ドス黒なずみ童話 ① ~どこかで聞いたような設定の娘とのお喋り~【なずみのホラー便 第40弾】

なずみ智子

ドス黒なずみ童話 ① ~どこかで聞いたような設定の娘とのお喋り~

 あの娘の顔を見た時、私は本当に息が止まっちまうかと……いいや、私の心臓そのものが立てている”残り少ない鼓動”までもが止まっちまうかと思ったよ。


 娘の純白の肌はまるで穢れなき雪のごとく透き通り、真紅の唇は生命の息吹のごとく艶やかに潤い、漆黒の髪は磨き抜かれた黒檀のごとく輝きを放っていた。

 

 身なりこそ粗末な娘だったけど、まるでどこぞの姫様かと思うほどの気品までもが美貌に相乗されて、ここのところ”より一層”霞みが激しくなっている私の両目をその美の光で潰さんばかりだったよ。

 

 しかも、娘は”林檎を押し売りにきた婆さん”である私に対しても、嫌がるどころかにっこりと笑顔を見せてくれた。

 さらに「おばあさん、私、その林檎を全部買おうと思うの。だから、おばあさん、家の中に入って、私とお喋りをしてもらえないかしら?」とまで、鈴を転がすような声で言ってくれたんだ。


 見ての通り私も年だし、こうして森の中を歩いてきたのは足腰にかなり響いていたから、ゆっくり体を休めたいのは山々だったよ。

 でもね、飛び込み営業先の家に入るってのは……今日、会ったばかりの人の家の中に入るってのは、この年になってもちょっと躊躇しちまうよ。


 見知らぬ人が家に訪ねてきたら、あんたたちだってビックリして構えちまうだろう?

 けど、訪ねてきた側だって、碌に知りもしない者の家の中に入るのは怖いんだよ。

 仮にこの娘に招き入れられた家の中で、屈強な男が7人ぐらい待ち構えている可能性だって、無きにしも有らずだ。

 貞操や美しさはとうの昔に失っている今の私が惜しいのはこの命ぐらいだけど、惨い目にあって、この世を去るのなんて絶対にごめんだからね。



 だから、私は最初は無事にノルマを達成できた証明である林檎の代金だけをもらって、立ち去ろうと思ったんよ。

 でもね、「そんなこと言わないで。私と一緒に楽しくお喋りしましょうよ、おばあさん」と懇願してくる娘の可愛さといじらしさにとうとうほだされちまったわけなんだ。


 それに、この娘は私の両腕に負荷をかけていた籠の中の林檎を全部買ってくれる奇特な娘なんだ、少しぐらい一緒にお喋りするぐらいいいだろう、とも。

 一緒にお喋りとはいったけど、私は子供も孫も持つことなく、この年まできちゃったから、こんな若い娘と話題を合わせることができるかって、不安がないわけじゃなかったけどね。

 


 

 けれども、家の中へと招き入れられた私は、本当にビックリしたよ。

 ついさっきまで、この娘の美しさに心臓が止まらんばかりだったのに、今は家の中の”惨状”に心臓が止まらんばかりになったよ。


 私もそう家事が得意な女じゃないけど、ここまで家の中を汚しまくって、それを”放置し続けた”ことはなかったからね。掃除に身が入らない時があっても、ある一定のボーダーラインまで来たら、自分でも気持ち悪くなってくるから、せっせと掃除してたんだよ。


 そう、このまるで姫のように美しき娘が招き入れてくれた家の中は、いわゆる汚部屋だったんだ。汚部屋でしかなかった。


 食べ物がこびりついている皿が幾重にも重なっているうえ、コバエがブンブンブーンと飛び交っている。コバエだけならまだしも、”ゴキブリたち”がシャシャシャーッと這いまわっている。

