第5章 ヒールを求めて 前編

 宿屋の一室は散らかっていた。その部屋でテーブルに突っ伏すように眠っていた藤野遼二は目を覚ました。遼二は起きると辺りを見回した。部屋にある二つのベッドの片方では二宮和幸が眠っていた。ベッドのそばにある小さなテーブルには、入念に手入れがされた刀が置かれていた。

(武器には目が行くのに、なんでパーティーとしての戦闘が出来ないんだろうな……)

 遼二は和幸の刀を見ながらそんなことを考えていた。遼二は無意識のうちに端末を見た。そして、何も考えずに端末の検索欄に回復魔法と入力する。検索をし、しばらく端末を見ていた遼二の目があるところに留まった。

「こんなのがあるのか……」

 呟くと遼二は、彼の荷物を漁りだした。

「何やってるの?」

 後ろから声が聞こえた。一ノ瀬梓が眠そうに眼をこすりながら体を起こす。梓と同じベッドにいる大江遥はまだ夢の中なのか、心地よい寝息を立てていた。梓はベッドから立ち上がると、遼二のもとへとやってきた。そして、遼二の荷物をのぞき込む。

「梓、こんなやつは持っていないか?」

 遼二は梓に端末を見せていた。そこには、小さな結晶が映し出されていた。梓は首をかしげた。そして、梓は彼女の荷物を見始めた。しばらくして梓は顔を上げた。

「……ないわね。こっちはどうかしら」

 梓は梓の荷物の隣に置いてあった遥の荷物をあさりだした。

「いいのか? 勝手に荷物見て」

「大丈夫よ。何かあってもぎゅーってすれば許してもらえるはずよ」

 遼二は梓を制したが、梓はお構いなしとばかりに遥の荷物をバックパックから取り出していっている。ほどなくして遥のバックパックからすべての荷物が出された。

「こっちにも入っていないわね」

 梓は遼二を見ながら首を横に振った。そして、今度は和幸の荷物に手をかけようとする。

「それはやめとけ。絶対に殺されるぞ」

 遼二は今度は強く止めた。残念そうに梓は和幸の荷物から手を離した。

「で、そんなの探してどうするつもりかしら」

 梓が聞いていた。遼二は端末を操作し、先ほど見ていたページを梓に見せる。

「回復魔法の覚え方? って、専門職じゃなくても魔法覚えることできるの!?」

 目を見張りながら梓は叫んでいた。遼二は無言で小さくうなづいていた。

「お姉ちゃん、うるさいの……」

 遥が目を覚ました。そして遥は、目をこすりながらあたりを見回す。そのさなか、遥の目にバックパックから出され、きれいに整理された自らの荷物が目に入った。その途端、遥の目は完全に覚めた。遥は慌てて荷物へと駆け寄った。

「ごめんね。荷物勝手に開けちゃった」

 悪びれることなく梓が遥に謝っていた。その途端、遥は梓に駆け寄る。

「なんで勝手に開けたの!?」

「ちょっと探し物があったの。で、遥の荷物探してみたんだけど、なかったわね」

 遥は梓に抗議したが、梓は全く動じることはなかった。遥は慌ててバックパックのところに戻り、荷物をしまい始めた。

「遥、寝間着だけど大丈夫?」

 にやにやしながら梓が遥に声をかけた。遥の動きが止まった。そして遥は自らの格好を見る。今遥が身に着けているものは、薄手の裾の短いキャミソールに、インナー代わりのホットパンツだけだった。遥は梓を見た。すぐに視線が梓の隣にいる遼二へと移った。

