act.5:大地揺るがす者
超古代竜邪巨神 ゴルザウルス
登場
グルァァァァァァァァァァッッ!!
ぬぅ、地面からその巨体を出す邪巨神。
その鎧に似た頭部の外骨格の、前に鋭くせり出したトサカに似た部分の付け根、額の水晶型器官を光らせ、竜種のような鋭い牙の口を開けて吠える。
「「「逃ぃげろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」」」
その邪巨神を背に、全力疾走する3つの人影。
「ふざっけんじゃねぇよぉぉぉぉ!!
オイラ達ただ地震計の交換してただけじゃんかぁぁぁぁ!!」
ひときわ背の小さい、褐色肌のとんがり耳───ドワーフらしき少女は、涙目で叫びながら走る。
「我らが何をした運命の神ぃぃぃ!!
雷に打たれて機能停止した方がマシなのだなぁぁぁぁぁ!!!」
猫耳らしきパーツを付けたオートマトンメイドが、ふしゃー、と猫のように吠えて必死な4足歩行で走る。
「もうやだぁぁぁぁぁぁ!!!
お家帰って干したてのお日様の匂いの布団にうずくまるのぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
同じく、こちらは犬耳のオートマトンメイドが華麗なフォームで全力疾走している。
彼女らは、ドワーフの方は一応地質学を修めた魔法博士のテトラ、
ネコミミの方は「
なんでこうなったかは叫び声の通りである。
グルルルァァァァァァァァァァッッ!!
そして、邪巨神は別に3人のことは気にしてはいないが、困ったことに逃げた方向が目的地のようで同じ方向へ進み始める。
「ギャァァァァァァァァァァ!?!
こっちくんなデカブツぅ!?!?!」
「ご主人んんんんんッッ!!!
右!右にパンツィア様のお家!!!」
「っしゃああ!!!逃げ込むぞ!!走れ!!!」
脱兎のごとくとはこの方向転換の速さ。
見えた森の家へ向かい一気に駆け抜け、鍵を壊す勢いでドアを開け中へ。
「ふぅー……!!地下室、いくぞ……!」
「ご主人よ、その前にちょっと離れるのだな」
「へ?」
息を切らして壊す呼吸を整えるテトラの横で、ジーベンの各関節や肩の排熱機構からぶしゅー、と蒸気が出る。
「熱ッ!?何すンだよ!!」
「だから離れろといったのだぞご主人〜」
「私ももう暑くて死にそう〜」
再びぶしゅー、とフィーアの排熱をくらい、熱ッ、と叫んで小さい身体を飛び上がせるテトラ。
「なンだよこのポンコツどもぉ!!!
オイラじゃなかったらとっくに解体してるぞ、んなぁ!?」
「ポンコツと知っていて引き取ったのはお前なのだなご主人〜!!」
「いつまでも感謝してるよご主人〜♪」
「分かったからじゃれんなや熱っつい!!」
まさに猫と犬を同時にじゃれつくのを抑える飼い主と言わんばかりの動きでなんとかテトラは2体を抑える。
「あっれぇ!?」
1分と経たず入った地下室の扉。
開いてみると、そこにあるはずの研究室はなく、さらに下へ下がる階段があった。
「っかっしいなぁ〜〜〜!!
あのジジイが一人暮らしになったからって模様替えするかぁ〜〜??」
「するわけないのだな。ケンズォ・ヘルムスなのだぞ?」
「うんうん。ケンズォ様は絶対そういうことしない!
ゴミ屋敷コース!」
「だよなぁ……」
そう言って、3人はコツコツと金属の階段を降りていき、薄暗い突き当たりに見えるドアを見つける。
「まぁ、上より安全だろ」
そう言ってドアを普通に開け、一瞬の光量の変化に目を細める。
「「「!?!」」」
直後、その目に映ったのは、
────巨大な『顔』だった。
***
「…………むにゅ…………ぅん……私はカモメ…………私はカモメ…………」
「起きて!!レアちゃん!!
レアちゃんは守護竜神様でしょ!!」
すやすや眠る、黒いボブカットの髪の上、全く正反対の白い羽毛の翼を生やす少女が、パチリと赤い瞳の目を輝かせて起きる。
「はっ!!
