ヒュードラ
@da74385
序章
藤野遼二は、パソコンのモニターを見ながら苛立っていた。
「出すぎだ、馬鹿野郎……!」
舌打ちしつつ遼二は、回復アイテムと書かれたボタンをマウスでクリックした。そして、チャットに手早く文字を打つ。
<足並みをそろえろ。共倒れになる>
ほどなくして、キャラクター名アイラブ人斬りというプレイヤーからの返信が来た。
<こちらで全部斬りますけど、それでいいですか?>
遼二は、スマートフォンタイプの携帯電話を取り出したそして、発着信履歴が突出して多い名前に電話をかけていた。
「おい、ふざけるな」
『なんのことですか?』
悪びれることなく遼二の唯一の友人である二宮和幸からの返事があった。
「全部やっつけられるわけないだろ。体力を見ろ」
『少なくなっているね。じゃあ、回復をよろしくお願いします』
憤る遼二に対し、和幸はマイペースだった。
『あと5体やっつければ、撃破数のランキングで20位以内に入れるんです』
その言葉が終わると電話が切れた。
「ああ、そうか」
電話が切れると同時に遼二は、マウスとキーボードを勢いよく動かし始めた。
<何人の獲物をとっているんですか?>
<早い者勝ちだ>
おそらく苛立っているであろう和幸の姿を想像し、どこか笑みを浮かべた遼二はさらにパソコンを操作した。ああああああと書かれたキャラクターが、アイラブ人斬りがとどめをする前にスライムのようなモンスターを次々と倒していく。モニターの片隅に会ったカウントダウンがゼロになったのを見て、遼二は再び和幸に電話を入れた。
「入れたか、20位以内に」
遼二の顔はニヤついていた。同時に、撃破数のランキングが現れる。
『おかげさまで。入れましたよ』
和幸の声の調子は、全く変わっていなかった。20位まで表示されるランキングの最後の行に、アイラブ人斬りの文字が書かれていた。
「それは残念だ」
落胆したように遼二は言った。言い終わる前に電話が切られていた。
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