「服着るからお兄ちゃんは出て行っほしいの!」

 遥は遼二の手を取った。そして、遼二が何か言う前に遼二を部屋の外へと連れ出し、そのまま扉を閉めた。

「遥。服ちゃんと着てるじゃない」

 扉に手をつき、荒い息をついている遥に、梓は言った。

「あたしはお姉ちゃんと違って、肌出す趣味なんてないの!」

 遥は梓に怒鳴っていた。それを聞いて梓はやれやれとばかりに肩をすくめていた。


 宿屋の部屋の外で、遼二は所在なさげに端末をいじっていた。何の前触れもなく扉が開き、遥の顔が出てきた。

「もう入っていいの」

 遥の顔はまだ赤った。

「ああ……なんていうか、ごめん……」

 遼二は目をそらせながら謝っていた。

「見られたの……お姉ちゃん以外に絶対見られたくなかったのに……なんでなの……」

 ぶつぶつと呟いている遥の耳に、遼二の謝罪は入っていなかった。

「遥、聞いているか?」

 もう一度遼二は遥に声をかけていた。遥はハイライトの消えかけた目で遼二を見た。遼二は思わずひるんでいた。

「遥、そろそろ許してあげたら?」

 梓が遥を止めにかかった。遥は梓へと目を移す。

「ねえ遥、帰ったらずっと一緒にいてあげるから。ね?」

 甘い声で梓は遥に言った。それを聞いて遥はしぶしぶといった表情でうなづいていた。

「で、その結晶ってどこにあるわけ?」

 遥が落ち着いたのを見て、梓が話題を変えていた。それを聞いて遼二は端末を見る。しばらく遼二は端末を見ていたが、やがてその手が止まった。

「昨日まで行っていたダンジョンの別の道の宝箱に入っているらしい。それから、あといくつか必要なアイテムがあるんだ」

 端末を見ながら遼二は言った。そして、眠っている和幸に目を向けた。

「そろそろ起きたらどうなんだ」

 唇を尖らせながら遼二は和幸に言った。

「起きています。それなりに前から」

 和幸はすぐに体を起こした。起きていた、と聞いて遼二の表情が険しくなる。

「お前、巻き込まれたくなかったから寝たふりしてたんだろ」

 遼二の口調は咎めるようなものだった。和幸から返事は帰ってこなかった。

「まあいいや」

 いっても無駄であるということをわかっていた遼二は、深く追及することはなかった。

「で、あといるのが薬草が5つと夜光草が3ついるんだ。薬草と夜光草はリザードナイトの洞窟の近くの森にあるからそこでとろう。ただ、夜光草は夜にならないと見つけられないから、向こうで一泊することになる」

「向こうってどこか泊まる場所がるんですか?」

 遼二の説明を疑問に思った和幸が聞いていた。遼二は今度は周辺の地図を出した。

「南東にあるのがリザードナイトがいる洞窟。それで、ここと巣穴の間の巣穴寄りに関所があるんだけど、関所に宿屋と売店がある。ここから日帰りで行けないこともないけど、向こうで夜間戦闘をしないといけないからやっぱり近場で一泊したい」