そうです!!私はドラゴンでした!!
がおー!!
…………うにゅ?」
ひとしきり可愛い動作をしたのち、ようやく目を覚ましたような顔になる。
キョロキョロと、コンソールと計器に囲まれた座席の中から辺りを見回し、ようやく斜め上にいる可愛らしい顔の少女へ視線を戻す。
「パンツィアちゃん!おはよーございます!」
「レアちゃん、お昼寝中悪いんだけど、ちょっとボンバーウィンガーを飛ばしてほしいんだ」
と、パンツィア渡された『冷え冷え炭酸レモネード』を飲み、しゃきーん、と言った目になるレアという少女。
「邪巨神と戦うのですねっ!!お任せです!!」
「ありがとう。家の近くなんだ、ちょっと例の計画にも支障が出る……!」
「なるほど……パンツィアちゃんも大変です?」
自然と伸びた腕がパンツィアの頭を撫で、撫でない!とパンツィアに払いのけられる。
が、くるりとツバメのような機動で再び舞い戻った手が、パンツィアの頭をまだよしこよしこと撫でる。
「…………」
「えへへへへへ……♪」
子供扱いはやめてほしいけど…………目の前にいるレアに比べたらそりゃあ、こちらは子供だけど…………
やりきれない気持ちを反芻しつつ、とりあえず平和的に離れたところで、「お願いします」と低いトーンで言って離れる。
「計器電源、オールクリアー。
リパルサースタート」
パンツィアは、計器に電源が入るなり即座に機体の
黄色い『超合金イエロー』カラーの機体が一瞬、くん、と浮き、そろそろと前へ進み始める。
「オーライ!オーライ!」
誘導灯を持つ、オートマトンメイド、ノインの指示通り滑走路へ機体が動いていく。
その背後から、ぬぅと同じような挙動で現れる巨大な黒い翼。
恐らく、この世界初の魔法式ジェットエンジン搭載爆撃機。
名前を、バスターウィンガー。
大型飛竜も目ではない怒涛のペイロードを持つ。
『メインエンジンスタート!』
『すたーと!』
全機の主動力であるジェットエンジンが唸りを上げ始める。
『リパルサー、出力上昇。
ジェットウィンガー、先行きます!!』
滑走路の上で、フワリと浮き上がる黄色いジェットウィンガー。
機種を上げた瞬間、
後に続いて、黒く巨大なロングソードのような身体のバスターウィンガーが同じくらい軽やかに飛び上がる。
控えめに言って、パンツィアはこの世界の航空開発史をかなり歪めていた。
飛竜という空の王者がおり、彼女の前は鳥の翼を模した航空機や、飛行魔法という原理解明もまだだった技術による低速化での飛行がメインだった。
────それを1000年以上は短くしてしまったのが、パンツィア・ヘルムスという魔法博士だった。
完全解明された反重力魔法。
蒸気機関を超え、魔力の力でより推進力を得たジェットエンジン。
正解を知っているが故の、完成された空力的に洗練された形状。
無論、そこまでを実現できる基盤魔法科学が思った以上に高いこの世界の特性もあるが、
それを差し引いても、竜騎兵を追い越す鋼鉄の翼は、
異常にして恐ろしい発明だったのだ。
『隊長、追い越されましたよ!?』
『かまわん!悔しいが、ラインでもウィンガーには叶うまい』
一瞬、こちらをどうする、と聞くかのように振り向いたラインを撫でてやり、竜騎兵用機械甲冑のバイザーの下でウィンガー達の作る飛行機雲を見てアイゼナはそう言う。
『…………だが、あのウィンガーに我々竜騎兵が取って代わられる時代は、
存外に、近いだろうな……』
そうして、遠巻きに飛行機雲を引く3つの翼をひたすら追いかけていった。
***
『だいぶ乗りやすくなったけどやっぱり酔うね〜、うぷ』
『ノーヘルで乗れてるだけ、十分すごいと思うわよくとぅ』
ほぼヘルメットの専用スーツに身を包む。パチェルカの乗るバスターウィンガーの複座に、ケンズォは座っていた。
理由は、パンツィアの後ろだとうるさいと言われ、レアには確実にセクハラ……いや必然的にセクハラするであろうから。
なお本人が嫌がったために頭に一撃食らって大人しくなったところを乗せられ、ついさっき目覚めたばかりである。
『さてと、そろそろ見えてきたかな、僕の家!』
そう言って、窓の外を覗くケンズォ。
グルァァァァァァァァァァッッ!!
