ある夏、カルピス

突飛なタイトルに一瞬コメディと思ってページを捲りました。
そこに描かれていた世界は、私が想像していたものとは全く違いました。
良い意味で、極めて良い意味で裏切られました。
絵で言うなら、イラスト画集かと思って本を開いたら突然システィーナ礼拝堂にワープして、ミケランジェロの天井画を見せつけられているような気分。ただただ圧倒され、口をぽかんと開けて見入る他ありませんでした。

細かく描写された、情景と心理。
淡々と流れているようでいて、そこここに光るフレーズのセンス。
ラノベのようにすらすら読めて、それでいて文学の様な深みを持った文章。

青春とは、どこかにカルピスがあるように感じます。
されとてこの小説は安直に青春を描いたものではありません。過ぎ去った青春の、その素晴らしき日々を思い出す瞬間の手助けをする裏方のリアルを克明に描いたものです。

素材とその扱い方には作者のセンスを感じます。
カルピス属性を付与するなんてよく思いついたなあと感心するだけでなく、それをただ面白おかしく描くのではなく「この書き方」をしてくれたということに感謝の念すら覚えるのです。

たった6,000文字の短編。
たった数十分で、一生胸に残る感動を手に入れてみませんか?

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