スケベなキス

 ウチの高校は女子校。

 まあそれはあたし自身が望んで選んだのだから、文句なんてあるはずがない。

 昼休み、中庭で昼食を食べながら、キャッキャとはしゃぐ生徒達をじっと見る。

「女の子って良いよねぇ。柔らかいし、良い匂いするし。甘やかしてくれるし、優しいし」

 ぼんやり呟くけれど、隣に座る女の子の目がピクッと動いた。

「…アンタ、そのスケベ発言、いい加減にしたら?」

「あたしは素直な性格だから。思ったことを口に出しているだけ。あなたは聞きたくないなら、離れたら?」

「なっ!? どっどこでお昼を食べようと、自由でしょうがっ!」

「まあ確かにね」

 もそもそとサンドイッチを食べながら、再び女の子達に視線を向ける。

「あっアンタってさぁ」

「ん?」

「その…女の子が、好きなの?」

「…ん~、そうだねぇ。女の子も、好きだよ」

 男の子も別に嫌いなワケじゃない。

 ただやっぱり、女の子の方が良いな~って思っちゃうだけ。

「れっ恋愛対象はどっちなのよ?」

「どっちも。別にこだわっていないもの」

「…むっつりスケベ」

「別に隠してないよ」

 そう言いつつ、イチゴミルクをズズーっとすする。

「あたしは甘えたい人には甘える主義だから。そこに男女の壁がないだけ」

「そういうの、見ていると節操ないって感じだけど?」

「かもね~」

 気に入る人は一人とは限らない。

 あたしは本当に甘える時に、甘える。

 体にぺったりくっついたり、手を握ったり、背中に抱き着いたり。

 過剰なスキンシップが好き。

 流石に中学生になると、男の子にするのは躊躇うようになった。

 けれど女の子同士なら、別に何も言われないし思われない。

 …少なくとも、隣の彼女以外には。

「…でもアンタ、アタシにはその…スキンシップ、してこないわよね」

 箸を持ちながらも、彼女は何も食べようとしない。

 じっとお弁当に視線を向けているだけ。

「別に深い意味はないよ? ただ、あなたがそういうの、嫌いみたいだからしないだけ」

「べっ別に嫌いとは言っていないじゃない!」

「でもあたしが他の女の子にべったりくっついていると、すっごくイヤ~そうな顔するじゃん」

「そそそそそっそれはっ…!」

 彼女は真っ赤な顔で、あたしの顔を睨んでくる。

「けどこうやって一緒にお昼、食べることもあるよね。ああ、一緒に帰ることも。何でだろうねぇ?」

 あたしはニヤッと笑って見せる。

「くっ…! アンタって絶対性格悪いわよ!」

「自覚している」

 平然と答えると、彼女は静かに俯き、呟いた。

「…でも、そんなアンタのことが好きなアタシは、趣味が悪いわね」

「…ヒドイ言い方だね。まあ趣味が悪いってことは、賛同するよ」

「あっアンタねぇ!」

 再び怒鳴る為にこっちを向いた彼女に、あたしはキスをした。

「…えっ? えええっ!?」

 彼女はお弁当を抱え、後退る。

「でもあたしも好きな人の趣味、悪いかも? やきもち焼きのツンデレ女の子が好きだなんて、流行に流されているかもね?」

「なっなっ…!?」

「でもまあ案外、相性は良いかもよ?」

 彼女はさっきも言った通り、やきもち焼きのツンデレ。

 あたしは少し無気力的な甘えん坊。

 プラスとマイナスが合うことなんて、小学生でも知っていることだ。

「…ほっ本気でアタシのことが好きなの?」

「うん、割と」

「そういう言い方されたら、信じられないって!」

「でもキスしたのはあなたがはじめて。あたし、スキンシップは激しい方だけど、キスはしないもの」

「うっ…」

「それに他のコとイチャつくと、あなたが面白い顔になるから、つい」

「そう言うところも性格が悪いって言うの! あっアタシのことが本気で好きなら、もう…他のコに必要以上のスキンシップはやめてよ」

 と、泣きそうな顔で言われると、ぐらっと来てしまう…。

 人肌に触るのは好きだし、触れるのも好きなんだけどなぁ。

「ああ、じゃあこうしようよ」

「なに?」

「これからはあなた専門でスキンシップをする。他のコにはしない分、あなたにいっぱい触るけど、それでも良い?」

「触るって…どれぐらい?」

「今まであなたが見てきたぐらい?」

「かなり疲れそうなんだけど…」

「じゃあ他のコに…」

「わああっ! 分かった! アタシに触れても良いからっ…ちゃんと約束は守ってよ?」

「分かった。それじゃあ、はい」

 あたしは笑顔で彼女に両腕を広げて見せる。

「えっ?」

「あたしの腕の中においで~」

「ええっ!?」

 彼女は真っ赤になるけれど、少しの間考えて、ため息をついた。

「…分かったわよ」

 そして渋々、あたしの腕の中に来た。

 あたしは後ろから彼女を抱きしめる。

 いわゆるラッコ抱っこ。

「…こうなると、アンタがゴハン、食べにくいんじゃないの?」

「あたしはもう食べ終えちゃった。ん~。やっぱり女の子は良いねぇ」

 髪の毛はサラサラで、良い匂いがする。

 体も柔らかくて、あったかい。

「ちょっと…。あんまり引っ付くと、ゴハン食べれないって」

 ちょっと困った顔で言われるけれど、本気では嫌がっていないことは分かる。

「ゴメン」

 そうしてあたしは腕の力を抜いた。

「んもう…。こんなんじゃ、先が思いやられるわ」

「好きな子には余計にくっついていたいタイプなのかも」

「よく言うわ。ただスケベなだけじゃないの?」

「好きな子相手には、誰だってそうならない?」

「ぐっ…! ふっ普通は黙っているもんなの!」

「じゃあ黙って、くっついてる」

 そう言って彼女に、ぎゅっとくっつく。

「そう言う…意味でもないんだけど。まあ、良いわ。もう」

 あたしの腕の中でご飯を食べる彼女を見て、何か幸せな気分になれる。 

 最初はただ、彼女の反応が面白かっただけ。

 でも今では…一人占めしたいと思うようになった。

 彼女にしか触れたいと思わなくなるのも、時間の問題かもしれない。

 けれど目線はついつい、他の女の子達に向かってしまう。

「あっ、あのコ。色白でちょっとぽっちゃりしているね。触ったら、気持ち良さ…」


 ドコッ!


 と腹に肘鉄が入れられ、続きは言えなかった。

「このどスケベ! アンタはアタシだけを見て、触っていれば良いのよ!」

 涙を浮かべながら振り返った彼女に、キスをされてしまった。

 …うん。やっぱり彼女に夢中になるのは、そう遠くはないな。


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