クリスマスのキス
「クリスマスだ、クリスマスだ!」
そう言いながら、リビングルームをクリスマスパーティー用に飾り付けるのは、まだ小学4年生の私の従姉妹。
高校2年生の私の眼には、彼女は眩しく映る。
純粋で素直で、可愛い。
見ていると顔がニヤけてしまう。
お互い一人っこで、家が隣同士のせいか、私達はまるで実の姉妹のように接してきた。
クリスマスである今日、お互いの両親は仕事で夕方まで帰って来ない。
その間に、私と彼女の二人で、リビングルームをクリスマスパーティー用に飾り付けることにした。
「お父さんとお母さん、おっきなケーキ、買ってきてくれるかなぁ?」
「そうね。それにウチの父さんと母さんも買ってくるでしょうから、いっぱいケーキが食べれるわね」
「わーい! 嬉しいな♪」
そう言って満面の笑みを浮かべる彼女は、本当に可愛い。
私が男の子だったら、絶対に放っておかないだろう。
…まあ実際、彼女に声をかけてくる男の子はいるみたいだけど。
「ねぇ、おねえちゃんの欲しい物ってなに?」
クリスマスツリーに飾りつけながら、ふと真剣な声で尋ねられて、ちょっとビックリ。
「んっん~。まあ何でもいっかな?」
本音を言えば、最新型の携帯電話とかパソコンとか欲しいけど、小学生に言うには現実味がありすぎる。
「アンタこそ、何が欲しいの?」
逆に私が尋ねると、くるっと振り返ってきた。
その顔はあまり見たことのない真剣な表情で、何か高い物でも言われるのかと思った。
けれど彼女は飾り付ける手を止め、私の元へやって来た。
だからいつものように、しゃがんで両手を広げて、抱き締めてあげる。
このコが近付いて来た時には、こうやって抱き締めるのがクセみたいになっていた。
彼女は私の首に手を回して、ぎゅっとしがみついてくる。
「あたし、ずっと欲しい物があるんだ」
「うっうん…。それ、おじさんとおばさんに言ったの?」
「ううん。だってお父さんとお母さんじゃ、ムリだから」
稼いでいる二人がダメとなると…何だろう?
まさか二次元の物とか?
いやいや、今時のコはそこまで夢見がちではないだろう。
それに彼女だってほんわかしているけれど、世の中の厳しさは分かっている。
時々、私よりも大人びたことを言うし…。
「あたし、ね」
顔を上げた彼女の顔は、僅かに赤く染まっていた。
「おねえちゃんが欲しい」
「…えっと、流石にそれは厳しいわね」
彼女は先に産まれてしまっているから、後から産まれるのは弟か妹しかない。
「やっぱり、ダメ?」
「ダメってことじゃないけど…。えっと、ホラ。年上の血の繋がった女性なら、私がいるから、それで我慢してくれない?」
妥協案を口にしてみると、彼女は首をかくっと横にする。
…まあ安い妥協案だよね。
言っている私でさえ、そう思う。
「ん~。それって、どういう意味?」
「えっ? だからホラ、姉が欲しくても、あなたが先に産まれちゃっているから…」
「ああ、そういう意味だったんだ」
えっ? 違ったんだろうか?
「あたしが欲しいのは、姉じゃなくて、おねえちゃん自身なの」
そう言って、彼女は小さな唇を私の唇と合わせた。
「~~~っ!?」
ちゅっと軽く音を立てて、彼女の唇は離れる。
けれど私は自分の頭の中で、何かがボンッ!と破裂する音が聞こえた。
「あたし、おねえちゃんが大好きなの。だから将来、お嫁さんになりたい」
「えええっとね。あの、ね。女の子同士じゃ、結婚できないのよ」
混乱している私が言えたのは、そんな常識的でつまらない返答だった。
「それ知ってる。けどあたしが結婚したいと思えるのは、おねえちゃんだけなの」
そんな大きな瞳をうるうるさせながら言わないで!
彼女が生まれた時、妹が生まれたと思うぐらい嬉しかった。
だからめいっぱい可愛がって育ててきたけど…まさかこんな思いをもたれていたなんて!
どうする?
ここでハッキリ断ると、絶対に彼女を傷付ける。
…それだけはイヤだ。
彼女の悲しむ顔は、見たくない。
「おねえちゃんはあたしのこと、嫌い?」
「そんなワケないでしょ!」
「じゃあ好きなんだよね? 嬉しい! あたし達、両想いなんだ!」
嬉しそうに抱き着いてきた彼女を受け止めながらも、私の混乱は更に酷くなる。
なっ何かこのコ、計算していない?
私が否定することなんてしないと分かっていて、強引に話を進めている気がする!
だとしたら……天性の小悪魔だ。
何せ可愛いし。
自分がモテることも、自覚しているだろう。
その魅力を使って迫ってくるなんて…末恐ろしいコ。
「ねぇ、ダメ?」
舌足らずの甘ったれた声で、耳元に囁かれる。
「だっダメって言うか…。そんな関係にならなくても、私達は従姉妹でずっと一緒にいられる関係じゃない?」
「ヤダ!」
しかし彼女は愛らしく拗ねる。
ああもう…本当に可愛いんだから。
「おねえちゃんの一番じゃなきゃ、ヤダ! 他の人なんて好きになっちゃダメ!」
…しかも女王様タイプでもあった。
「おねえちゃんにはあたしだけを見て、思っててほしいの! それがいけない?」
「いけなくはないけど…」
どんなに逃げようとしても、彼女は必死に追い縋ってくる。
ならまあ、今だけなら良いかもしれない。
今の私はフリーだし、彼女ほど夢中になっている人もいない。
まあ彼女だってもう少し大人になれば、男の子に目が向くかもしれないし。
今だけのことだと思って、彼女に付き合っても良いか。
…何せ可愛いコだし。
メロメロになっちゃうしな。
「…はぁ。分かったわ。それじゃああなたが飽きるまで、付き合ってあげる」
「あたし、絶対に飽きないもん! …でも嬉しい! あたしが大きくなったら、二人でお揃いのウエディングドレスを着ようね!」
「ははっ…。そうね」
最早乾いた笑いしか出てこない。
ウエディングドレスかぁ。
確かに彼女は大人になったら美人になるだろうし、着ている姿は見てみたい。
けれど私は…7歳の年の差って、成長するにつれて、大きくなるんだよね。
思わず遠い目をしてしまう。
「あっ、そうだ。あたし、おねえちゃんにあげる物があったんだ」
そう言ってスカートのポケットから2つのリボンを取り出し、ツインテールにつける。
「へへっ。おねえちゃんには、あたしをプレゼントしてあげる」
んがっ!?
それって私の両親が若い頃に流行ったフレーズ…一体どこで知ったんだか。
呆然としている姿を見て、彼女が不安そうに表情を曇らせる。
「おねえちゃん…嬉しくない?」
「…ハッ! うっううん! 嬉しいわよ! ありがとう」
正気に戻った私は、微笑んでみせる。
「えへへ。…ねぇ、おねえちゃん」
再び顔を近付けてきた彼女の仕草で、何を望まれているのか、気付いてしまう。
…ああ、本当に小悪魔な女の子だ。
成長するのが怖いようで、楽しみ。
複雑な思いを抱きながら、今度は私の方から彼女にキスをした。
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