 床には灰色の埃の塊と一緒に、洗濯後か洗濯前から分からない服が散乱しまくっている。

 窓の色褪せたカーテンは半分外れけているうえ、そこには小さな虫たちが列を作ってウヨウヨウヨーッと蠢いているようだった。


 こりゃあ、相当に重度の片付けられない女だ。

 そろそろ利かなくなってきている私の両鼻にも、このゴミだめの悪臭がほんのりと届けられてきたよ。

 その場に立ち尽くしたまま、一刻も早く逃げ出したくなっている私に気づくこともなく、娘は物が乱雑に詰め込まれている棚をゴソゴソし始めてた。


「林檎を乗せるお皿が見つかったわ。さあ、おばあさんは、そちらのテーブルの椅子に座って。私が林檎を剥いてあげるからね」


 仕方なしに私は椅子へと腰掛けたよ。

 テーブルだって汚部屋の例に漏れず、飲み物や食べ物をこぼしても水拭きしたこともないのか、カピカピで不潔そのものだったんだ。


 娘が剥いた林檎を乗せるために、テーブルの上へとコトンと置いた白い皿には何かの模様が青緑の塗料で描かれていた。

 でも、それは塗料で描かれた模様なんかじゃなくて、青緑の黴で描かれた模様だったんだ!

 さらに「すぐに林檎を剥くからね。おばあさん」と娘が手にしているナイフは”曇っていた”! 絶対に”肉か何かの油で”曇っている!

 

 そもそも、娘は肉の油がこびり付いたままのナイフだけでなく、私が持ってきた林檎すら洗うことなく、鼻歌を歌いながら皮を向き始めた。

 一応、この御部屋の隅には水甕っぽいもの入れ物がデンと置かれていたけど、そこの水だって腐って、ボウフラが湧いているのは覗き込まなくても分かったよ。


「どうしたの、林檎を食べないの? おばあさん」


 赤い唇で林檎をシャクリと齧った娘が、私に問う。

 こんな不衛生な所で口に物を入れる気になれるかい! そもそも、あんた、こんなところで暮らしてしながら、なんでその肌には湿疹一つできず綺麗なままなんだい? というツッコミは心の中にしまって、私は娘に答えた。


「ごめんよ、私は今、お腹がいっぱいなんだよ。年取っちまうと、どうも食が細くなってきてねえ」


「へえ、”やっぱり”そうなのね。ねえ、おばあさん、なんでその年で林檎売りの仕事なんてしているの? おばあさんの家の人たちは、誰もおばあさんの面倒を見てくれないの? おばあさんは嫌われているの?」


「…………私は独身だよ。ずっと一人暮らしだ。旦那を持つこともなく、ここまで来ちゃったからね」


 娘のあまりにもストレートで、年長者に対する敬意と”思いやりに欠けた言葉に、傷つかなかったって言えば嘘にはなるよ。


 私だって若い頃は、結構な美人でモテたんだ。選り好みしているうちに、婚期を逃しちまったのは事実だ。もし、言い寄って来た男の中でそれなりに金持ちの男を選んで結婚していたなら、今頃、のんびりと老後を過ごしていただろうし、この無礼極まりないうえ不潔な娘に会うことすらなかっただろう。

 でもね、孫であってもおかしくない年頃の娘に、目くじらを立てて真っ赤な顔で説教する気にはなれなかったし、そもそもそんな元気なんて、とうの昔になくしちまってんだ。



「へえ、おばあさんは、ずっと一人なのね。友達や知り合いもいないの?」


「…………友達ぐらいは一応、”いた”ことはあったよ。知り合いというか、同僚もね。私に、この林檎売りの仕事を紹介してくれた”シルバー人材センター”の同僚がね。でもね……私たちぐらいの年になるとね、一足先にあの世にいっちまったり、”いつの間にかいなくなってしまっていたり”するんだよ。皆、自分自身が生きていくことで精一杯で、他人のことなんてそれほど構っていられないんだ」


 世にも美しいこの娘は、空気を読む力や思いやり、衛生観念や人との距離感に分配されるべき”力”を、神様が全部、顔面に集中させて造ってしまった、世にも残念な娘だと、私は思うことにした。


