中学生のキス

「ねぇ、キスの味ってあるのかなぁ?」

「…無い、と思うケド」

 少し夢見がちなアタシの親友は、少女マンガ雑誌を見ながらぽや~としている。

 昼休み、学校の中庭でお互いに読書をしていた。

 彼女はマンガ雑誌を、アタシは数学の参考書を読んでいたのだが…。

「昔はレモン味だって言われてたのよねぇ。甘酸っぱいって」

「レモンはフツーに酸っぱいじゃない」

「んもー! 全然夢が無いわね」

「あってどーする? 実際そうじゃなかった時の落胆が激しいだけでしょ?」

「夢が無いなんてサビシイわねぇ」

「余計なお世話よ。それより現実逃避はよくないわよ」

 そう言ってアタシは自分が見ていた参考書を振った。

「高校受験は夢では何ともならないわよ」

「ううっ…。それは夢も見られないのぃ」

 青い顔で遠ざかる親友。…やっぱり逃げてたか。

「アタシと同じ学校を目指すのは諦めたら?」

「え~、イヤっ!」

「イヤってねぇ。実力が無いんだから、きっぱり諦めた方が良いじゃない」

「ひどっ…!」

「酷くない」

 あっさり言い放ち、マンガ雑誌を取り上げる。

「恋愛なんて二の次にしなさいよ。高校に入ったら、いくらでも出来るでしょう?」

「…出来ないもん」

「何でよ? 中学よりも高校の恋愛の方が盛り上がるんじゃないの?」

「そっ…んなことっ、無いもん!」

 そう言っていきなりアタシにキスをしてきた。

 ―キス、されてしまった。

 一瞬だけ触れたあたたかな感触。

「…とだぁ」

「えっ…?」

「何の味もしないね…」

 泣きそうな彼女の顔を見るのははじめてだった。

 だからそのままアタシの前から去って行っても、何も声をかけられなかった。

 唇に触れてみた。

 味はしなかったケド…彼女のぬくもりが、唇に残っていた。

 だからアタシは走って彼女を追いかけた。

 幸いにも彼女の足はそんなに速くない。

 すぐに追い付いて、腕を掴んだ。

「待って!」

 でも振り返った彼女は、泣いていた。

「何で…泣いてんのよ?」

 泣きたいのはこっちだと言うのに…。

「ごめっ…ゴメンなさい…!」

 ボロボロと泣き出す始末。

 アタシは深く息を吐いて、彼女の涙をハンカチで拭った。

「まあ…味は無いけどさ」

「ふえっ…?」

「気持ちが心に届くわね」

 そして彼女をぎゅっと抱き締めた。

「…あったかいアンタの気持ち、確かに届いたわよ」

「ふっ…ええん…!」

 泣き出す彼女を、とても愛おしいと思える。

 気持ちを伝えるには、案外言葉よりもキスの方が現実的かもしれない。

 言葉ではいくらでも誤魔化しがきくけれど、キスは素直だから。

 だからアタシは、彼女にキスをした。

 言葉よりも強く気持ちを伝える方法として。

 すると彼女の涙が止まった。

「…甘く感じるぅ」

「そりゃ、甘い気持ちだからじゃない?」

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