家のすぐ近くまできたゴルザウルスは、すでにこちらが見えているのか威嚇するように吠える。
『おっかない顔だなぁ……!!
ちょっと愛嬌がある気もするけど……』
パンツィアは、そう言いながらも急降下。
十分な加速を得て正面腹部────生物の弱点としても一般的な場所へ狙いを定める。
『
詠唱で
機首から放たれた二筋の光魔法が、針のように邪巨神の胴体へ撃ち込まれ、火花を散らす。
『うそ……ニードルが効いてない!?』
派手な火花の割に邪巨神は一切動じておらず、傷も見えない体の横を通り過ぎて上昇する。
『二人とも気をつけて!!
こいつめちゃくちゃ硬い!!!』
『硬いってどの程度!?地竜の最高硬度さんぐらい!?』
『それ硬すぎです!?』
牽制にしかならない攻撃をしつつ、周囲を飛んで見守る。
『ふむ……アカーシャ〜、生物連にバスターウィンガーの映像データを送れるかな?』
『呼ばれて頼まれすぐ実行!』
と、背後で座っていたケンズォがそう複座のコンソールを操作しながら言う。
***
「映像データ!!有難い!!」
光学情報から得られるデータは多い。
生物研究室の自動詠唱機に送られた映像は、すぐさま光の屈折率や反射から硬度を割り出し、その形状から学者達は生物の骨格を把握して生態をある程度予想できる。
「奇妙な形ダ……どコデ地面を掘ッていル……??」
恐ろしい怪物の顔、獅子のような胴体の彼は、一応生物研究連の魔法博士であるキメラのレリック博士だ。
「僕も思った事です博士……モグラのような腕も、ワームに似た土を食う口形じゃない。
完全に直立していますが、形状や歯、目のつきかたは地竜のそれです」
「特徴は『旧支配者』……シかしオカシい……む?」
ふと、レリックの背中から生えるコウモリの翼手ににた部分が伸び、爪を画面に映る一点、
ゴルザウルスの、頭部の水晶体へ当てる。
「こコは……?」
その瞬間、見計らったかのようなタイミングで、画面の向こうのゴルザウルスは驚愕の動きを見せる。
***
グルルルァァァァァァァァァァッッッ!!
────キィィィィィィンッッッ!!!
突然だった。
「何……これ……!?」
耳鳴り……いや、空中にいるウィンガーごと、空気そのものが微細に、しかしとてつもない力で『振動』している。
『わ゛わ゛わ゛わ゛わ゛私゛の゛体゛が゛震゛え゛て゛食゛べ゛や゛す゛い゛柔゛ら゛か゛さ゛に゛ぃ゛〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?』
『な゛ぁ゛に゛ぃ゛こ゛ぉ゛れ゛ぇ゛〜〜〜〜!?!?』
スピーカーから聞こえる声が震える中、眼下のゴルザウルスがこちらを見る。
グルルルァァァァァァァァァァ!!!
咆哮と共に、額の水晶から放たれる光。
「!?」
咄嗟に避け、それでもパンツィアを狙って薙ぎ払うように振り回される。
その過程で近くの山に光が当たった瞬間、山が『溶ける』。
「えぇ!?!」
山が、土がまるで液体のように動き、地滑りを起こしていく。
山を支えていたはずの木々が粉砕され、一部は燃えて爆ぜる。
「な゛ん゛じ゛ゃ゛そ゛り゛ゃ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!?!?!」
大気ごと震えるこの現象。
これは、一体?