 遼二が言うのを梓達は頷きながら聞いていた。それを見て遼二は話を続ける。

「昨日オークソルジャー倒した時のギルド報酬が一人五百コイン。素材売った金も一人最低五百ぐらいは入っているから預けている分と合わせて……」

 そこまで行ったとき、遼二は言葉を切った。そして、かわるがわる梓と和幸を見た。

「まさか……今まで預けてなかったのか?」

 梓と和幸は頷いていた。遼二はひきつった笑みを浮かべながらため息をついた。

「預けておけって言っただろ……で、今いくら持っているんだ」

 梓と和幸は端末を見せた。遼二はじっと端末を見た。

「それぐらいだったら、何とかなるんじゃないのか? 武器の更新はできないけど」

 武器の更新ができない、と聞いた和幸はうなだれた。

「とにかく、消耗品の補充と装備の補修ができればいい。夜に動かないといけないんだから、少しは装備の足しになるぐらいの金は手に入る」

 そういうと遼二は端末をしまった。

「じゃあ、まずは夜光草採って、そのあと昨日までいっていた洞窟に向かえばいいの?」

 遥が聞いていた。遼二は無言で頷いていた。それを見て遥の表情が嫌なものになる。

「ああ。でも……ボスを倒すわけじゃない。あくまで宝探しみたいなものだから」

 苦笑しながら遼二が遥に返していた。


 梓は楽しそうにフィールドを歩いていた。遠くに建物が見えた。

「あれが関所かしら?」

 梓は後ろを歩く遼二に聞いていた。遼二はどこか疲れているようだった。遼二は端末のマップを見ると頷いていた。

「ああ。端末にあるクエストの履歴にあるQRコードをゲートに読み込ませれば、関所のゲートが通れる」

 遼二に言われ、梓は端末を確認した。そして、クエストの履歴を見る。

「このQRコード、オークソルジャー倒すまではなかったわね」

 呟きながら梓は頷いていた。

「でも、関所の宿屋ってどんな部屋? あんまり変な部屋は無理よ」

 端末を見ながら梓が話題を変えていた。しばらく端末を操作していたが、梓は唐突に顔を上げた。

「狭くない、この部屋」

 梓は端末を遼二に見せた。気になったのか、和幸と遥も梓の端末をのぞき込む。

「って、この部屋一人部屋なの!?」

 遥が声を上げた。遥は泣きそうな顔で梓を見る。梓は額に指をあてた。

「少しベッド狭いけど、一緒に寝る?」

「寝るの!」

 首をかしげながら梓は遥に聞いていた。遥は笑顔で頷いていた。だが、遥の表情はすぐに曇る。

「でも、本当に狭いの……お風呂とか全部共用だし……売店も遅くまでやっていないの」

 唇を尖らせながら遥は不満を言った。それを梓がなだめにかかる。

「しょうがないでしょ。関所の宿屋ってあくまで避難小屋よ。壁あって屋根あって電気もガスも水道もあるのよ。贅沢言ったらだめよ」

 なおも遥は不満そうだった。

「自販機もそれなりの種類あるし、飲み物以外も置いてますから、売店が閉まってても大丈夫なのでは?」

 今度は和幸が言った。遥は和幸に視線を移した。

「じゃあ……お化粧のストックなくなったらどうするの? それに他にもいろいろなくなったら困るものあるの」

 遥に迫られ和幸は口をつぐんだ。


 関所と呼ばれている建物は周囲がコンクリートの塀で囲まれていた。

「関所っていうよりは、要塞みたいね……」

 苦笑しながら梓が呟いていた。

「町とそのすぐそば以外のところは、夜になるとモンスターが常に湧き出て、危ないからな。だから、この世界の関所とか町以外の宿屋は全部外周囲っているんだ」

 端末を見ながら遼二が言った。そして彼は、端末を梓に見せる。関所と呼ばれている建物の案内図が端末に映し出されていた。

「あの壁のでっぱりって何なの? あそこで日向ぼっこでもするの?」

 塀の中ほどにあるでっぱりを指さしながら遥が訊いていた。

「いや、あれはたぶんネズミ返しですね。大ネズミに入られないようにしているのだと思う。近くに行ってみればわかると思いますが、人が横になれるほど広くはないはずです」

 塀を見ながら和幸が返していた。しばらくの間遼二達は、関所を見つめていた。


 関所の宿屋につくと。遼二は真っ先に売店へと向かった。そして、注意深く並べられている食料や消耗品を見る。

「売っているものは、向こうの店とあんまり変わらないんだな」

 食料を手に取りながら遼二は呟いていた。そして、値段のラベルを見ると小さくため息をつく。

「値段は向こうよりも高いんだな……」

 遼二はいくつかの食料や消耗品を取るとかごに入れた。そして、それらを買い取ると関所の宿屋で与えられた部屋に戻った。


 与えられた部屋は、狭かった。遼二は部屋の様子を見て眉をひそめる。町の宿屋にはクローゼットなどがあったが、関所の宿屋には小さな机と引き出し付きのベッドがおかれているだけだった。

