最終話 単純な方法
一見複雑に見える手品も、その種は意外と単純だったりする。今回の事件も……傍目には魔法のように見えるが、実はとてもシンプルだった。
まずは、教皇庁の中に這入り込む。そこの修道女に扮して。教皇庁の中にはかなりの修道女がいるので、一人くらい増えても、特にばれる事はなかった。
教皇庁の中を歩き回る。その際、周りの声に聞き耳を立てた。どんなに些細な事も聞き逃さないように。それらしい情報が得られそうな時は、わざと歩調を遅らせて、その話に耳を傾けた。
ふむふむ、なるほど。快盗少女の事は、彼等も既に知っているのね。この教皇庁に予告状が送られてきたのも。狭い空間にこれだけの人がいるのだから、その噂が広がるのもあっと言う間だった。
ティアナは、その状況にニヤリとした。
「協会警察が唯一、見落とした事と言ったら」
そう、内側への意識である。彼等は外側にこそ目を向けていたが、その反面、内側には何の対処もしていなかった。お宝の情報を漏らすのは、何も外の人間だけだとは限らないのに。彼等の警備は、常に外を向いていた。
今回の警備だって……本当は、地下室で彼女の事を待ち構えていたのだろう。「罠」と言う名の仕掛けを施して、その口を大きく開けていたに違いない。修道女の一人、如何にも噂話が好きそうな者に話し掛ける。
「あの」
の続きは、企業秘密なのでお話できない。
ティアナはその女性から必要な情報を聞き出すと、彼女に感謝の気持ちを渡して(結構な額だった)、早速お宝が隠された部屋へと向かった。
部屋に着いた後は、急用を装い、警備の警官に「ごめんなさい」と言って、部屋の中に入った。部屋の中は殺風景だったが、そこに置かれた金庫を見て、すぐさまそこにお宝があるのを確信した。
ティアナは何気ない世間話風を装って、警官から今の警備状況を聞きだした。今の警備状況は、彼女の思った通りだった。
他のボンクラはしょうがないとしても、隊長と呼ばれた男は、彼女の計画をどうやら看破(と言っても、すべては当たっていないが)したようだ。彼等は本の数分前、この部屋にやって来て、お宝が無事かどうか確かめたのだと言う。
「まあ、お宝は無事だったからね。すぐに戻って行ったけど」
新人である彼は、本当は秘密にしなければならない情報をベラベラと喋ってしまった。
ティアナはその情報に微笑み、そして、「ありがとう」と言いつつ特殊道具を使い、彼を気絶させて、金庫の中からお宝を盗み出した。
「よし!」と、彼女の口元が笑う。
彼女はいつもの置き手紙を残して、教皇庁の中から急いで出て行った。
彼女が自分の家に帰ってきたのは、それから数時間後の事だった。少し疲れた顔で、椅子の上に腰掛けるティアナ。それを見ていたロナティは、彼女の前に紅茶を置いた。
「お疲れ様。お宝は、手に入ったの?」
「うん!」と言って、テーブルの上にお宝を置く。「手に入ったよ」
ティアナは、聖杯の表面に触れた。
「綺麗なカップ」
「そうね。部屋に飾っておくには、勿体ないくらいに」
ロナティも、聖杯の表面に触れた。
「ティアナ」
「ん?」
「今日はちょっと、帰りが遅かったみたいだけど?」
「ああうん。ちょっと寄り道をしていからね」
「寄り道?」
「そう」
ティアナは、テーブルの上に一通の手紙を出した。
「それの写しを出して来たから、新聞社に」
「新聞社に?」
ロナティは彼女の顔を見つめつつ、真面目な顔でその手紙に視線を移した。手紙の内容は、なるほど。これは、面白い。
「この手紙を読んでいる方または方々へ
協会警察の皆さん、警備の方お疲れ様です。教皇庁の地下室に私を誘き出そうとして。貴方達の作戦は……完璧とは言えませんが、素人にしては良くやったと思います。いやぁ、流石の私も騙されそうになりました(嘘)。神の聖杯についてですが、私の部屋にしっかりと飾らせて頂きます。これからも、盗みが続けられるように。私も、神のご加護が欲しいですから。貴方達の教皇様……あっ! 教皇様は、違いましたね。政教分離を唱えていながら、裏では政府の人達と関わっている。一体、いくらのお金を貰っているのでしょう? 私達の払った税金を使って。私は、貴方達の悪行が許せません。だから、貴方の悪行を公表します。
快盗少女X」
ロナティは、テーブルの上に手紙を放った。
「また、面白い事をしたわね」
「新聞社の人は、事件に飢えているから。これは、最高のネタになるよ」
ティアナは嬉しそうに笑い、聖杯の表面にまた触れはじめた。
「また、世の中が元気になる」
私、快盗少女は、特殊な道具で何でも盗みます! 読み方は自由 @azybcxdvewg
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