 今はその若さと美しさで人生楽勝って悪魔すら恐れやしない状態なんだろうけど、男だってそんなに馬鹿じゃないよ。あんただって、その美貌で、”どっかの国の王子”でも見初められやしない限り、何十年か後には私と同じ運命をたどるだけさ。


 娘の綺麗な顔から視線を逸らした私は、ふと”ある物”に気づいたんだ。

 そして、不衛生な環境と”悪意なき棘”で私の心を土足で荒らしてくる不快極まりない娘に少しだけ意地悪なことを言ってやろうと思ったんだ。



「あんた……もしかして、子どもでもいるのかい?」


「? 私に子どもなんていないわ。おばあさん、どうして、そんなことを聞くの?」


「いや、だって、そこらかしこに小さい子どもが着るような服や靴下が散らかっているからね。あんたの子どもじゃないなら、小さな弟たちでもいるのかい? 弟たちの世話で忙しいから、部屋の掃除にまで”これほどまで”手が回らないんだね」


「あの服ね。あれは、私と一緒に暮らしている7人の小人さんたちの服よ」


 私が発した”棘”にも、娘は羞恥で顔を赤く染めるどころか、平然としたままだった。

 そりゃあ、そうだ。

 こんな汚部屋を平気で他人に見せられるぐらいだもの、今さら恥ずかしいなんて思いやしないだろう。


 そもそも、この娘には同居人がいたのかい。

 しかも、7人も。

 誰一人として、娘に掃除するようには諭さないのかね。きっと7人ともが綺麗なだけのこの娘を相当に甘やかしているに違いないね。



 私は、適当にお喋りを切り上げて、この娘とおぞましいにも程がある汚部屋から脱出しようと考えていたよ。


 けれども……

「それでね、おばあさん」から始まる、娘のお喋りはなかなか終わらなかったんだ。


 なんなんだい、この娘は?


 口に物を入れている間――林檎を齧っている間は、少しばかり大人しくはなるんだけど、それ以外はずっと喋り続ける。

 際限なく喋り続けている。

 山もなく、オチもなく、意味もない話を。


 やっと話が終わったかと思えば、少し前に聞いたのと同じ話題をまた話し始める。

 同じ話題を幾度も幾度もループさせ、そのループに付き合わされる私。

 まるで、この娘は壊れたオルゴールのようだ。

 いや、壊れたオルゴールを前にしている方がましだね。

 きちんと分別してゴミに出せば、二度とその音を聞くことがないからね。



「そろそろ帰るとするよ。林檎のお代を払ってくれるかい?」


「後で払うわ。おばあさん。でも、もう少しお喋りしましょうよ。それでね、おばあさん……」


 それから、小一時間。


「本当にそろそろ帰るとするよ。だから、林檎のお代を払ってくれるかい?」


「ええ、後で払うわ、おばあさん。でも、もう少しだけお喋りしましょうよ。それでね、おばあさん……」


 それから、さらに小一時間。

 ついに、外ではついに、カラスがカアカア鳴きだしたようだった。


「本当に本当に帰るよ。”本当に帰りたいんだよ、私は”。早く、林檎のお金を払っとくれ」


「ええ……分かったわ。払うわ。でもね、お金は奥の部屋に置いてあるのよ。私はお金があったらあるだけ使っちゃうタイプだから、小人さんたちも私になかなか渡してくれないのよ。今から、一緒に奥の部屋に来てくれる?」



 この娘は、金銭感覚までも滅茶苦茶だったのかい?

 まあ、この汚部屋のカオス具合を見ていたら、”何もかもにだらしない”ってことは、推測はできるけどね。


 よっこらしょ、と椅子から立ち上がった私は、娘とともに奥の部屋へと向かったよ。

 足の踏み場もないぐらいに散らかっている廊下には、腰紐や櫛も転がっていた。

 なんだか、その腰紐や櫛は”どこかで見覚えがある”気がしたんだんだけど……


「さあ、おばあさん、この部屋の中にお金が置いてあるわ」


 やっと、お金が手に入る。それに、この娘からもやっと逃れられる、と思った私は、娘に促されるまま部屋の中へと迂闊にも足を踏み入れちまった。


――!!!!!