「狭い部屋だけど、端末を充電できるだけましか……」

 遼二は机のそばにある充電ケーブルを見ながら呟いていた。今度は遼二は机に備え付けられている案内を見た。

「周りに店とかは関所以外にないんだな」

 小さく遼二はため息をついていた。そして、遼二は装備を見た。

「いったん、魔法を覚えに町に戻らないといけないから装備の修理はその時でいいか」

 そういうと遼二は周辺の地図を見た。そして、関所を抜けた街道沿いの森のきわにいくつかの印をつける。再び遼二が周辺地図を見た時、部屋の扉が開いた。

「遼二、準備はいいですか」

 やけにいい笑顔をした和幸が部屋に入ってきた。遼二は和幸の表情を見て表情を曇らせた。

「まだついたばかりだ。それに、夜光草は夜にならないと見つからないぞ」

 そういいながら遼二は和幸を見た。和幸の表情はどこかうれしそうだった。

「ただ、町の周りにいたモンスターよりも強いらしいから気を付けたほうがいいかもな」

 地図と端末のモンスターの分布図を見ながら遼二は和幸を制していた。

「何がいるんですか?」

 和幸は遼二に聞いていた。

「基本的には町の周りと変わらない。オークがリザードマンに変わって大トカゲが追加になる。後はモンスターのステータスが全部上がる。もらえる経験値も」

「具体的には?」

 和幸の問いに遼二はすぐに返事をしなかった。

「たまには自分で見たらどうだ」

 ため息まじりで遼二は和幸に言った。和幸からの返事はなかった。遼二はもう一度ため気をついていた。


 関所の明かりが少し遠くに見えていた。遼二はその明かりをぼんやりとみていた。そして、辺りを見回す。

「夜の外ってやっぱりすごいわね……」

 苦笑しながら梓が言った。梓の視線の先にはモンスターの群れがいくつもうごめいていた。時折誰かの放った魔法の光が見え、大ネズミやスライムのような小型のモンスターが宙を舞う。

「今日は夜光草を見つけたら帰るんだから、そんなに時間はかからないはずだ」

 どこか不安そうに遼二は梓達に声をかけた。

「でも、こういうのたいてい最後の一個は取りにくいところにあるの」

 遼二の不安をあおるように遥が呟いていた。遼二は表情を曇らせていた。そして、端末を取り出す。

「夜光草は光の多いところを好む。だから、開けているところに落ちていることが多いんだ。だから……」

 遼二は途中で言葉を切った。そして、下を見る。視線の先には、ほのかに光るスズランのような草があった。遼二はそれを引っこ抜く。引っこ抜かれても草は光り続けていた。

「すぐに見つかるんだよ。夜光草はもっている魔力が少ないらしいから、あんまり使い道はないし、そもそもパーティーに普通は回復役は一人はいるからこんな苦労する必要なんてないんだ」

 遼二はジト目で梓達を見た。和幸は笑みを浮かべたままで、梓はどこか申し訳なさそうに目をそらした。

「でも、だったらお兄ちゃんは何で最初から回復職にならなかったの?」

 遥が目を細めながら聞いていた。その聞き方にはどこかとげがあった。その問いに遼二は、肩をすくめるばかりで何も答えなかった。ただ、遼二は梓の表情が一瞬歪んだのが見えた。遼二は口を開こうとした。遼二の視線を感じたのか、梓が遼二を見た。梓は首を振っていた。遼二はそれを見て、それ以上の詮索をやめていた。


 遼二は重たそうにバックパックを引きずっていた。バックパックの中からは小さな毛皮やスライムボールといった比較的小型の素材が詰められていた。バックパックを一度見ると遼二は、手元の夜光草を見て小さく舌打ちした。

