人物一人ひとりがしっかり描かれ、また心情•風景とも生々しく鮮烈に表現されていてとにかく読んでいる間登場人物と同じ時間軸を過ごしている気持ちになりました。ネット小説にこんなに引き込まれたことは、今までなかった。
時間軸とメンバーが複雑なこともあり、是非紙でじっくりと読みたいな、という気持ちです。(行きつ戻りつ、確認したくなる展開です。)
登場人物たちの未来が良いものであることを願わずにいられない。作者の方自身もこの人物たちを愛しているからこそ、ここまで繊細な心の描写ができるのではないかと感じました。
今朝一気に読み終えました。良い読書体験をありがとうございます!
ある夏の夜に風俗店で一人のボーイが殺された。容疑者は事件の直後に店から姿を消した風俗嬢4人と1人のボーイ。彼女たちの中で本当にボーイを殺したのか、そしてなぜ他の4人は真犯人をかばって失踪したのか。
本作で重要なのは誰が殺したのか、どうやって殺したのかといった部分ではない。何より注目すべきは事件に至るまでの主人公たちの心理である。
本作は群像劇形式になっておりスポットが当たる登場人物が順番に代わっていく。それぞれ性格が全然違うのに、揃って心に薄暗いものを抱え、しかもそれを隠すのが皆上手い。おかげで互いのことを思っているはずなのに思いは平気ですれ違い、真実はますます混迷の渦へ。
また、バックヤードでの何気ない会話、店に来る嫌な客、空間の匂いや汚れなどの細かい部分など、作品を構成する細かい部分の一つ一つにリアリティーがあり、作者の観察力と描写力の高さを感じられる。おかげでだいぶ生々しい内容になっているのだが、そこにスピード感のある文体が組み合わされることで、読み終わった時にはどこか爽やかささえ感じられるのだからものすごい作品だ。
(「夏の物語」4選/文=柿崎 憲)
人を殺すことが、悪ではないと思った物語は、読んだことがありませんでした。
それぞれに深い闇を抱え、その闇ゆえにこの店にたどり着いた女性たち。
彼女たちは、屈託なく、時に明るく。激しく泣き叫んだり、嘆き悲しんだりなどしないのです。
そんな感情表現は一切ないのに——淡々としているようにも見えるその会話、仕草、行動から、深い傷を受けながら人生を歩く彼女たちそれぞれの痛みが、深く深く抉り出されていく。
そのことに、読み手もまた言葉では表現することのできない強烈な感覚で心を揺さぶられていきます。
何を憎いと思うか。何を幸せだと思うのか。誤りとは、正しいとは。——それは、親から学ぶことでも、教科書や法律から学ぶことでもでもない。
生きることとは、結局は、自分自身の積み重ねた時間の中で経験し、心に刻んだことだけを頼りに、自分自身が探し、気づき、納得をすることの繰り返し——なのかもしれない。
何気なく眺めてきた現実が完全に覆されるような感覚と、目の前に広がる深い闇。その闇の中をぐちゃぐちゃと歩いた末に、濁りのない爽やかで幸せな読後感が胸に残る——そんな、たまらなく印象深い物語です。