act.4:邪巨神の研究

 超細胞再生獣邪巨神 ザンダラ

 超弩級大型邪巨神 イワサイガミ

 石化魔眼蛇型邪巨神 メタデューサ

 超ミサイル邪巨神 ガンクロン

 反射結晶体邪巨神 プリズマエル


 超古代竜邪巨神 ゴルザウルス


              登場













「ふぅ〜〜………………」



 セリーザの吐き出す煙が、暖かい春の訪れの日差しの青空へ漂う。


 そんなのどかな空に、一瞬映る影。



 ━━━キュワァァ!!


 バサバサとコウモリに似た翼を羽ばたかせ、脚の生体ジェット噴射穴を地表へ向けて速度を下げ、地面へと降りる専用鎧カタクラフトを装備した飛竜が4体。


「━━━ふぅ」


 一体の白い竜から降り立った竜騎兵が兜を外し、長い金髪を頭の両端で二つに結んだ髪と綺麗に整った顔を見せる。


 と、その白磁のように美しい白い肌に、隣に立っている白い飛竜が舌を這わせて舐める。


「こら、ライン!もう甘える歳でもないだろう、お前は?」


 と、ラインという白い飛竜をたしなめつつも、優しく下顎を撫でる彼女。

 ラインもそれで満足したのか目を細めてクルクル喉を鳴らす。


「姫様!鎧は置いていきますか?」


 と、隣で赤い竜から降りた、金髪の彼女より頭一つ分高い背の癖っ毛気味な緑髪ストレートの女性がそう言って近づく。


「……ピナリア、仮にも軍属であるならば、国賓の諸外国の要人に会うのに戦場の格好をするのがいいと思うか?」


 プシュ、と姫様と言われた彼女が肩に手を回してボタンを押した瞬間、プレートアーマーの背中側が音を立てて開き、その体より外れる。


「衛兵でもないのだ、鎧ではなくインナーが正装となる。

 武器は持つが、決して隠すような位置ではなく、胸の脇か腰に。

 これが正しい軍属の簡易の格好だろう?」


 そう言って、全身の鎧を外し、隣のラインの近くへすべて折りたたみ、まるでアタッシュケースのような形にした上で鎧にくくりつける。




「だから、全員鎧は外せ。

 下手な姿を見せるわけにはいかない」




 ━━━━たゆん


 振り向いた彼女のその胸は、実に豊満であった。

 チューブトップ式の白と赤のインナーから今にもこぼれ落ちそうなほどに。


「おぉ〜〜……やっぱり姫様のは大きさも張りも形も違いますなぁ〜♪」


 一人、背の低い栗毛でショートヘアーの同じ格好の少女が、そう言ってその二つのふくらみを揉む。


「ヒルダ……私だから良いものの、間違っても他国の要人の前でそんなことをしないように。

 他国の姫相手ならその場で切り捨てられるぞ?」


「ちぇー、分かりましたでありますアイゼナ・ブレイディア王女殿下!」


 ビシリと敬礼して背を正して言うヒルダに━━━ブレイディア王国第一王女兼竜騎兵隊連隊長のアイゼナは、ただいつも通りじとりとした視線を送るだけだった。


「貴女、絶対反省していませんわよね?」


 ヒルダと呼ばれた彼女をたしなめる、金髪碧眼にやや癖っ毛のストレートの美少女。


「そりゃあ……おっぱい分足りないしね〜♪揉ませろリリウム〜〜♪」


「きゃあ!?」


 と、今度はそのリリウムという美少女の中々形のいい胸に摑みかかるヒルダ。

 いつも通りの光景だった。


「まったく、これで竜騎兵の最精鋭とはな……父上に胸を張って言えないのが惜しいなピナリア」


 ふと、呆れ顔でさっきの長身な女性に話しかけるアイゼナだったが、返事がなく視線をそちらへ向けた。


 ……副官のピナリアは、静かに自分の慎ましやかな膨らみを両手で抑えていた。




「「「ごめんなさい」」」




 瞬間、3人は示し合わせたように揃って土下座し謝る。


「やめてくれぇっ!!

 特に何も言わないで謝られるほど惨めなものはない!!

 姫様もなぜそこまで深々と!?!」


「謝らなければいけない事だ。

 パンツィア相手でもそうする」


「ぐっ……比較対象がえげつなさすぎる……!!」





「そもそも比較しないでよおぉ!!