 瞬間、そろそろ利かなくなってきている私の鼻に”この世のものとも思えぬほどの凄まじい悪臭”が届けられたんだ!

 さっきまでの、ゴミだめの悪臭なんて比じゃない地獄のごとき臭いが!

  

 鼻を押さえた私の背中を、一瞬の間ののち、娘がドンと突き飛ばした!

 ドサッと床へと倒れ込んだ私の身は、もろくなっているそこかしこの骨が折れたのかと思うほどの衝撃と苦痛に襲われたよ。


 ヨロヨロと立ち上がろうとした私の背中に、この部屋の鍵が”外側から”カチリとかけられた無情な音までもが投げつけられた!

 しかも、それだけじゃない。



「あ……っ!! ああああっ! あ、あ、あ……”あんたら”!!!」


 この部屋には、すでに先客がいたんだ。

 ウジ虫がクチャクチャとたかっているその先客たちの”面影”に、私は見覚えがあった。

 私が所属している”シルバー人材センター”の同僚たちだ!

 そう、”いつの間にかいなくなってしまっていた”腰紐売りと櫛売り担当のばあさん”の2人だ!!!


 ”シルバー人材センター”の経営者は、ばあさんが2人とも、大事な商売道具を持ったまま、トンズラしたなんて立腹していたけど、そうじゃなかったんだ。

 2人とも、あの娘にこの部屋に監禁されたまま、死んじまってたんだ。いや、娘に殺されたんだ!


 2人のばあさんの死体だけじゃない。

 ウジ虫が得意気にクチャクチャとたかっている死体は、まだまだあった。

 1体、2体、3体……7体もの、小さな死体が!

 おそらく、この7人は、娘が言っていた森の小人たちだ!


 首に紐をかけて縊死したと思われる小人もいれば、何やらフォークらしきもので両耳の鼓膜を貫いて死んじまったと思われる小人もいる。

 なんてこったい、娘が”一緒に暮らしている”と言っていた7人の小人たちまでもが、全員死んじまってた。


 私の鼻腔を蹂躙している”この世のものとも思えぬほどの凄まじい悪臭”は、本当にこの世のものではなくなった者たちが放っている死の臭いだったんだ!



「ねえ、おばあさん」


 閉じられた扉の外側より、鈴を転がすような娘の声が響いてきた。

 よくよく見れば、この扉の私の心臓ぐらいの高さのところに、あの娘の細い手首がやっと入るぐらいの穴が開けられていた。


「今日からそこがおばあさんの部屋ね。好きに使ってくれていいからね。食事はちゃんと持ってきて、私がこの穴からおばあさんにあげるからね」


「あ、あんた、いったい、何考えてんだい!? ふざけるのは、やめとくれ! 早く、ここから出しとくれ!」


「ダメよ。私は一緒にお喋りをしてくれる人が欲しかったの。お喋りって、1人でするもんじゃないでしょう? 以前にもおばあさんが2人ほど飛び込み営業にやってきたから、私はこの部屋に案内したんだけど、2人ともだんだん食事もとらなくなって、今は私が喋りかけても何も答えてくれなくなっちゃって、とっても寂しかったのよ」


 年を取ると食べ物を飲み込む力が衰えてくるんだよ。

 それにこんな異常な環境で、通常の精神状態で過ごせるわけないだろう? 

 そもそも、この腰紐売りと櫛売り担当のばあさんの2人とも、あんたが監禁の末に、殺したんだろう?!