***
「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜……!!」
HALMIT錬金術学区画。
大勢の錬金術師たちがそれを観る中、一人なぜか音叉を叩きながらそんな声を上げるアンナリージュがいた。
「アンナリージュ学部長殿、どうしましたかそんなのを見て」
「これを見てそんなのとしか言えんから凡骨なんだ。
これ見ろ」
と、音叉をスピーカーの近づけた瞬間、キィィィィィィ、と音叉が揺れ始める。
「錬金術の基本だろ?物質の状態で固体言えばとは要するに『原子同士が強固にくっついている』状態でしかない。
氷にしろ鉄にしろ、通常は原子の運動エネルギー値が低いせいで粒同士は固まっているが、熱せられるかするとエネルギー値が高いほど原子の持つエネルギーが大きくなり、活発な運動をし形を保てなくなる。
エネルギーとは波だ。土なんかは固体の中でも粒が小さく、一見塊に見えても衝撃やその他のエネルギーを与えれば崩れる。
地質学なんていう言葉で語られるが要するに俺たちが物質を分解して再構築するのに使う現象も基本は同じだ」
「……というと?」
「バカか!?!
そんば物質の基本みたいな土砂にこんな音叉が震えるレベルの『超振動波』を当ててみろ!!!
液状化現象の一つや二つ起こるだろうが!?」
合点の言った顔に音叉を叩きつけ、倒れる錬金術師を放っておいて通信機を開く。
「おいパンツィア!!お前以外オレの頭脳が理解できんようだ、聞け!!」
***
「なるほど!!
ジョナスさん達好みの興味深い生態だ!!」
威嚇するように吠えるゴルザウルスに、そんな感想を漏らすパンツィア。
『というか硬過ぎじゃないのぉ!?こちらの火力が全く効いてないのだけどぉ!?』
バシュゥゥゥゥゥ!!!
『あー、こちら生物研究区画のジョナスだが、
単純に考えて超振動波を放つような生物が自らの超振動波に耐えるべく身体が頑丈に進化していったと考えてもおかしい所はないかな』
「ジョナスさん、出来れば目とか口を狙え以外でいい対策ありますか?」
『すまない。それを今提案しようとしたんだ』
だめだこりゃ、と二度目の超振動波を避ける。
「一応この機体は超合金製だけど……」
『あー、製作者が言うけどね?
分子配列が防御魔法陣みたいな呪いまで守れる信じられない頑丈さと耐久性の超合金でも、超振動波は完璧に防げないかな〜?
単純なエネルギーだからね、減衰させるには質量っていう抗エネルギーがなきゃね』
「やっぱりかぁ!!
機体は無事でも、中の電装から私まで一瞬でシェイクされちゃうよね!!」
『いっそそういう中身も超合金にしよー!!』
「レアちゃんナイスアイデア。
今できないってこと以外は」
再びやってくる超振動波を回避して、嫌な顔でゴルザウルスを見るパンツィア。
「どうしようかな…………?」
『───よし!今こそアレの出番だね!!』
と、遠くでキャノピーを開けて外に出るロクデナシが一人。
「ちょ、おじいちゃーん!?!」
『先に家に戻って用意するよ!!
ジェットウィンガー壊しちゃダメだよー!』
ぴょーん、と高いところから身一つで落ちるケンズォが見える。
『何やっているのぉ!?!?』
「おじいちゃん、まさか……!」
***
「な……なんだこりゃあ……!?!」
テトラ達が、目の前の異様な光景に驚くそこへ、カツンカツンと響く足音。
「───あら、珍しい方々がこんなところに」
「「
すこしミステリアスさを感じる微笑みの美人なオートマトンメイド───ケンズォに仕えるドライが、3人の前にやってくる。
「一応、秘密の場所なのですが……上が騒がしいからまぁ、ご主人様も許してくれますかしら?」
「というか、このデカイ顔なんだよ!?
あの女神様の巨神戦鎧の像かよ!?
いや、像なら石で作っけどよぉ、これは……!!」
黄色い塗装は、うっすら光沢を放っている。
巨大な人型のソレは、あまたのケーブルや固定機械で繋がれていた。
「ええ、テトラ様。これは全部超合金スーパーオリハルコン製。それも動きます」
「それってつまり!」
「馬鹿でかいオートマトンとな!?」
「いえ?
厳密に言えば違います。
なにせ……パンツィア様のいわゆる『前世』の概念で作られておりますので」
その巨大ななにかを、ドライはこう言い表した。
「こちら、我が主人ケンズォ・ヘルムスが生み出した、世界初の
名前を『ブレイガー
***
[Ver.2]ブレイガーO -異世界で作られたスーパーロボット- 来賀 玲 @Gojulas_modoki
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