おい。早くデレろや、取り憑かれ青年!

 読み進めている間、何度こう思ったことか……。

 この物語は、様々な事情で夫を三度亡くした未亡人の香淑と、とある呪いに苦しむ金持ち美青年の榮晋が結婚する所から始まるわけなのですが……まあ、そこから素直に「即ラブラブ~」の東方ラブストーリー開幕とはいかないんですね、これが。

 それどころかこの美青年、見事に色々こじらせておりまして、香淑に滅茶苦茶冷たくあたってくるんですよ。ツンツンしまくりなんですよ。
 そのくせ、唇はねっとり奪ってくるんですよ。ツンキス男ですよ。美青年じゃなかったら即逮捕案件ですわ、これは。

 一方で、年上女房の香淑。これがまたねー、健気でいい娘なんですよ。
 結婚するたび夫が死んじゃうってことで、世間では色々悪評が立ってるんですけど、実物は滅茶苦茶いい娘なんですよ。

 それなのに……榮晋、この野郎!
 「事情があるのは分かるが、どんだけツンツンしとんじゃ! いい加減さっさとデレを見せろ!」と、読んでいる間、私の心は荒ぶるばかりでございました。

 でもタグにもある通り、物語はちゃんとハッピーエンドを迎えるので、ご安心を。
 溜まりに溜まった榮晋に対するフラスト・デレーションが解消された瞬間には、「うおっしゃああああ!」と、天に拳を突きあげたくなること請け合いでございます。これも、作者様の計算の内でしょうか……。

 そしてこのデレ・カタルシスに加えて、登場人物のキャラメイキングが抜群に素晴らしい。

 なんといっても、香淑。香淑が可愛い。いい娘すぎて可愛い。もういっそ、ウチに嫁に来てほしいくらい可愛い。
 そして、マスコットキャラ的な晴喜も可愛い。犬コロ癒されて可愛い。
 カッコいい成分的にも、髭ダンディ兄貴分の道士やら、狐のイケメンパパやら、魅力的なメンズが登場し、油断してるとまんまと乙女ゲーの罠に嵌ってしまいます。
 ……ただし榮晋。貴様は美青年だけど、デレるまで許さん。

 また作品全体を通して、作者様の舞台描写が巧みでいらっしゃること。
 語句の選び方が良いんですかねえ。事細かな説明文章が無くても、中華風な世界観がススーッと浮かび上がってきちゃいます。
 「ローマもいいけど、中華もね!」と優し気に微笑む作者様の引き出しの多さには、感嘆するばかりでした。

 私を狐パパ属性という新たな属性に目覚めさせてくれたことに感謝の気持ちを込めて、「Bravo! 我愛你!」と、称賛の言葉をお送りしたいと思います。

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