「7人の小人さんたちだって、私のお父さんやお母さんと同じく、『出ていけ!』『うるさい!』『もう気が狂いそうだ』なんていって、次々に首を紐で結んだり、両耳にフォークを差し込んだりした後、何も答えなくなっちゃったし……中には泣き喚きながら”外へと飛び出していった”とした小人さんもいたけど、私が”首に腕を回して捕まえたら”グッタリしちゃって、今のそのグッタリした状態が続いちゃってるのよね」


「あ、あんたが小人たちをノイローゼにさせたんだろ! ノイローゼにさせて自殺に追いやったり、あんたが縊り殺したんだろ! 皆、あんたが殺したんだろ!!」


「殺した? 殺したってどういうこと? だって、人間って、死んでも生き返るんでしょ? ほら、この地方に語り継がれている伝説の『白雪姫』のお話、おばあさんも知ってるでしょ? 毒林檎を食べさせられて死んじゃった白雪姫だけど、王子様のキスで目を覚ましたのよ。でも、素敵な王子様がやって来たとしても、おばあさんたちは、年齢と容姿的に王子様の釣り合いが取れそうにないからスルーされちゃうでしょうね(笑) 元王子様なおじいさんの到着とキスを待たなきゃ(笑) それに、7人の小人さんたちは全員男だから、男を愛する王子様からのキスを”眠ったまま”待ち続けることになるわね」


 なんてこったい!

 この娘――伝説の『白雪姫』がこの地方に再来したがごとく美しい娘は、人間の生死に対する認識や倫理までもがグチャグチャだったんだ。


「わ、わ、私をここに監禁するつもりなんだろうけど、そうはいかないよ! 私が勤務中に姿を消したことを”シルバー人材センター”の経営者や他の同僚たちは、絶対に不審に思うさ! すぐに私をここまで探しにきてくれるさ!」


「? ……おばあさんたら、おかしなことを言うのね。矛盾してるわよ。だって、おばあさんがさっき自分で言ってたんじゃない? ”皆、自分自身が生きていくことで精一杯で、他人のことなんてそれほど構っていられない”って。だから、おばあさんのことをわざわざここまで探しに来る人なんていないわよ」


「!!!!!」


 そうだった。

 私自身、”いつの間にかいなくなってしまった”腰紐売りと櫛売り担当のばあさんの2人のことも、仕事が嫌もしくは体力的にきつくなって、バックレただけだって思っていた。

 ”シルバー人材センター”も、私自身も、行方不明となった2人のばあさんたちの行方を本気で探そうとはしなかった。

 そして、私が……”林檎売り担当のばあさん”がいつの間にかいなくなってしまったとしても、”シルバー人材センター”も誰も、私を本気になって探してはくれないだろう。


 だとすると……

 私はこのまま、”ここ”で死体たちともに寝起きし、不衛生な環境で作られた料理を残飯のごとく与えられ続け……

 恐ろしい人殺しのサイコ娘の山もなく、オチもなく、意味もない話を際限なく、一方的に聞かされ続け…………


「嫌だ! 嫌だあ!!! やめとくれ!!! もう金なんていらない! このことは誰にも喋らない! だから、ここから出しとくれえええ!」


「駄目よ、おばあさん。おばあさんが私にくれた林檎はとっても美味しかったもの。その林檎のお礼に、私はおばあさんとたくさんお喋りしてあげるわ、それに、おばあさん、ご家族だっていないんでしょう? ずっと一人だったんでしょう? 私のことを娘だって……ううん、孫娘だって思ってくれていいのよ。あ、ちょっとトイレに行きたくなったから、行ってくるわね。この家の裏にある”井戸のすぐ近くにトイレ”があるし、すぐ戻ってくるからね」


 そう言った娘の、パタパタという軽快な足音は遠ざかっていった。

 それに反比例するかのように、この監禁部屋の死した先客たちの肉を貪るウジ虫たちが際限なく奏で続ける音は、より大きくなっていく……!!!


 嫌だ!

 絶対に嫌だ!

 こんなところで、こんな死に方なんてしたくない!!!

 

 誰か助けとくれ!

 誰か私を探しにきとくれ!!

 誰か、あの娘に”毒林檎”でも喰わせてこの世から駆除しとくれえええ!!!




―――fin―――

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