応は様々で怒りを露わにする者、恐怖に怯える者、関わらないように目線を合わせないようにする者などである。
それを見て察したレグザの前に座るスキンヘッドの男、クリプトは口を開く。
「ならば三日後だな、それが適正だろう」
「ああ、分かったぜ」
そうレグザは笑みを浮かべると、扉がバタンと開く。
それには周りの冒険者を含め、そちらに視線を移す。
そこには深くフードを被っている男、そしてメイドの格好をしている少女である。
普通ならばそれだけで日常に戻っただろう。
しかし、何故かその二人に目が離せなかった。
やがて二人はレグザとクリプトの前までやってくると、その歩みを止める。
「何か用か?」
クリプトは厳格な口調でそう言うと、フードの男はゆっくりと口を開く。
「クリプト…… お前も弱くなったな。 いや、俺が強くなりすぎたのか。 以前のお前ならすぐに気づけただろう」
そう言って男は被っているフードを取る。
それにはクリプトとレグザは驚く事は勿論、周りの冒険者もオーバーと思える程のリアクションを取っていた。
「お前…… ゼフかよ」
「そうだ、レグザ」
「貴様、私達に復讐に来たのか?」
「いや、残念だがこれは単なる寄り道だ。 俺は自分には関係ないだろうとたかを括っている奴らに誰が支配者かを教えに来た」
「ハハハ! お前馬鹿だろ! そんな事をすればどうなるか分かってんのか! この宇宙にはハデスがいるし、他にも化け物みたいな奴がいるんだぞ! それに殺してみろよ、すぐに問題が出てくる!」
「レグザ、お前の言っている事は正しい。 だが、黙れ」
「…… 黙れだと? おいおい、お前は――」
「お前らにも分かりやすく簡潔に言ってやろう。 今すぐ死ぬか、話を聞いて死ぬか、選べ」
その瞬間、冒険者組合は静寂に包まれる。
だが、頭が冷静になった者からある考えが浮かぶ。
それはゼフを倒す事。
公開した情報ではゼフはあまりにも弱かった。
だから、自分でも勝てる。
実践経験が少ない奴はそう思っただろう、しかしレグザとクリプトを含めた一部の冒険者はそんな事を考えない。
確かに先程まで舐めていた。
あんな情報じゃそれは当たり前だ。
だが、それはすぐに間違いだと気づく。
そして、魔物主体の召喚士が恐れられていた理由も実感する。
経験の少ない冒険者がゼフに攻撃しようと動こうとした時、全ての魔法や能力を貫通して肉体が破裂する。
その光景はあまりにも衝撃的で、Sランク冒険者でも恐怖に怯え始める。
「言うのを忘れていたが、今この瞬間においても蟲達が監視を続けている。 下手な動きはしない方が身のためだ」
「…… それで俺達を脅しているつもりか? そんなもので俺は止められないぞ」
「ならば決着をつけようじゃないか。 俺もお前には色々思うところがある、レグザ。 まぁ、どうなるかは目に見えているがな」
安い挑発、喧嘩っ早いレグザもやはり乗ってこない。
流石はSランクになるだけの事はある。
だが、人質としては不十分である。
そう、今回の星にある全ての街の支配は恐怖にて誰が支配者かを全生物に教えるのと、星の外にいる奴らに下手な事をすれば人質としている人間、そして物資や貴重な道具などを壊してやると脅すつもりなのだ。
確かにハデスの圧力がある。
しかし、そんな事お構いなしやる奴らも少なからずいる。
もしかすると無意味かもしれない。
しかし、やるだけの価値はある。
「さて、静かになった事だ。 今から俺の復讐を始めようか」
ゼフはそんな事を考えながら、まずは自分の終わらすべき事を始めるのだった。
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