第205話 ハデス
宇宙の何処かにある浮かぶ城。
いや、城というにはあまりにも巨大なそれを城と言っていいものか。
惑星に等しいそれの周りにはいくつもの街が見受けられる。
そんな城の内部の玉座の間、そこに居座る男。
頭以外に黒のフルプレートで包み込み、それに赤いマントを羽織っており、右目には眼帯をつけ、白く長い顎髭と髪。
周りには部下と思わしき人物が数人。
彼の名をアデル・ザ・ハデス。
好戦覇帝という異名を持つ覇王だ。
そんなハデスは不機嫌そうな表情でポツリと呟く。
「今日もわしに挑む者はいないか……」
「…… 残念ながらそのようで御座います」
ハデスの横に立つ男、名をギリアス・ザ・バヒュミートがそれに答える。
「貴様が相手してくれれば少しはわしの機嫌も直るというものだいうのに…… 情けない奴だ」
「それは申し訳ありません……」
「はぁ、どいつもこいつも情けない奴ばかりだ。 わしを殺してこの座を奪おうという奴はいないのか」
「失礼ながらそんな馬鹿な事をする奴はいないかと。 ハデス様に挑まない事、それが宇宙の常識となりつつあるのですから」
「つまらん常識だ、こんな事なら弱者のふりをして一生戦いに明け暮れている方がマシであった」
ハデスは再び深いため息をつく。
戦いとは彼の全てであり、生きる希望なのだ。
だが、誰も彼に挑もうとしない。
偶にいるが最後には逃げ出す。
彼はそんな戦いを求めていない、強者ではなく弱者でもいい。
逃げ出さず最後まで自分に挑むような奴と戦ってみたい。
しかし、それは叶う事なくこうして暇な日々を過ごしているのだ。
「そういえばランキングはどうなっている?」
ランキング…… それは全宇宙を対象とした役割と神である事を条件に行われているものだ。
基準は正直よく分からない。
だが、あれが強さに関係している事は間違いないと彼は考えているのだ。
「少々お待ちを…… 今は二一位ですね。 この前が一八位であった事を考えるとあまり変わっていないですね」
「そうか……」
ハデスの最高順位は一三位。
できれば一桁いきたいところだが、それが意外にも難しい。
ハデスが暗い表情でため息をついていると、バンとドアが開き見事な装備で身を整えている二人の男が一人の小汚い男を連れて入ってくる。
そして、ハデスの前にそれを引きずってくると二人のうちの一人が口を開く。
「いきなり申し訳ありません、ハデス様。 裏切り者が出ましたので裁きをお願いしにやってきました」
「…… 裏切り者だと?」
「はい、どうやらこいつは裏切り者の一人らしく、首謀者は別にいるようです。 残念ながら口は割りませんでしたので、先に裁きをと来た次第です」
裏切り者、その言葉に普通の人なら不快感を覚えただろう。
しかし、それこそ彼がこの組織を作った最大の理由だ。
挑む者がいないなら作ってしまえばいいと。
こうして作り上げた組織、それがようやく芽を結んだ。
ハデスはそれに対して笑みを浮かべる。
「フハハハハ! 裏切り者か! そうかそうか…… こいつに使っている魔法を今すぐ解除しろ」
「はっ!」
部下である男は逆らう事なくそれに従い、ハデスはゆっくりと立ち上がり男に近づく。
「貴様が裏切り者か? さて、最後に聞くが首謀者は誰だ?」
「…… 言うわけないだろ!」
「それもそうだな、ならば戦いしかないな。 貴様は得意とする武器はなんだ?」
「…… 一体何が目的だ!」
「…… まさか知らないのか? いや、あえて聞かされてなかったか。 つまり、お前は生贄か。 わしの能力を確認するためのな。 ならばその誘い乗ってやろう」
ハデスは更に男に近づく。
男は小刻みに震えているが、そんな事はお構い無しに耳元に口を近づけ。
「ゼロ距離だ、生きたければ殺す気で来い」
そう囁いた。
すると、男は虚空から短剣を取り出す。
そして、魔法を使いつつハデスに斬りかかる。
覇王と言えどもこの距離で無傷な筈がない。
そう思っていた、しかし現実は甘くはない。
なんと、短剣はハデスの皮膚を裂く事はなく、変わりにその煌めく刃にヒビを入れたのだ。
それを見た男は明確な内に明確な恐怖が生まれる。
魔法で弱らし、筋力を高め、リジも込めた。
なのに無傷。
彼の戦意を喪失させるには十分だった。
「ば、化け物が……」
「もう終わりか? 貴様の奥の手はそんなものではないだろ。 さぁ、もっと楽しませろ!」
「ひ、ひぃ……」
「…… そうか、貴様もそうなんだな。 お前に用はない、『ダークネスホール』」
ハデスがそう魔法を唱えると男の身体の内側から時空が歪み始める。
それはどんどん広がり、やがてその場から男の姿が消える。
ハデスはそれを見届けると再び椅子に座る。
「つまらん、もう少し楽しめると思った。 所詮はこの程度か…… 貴様らはもう下がれ」
「…… ハデス様、もう一つお耳に入れたい事があります」
「なんだ?」
「実は…… 数百年前にお作りになったゴーレムの一体が消失しました」
「ああ、そうか…… どうせいつもと変わらんだろう。 また期待して絶望するだけだ。 適当に処理しておけ」
「はい、了解しました」
ハデスはそう言うと瞼を閉じ眠りにつくのだった。
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