「あと一つが見つからないな……」

 遼二は街道に向かい目を凝らした。夜光草が発していると思われる白く淡い光は全く見つからなかった。

「一度、森の中を探したほうがいいかもしれない。そっちは全く見てませんからね」

 刀についたスライムの体液を大きな草で拭いながら和幸が言った。遼二も頷いていた。

「行きたくなかったんだよな、夜にこんなところには」

 苦笑しながら遼二はぼやいていた。それを聞いた梓が首をかしげる。

「たぶん、街道沿いよりも木や草があるほうがモンスターも住みやすいって思うの。だって、餌とかいっぱい落ちているし」

 遥は梓に説明していた。そして、言葉を切り震えだす。

「それに……おっきいモンスターって絶対大ネズミ食べてるって思うの……」

 言い終わった遥の顔は、嫌悪感で満ちていた。梓は顎に指をやり小さく頷いた。そして、足元を通り過ぎようとしていた大ネズミのしっぽをつかみ上げる。

「ああ……こりゃ確かに、大トカゲやウルフが食べそうね」

 納得顔で梓は頷いていた。次の瞬間、梓が拾い上げていた大ネズミの胴体に氷の弾が撃ち込まれる。

「お姉ちゃん! 冗談でも、モンスター拾うのはダメなの! 絶対病気持ってるの!」

 震えながら遥は、銃を梓が持っていた大ネズミだったものへとむけていた。梓はそれに対し首を横に振った。

「大丈夫でしょ。毒とかマヒになったら、状態異常を回復するアイテム使えばいいだけの話でしょ? だったらいいじゃない」

 梓は落ち着いていた。そして、森の中を見た。その時だった。梓の視界に、淡く白い光が目に入った。梓は笑みを浮かべると駆け出した。

「あっ、お姉ちゃん待って!」

 慌てて遥が梓の後を追っていた。遼二と和幸は顔を見合わせた。そして、苦笑していた。


 夜光草が生えていた場所は、森の中に少し入ったところにある開けた場所だった。

「これで夜光草は全部そろったわね」

 梓の機嫌はよかった。だが、それに反比例するかのように遥の機嫌は悪くなっていった。

(そうなの……お姉ちゃんはお姉ちゃんであってあたしじゃないの。お姉ちゃんだって、柄じゃないって言ってたけど、本当は誰かに恋したいの……)

 遥の胸中に、複雑な思いが生じていた。だが、遥はその想いを梓に伝えようとはしなかった。遥の目の前で梓は夜光草へと近づいていった。まるで遥がいないかのようなしぐさだった。遥は目を凝らして梓を見た。その瞬間、遥は目を見張った。夜光草のすぐ手前に細い糸のようなものを見つけたからだった。

「お姉ちゃん! 夜光草の前に、何かある!」

 遥は叫んでいた。梓の動きが止まったが、その寸前に梓の足は細い糸に触れていた。けたたましい金属音が鳴った。

「今のは何ですか!?」

 ようやく追いついてきた和幸が梓と遥に尋ねていた。梓はわからないとばかりに、強く首を横に振った。森の奥から足音が聞こえた。それも一つや二つではなかった。トカゲの頭をしたモンスターの一団が現れた。

「リザードマン! って、なんでこんなところでこんな群れが!?」

 遼二は驚いていた。梓達は遼二にその理由を尋ねる暇はなかった。リザードマンはすぐ近くにまで迫っていた。

 リザードマンの振り下ろされた剣が遼二の剣とぶつかる。オークほどの力はなかったが、リザードマンは剣で押し合うことなくすぐに次の攻撃を繰り出してきた。それでも遼二にはどこか余裕があった。

(慣れてきた、のか?)

 思わず遼二はそんなことを考えていた。そして、リザードマンの剣をはじき返す。リザードマンの目が見開いた。その直後、リザードマンは遼二に切り伏せられた。遼二は次の獲物を探した。だが、その予想は外れた。梓と和幸の足元に何体かのリザードマンが倒れていた。

「これが次のボス? オークのほうがまだ強かったわよ」

 あきれながら梓が言った。すぐそばでは和幸が同意するように頷いている。遼二は倒れているリザードマンを見た。そして、首を横に振った。

「こいつらはリザードマンじゃないかもしれない」

 遼二に言われ、梓達は遼二を見た。早くも遼二は端末の操作を始めている。

「リザードマンはオークみたいに粗末だけど鎧をつけているらしい。でも、今のやつらは鎧をつけていたか?」

 梓達は首を横に振った。それを見た遼二は続ける。

「俺もこいつらがリザードマンだって思った。だけど、リザードマンに似たこんなモンスターがいるみたいなんだ」

 遼二の端末には、トカゲ兵と呼ばれるモンスターが映し出されていた。

「トカゲ兵はあまり組織立った行動をとらない。でも、リザードマンは少数の群れをまとめる親玉がいて、ほかのリザードマンはその指示に従って動く。オークよりも柔軟な行動をする。組織立った行動をしていたが、今のやつら?」

 梓達は黙った。そんな梓達を見ながら遼二は足元の夜光草を取った。

「帰ろうか」

 返事はなかった。遼二は疑問に思いながら振り返った。そして、ため息をつく。梓と和幸の目は戦い足りないとばかりに輝いていた。遥も何かを期待しているように見えた。

「わかった。朝までだぞ」

 やむ負えないとばかりに遼二は呟いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る