第3話 奴隷船
狭い。空間ゼロ、正真正銘の物理的に完璧な密着だ。これほどまで密着を強要されるとはまったく神もへちまもないわけだ。
高校生にサラリーマンに、出自の知れない浮浪者。低身長には絶望の視界が開けることだろう、いいや主には絶望の香りかもしれない。私からの視点としては、一面に黒と肌色の丘陵地帯が拡がっている。谷間に生まれた地獄のことは知りもせず生きているのだから、まだ幸せかもしれない。
電車が発達して百年以上、もちろん利便性と普遍性にあふれている。こんなものロイヤリティ階級だけが使えるままでもよかったのだ。
とは言えないのが本性で、私としても数知れない恩恵の負債をがあるのだから、世界はこの特性を失うわけにはいかない。
狭い。揺れる。奴隷船かここは。身動ぎひとつできないぞ。パーソナルスペースの概念は蜂の餌にでもなったのか。
年老いたサラリーマンはなんでこうまでして、この手段を選ぶのだろう。私は数ヶ月で電車内の駆け引き、乗り換えのマウント戦争、醜悪な香りそれらすべてに嫌気がさしているのに、それに数十年と耐えてきたわけだ。
いやはや尊敬の念を抱く。禿げるに決まってるでしょう。
ああ、今日も仕事だ。最寄り駅に着いて人が流れ、正しく狂った太陽を浴びるとそう思う。
車買お。
電車内戦争 仙崎愁 @Senzaki_nov
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