 私は仮にも遺伝子疾患なんだよぉ!?!」




 と、驚くほどすっとパンツィアがやってきて泣きながら叫ぶ。

 いつのまに……と4人は驚きの表情のままポカンとしてしまう。


「うっ、うっ…………きっとピナリアさんは成長するよ……私より2つ年下なんだし……うん……」


 ぐいー、と背伸びして手を肩に置くパンツィアを見て、ピナリアはなんだか申し訳ないやら、背の分前に伸びれば、やら、パンツィアへすまないと思うやら、なんとも言えない気持ちになる。


「それと謝らないでよバインバイン竜騎兵どもぉ!!

 逆に辛いわ!!むしろ笑ってぇ!!

 いっそ笑ってよぉ……!!」


 ……なお、さっき胸の話題にした一番背の低い(155cm)のヒルダですら綺麗な丸い膨らみでチューブトップがはち切れそうなのだった。

 いたたまれない、空気がそこを支配したのだった。





「実際、背とかじゃなくってさー?

 パンツィアせんせーは、可愛い方だからロリコンじゃあなくっても放っておかないって」


「げ、元気を出してくださいまし?

 パンツィア様は、公爵の地位と博識をもつ素晴らしい方じゃあないですか!」


「ほら、実際パンツィア殿の航空力学は、我々竜騎兵近代化戦闘のノウハウに役立っているではないですか!」


「…………まぁ、そのアレだ…………

 幼馴染の私が言うが、お前は充分魅力ある人間なんだ、元気を出せ」


「うん……アイゼナちゃんありがと……」


 とぼとぼ歩くパンツィアは、正直ちょっと抱きしめたいほど可愛い姿だったが、全員逆効果なのはわかってやらなかった。

 それにしても、170後半代の長身のアイゼナに慰められるその姿は、まるで姉妹のようである。


 その実、パンツィアの方が一つ上なのだが……それは黙っておくのが吉。


「で、父上と来賓の皆は中に?」


「うん……これから、私達魔法博士交えて戦況の分析と今後の方針を4ヶ国のトップと交えてやるって」


「急にお父様に呼び出された理由はこれか。

 3人は少し離れていてくれ」


「「「了解」」」


 と、建物の中で先に離れたパンツィアとピナリア達3人の一歩前へ行き、アイゼナはビシリと敬礼をする。


「アイゼナ・ブレイディア、ただ今到着しました!」


「来たか」


 最初に椅子から振り向いたクレドの言葉に、少しだけ口の端を曲げて答えるアイゼナ。


「例のガイラスの破片の輸送途中で、急に呼び出されたもので冷や汗をかきましたよ。

 お陰で、帰還速度の記録更新です」


「迷惑をかけたな。

 それで申し訳ないのだが、こちらの各国の皆様方にも戦況を簡単に説明してほしい」


「承知いたしました、陛下。

 では、少し準備させてください」


 と、各国の代表の皆が座るにはいささか安いが、現状これしかないパイプ椅子の並ぶ右手側、パンツィアの小さな体と、その頭から鳥の羽根に似たものを生やす、東方の格好に身を包んだ男性の方角へまず行く。


「パンツィア、シドーマル殿」


「ん」


「準備はいいぜ、姫殿下様!いつもの周波数だ」


 恐らく別の魔術式プログラムの調整中のパンツィアが指でマルを作り、シドーマルと言われた東方風の男がそう答える。


「よろしい。映像を移す」


 軽い無詠唱魔法を展開しつつ指を鳴らすと、何もない空間に立体映像が浮かぶ。


「ほう……!」


 それは、鮮明な少し前にあった対邪巨神作戦の戦略地図だった。


「手身近に説明させていただきます。


 本日早朝06:14


 敵邪巨神2体、コードネーム「ザンダラ」「ガイラス」それぞれ赤毛と銀毛の不細工供を相手に、我が軍の陸空の両面からの攻撃および、新型兵器による撃滅作戦である『L作戦』が発動。


 赤毛のブサイクことザンダラは口惜しくも逃しましたが、銀毛の方、ガイラスを、HALMITの協力で作られた新型雷属性魔砲兵器、『メーザー』により黒焦げの残骸へ変えてやりました」


 説明と同時に指を動かしたアイゼナの前に、ザンダラの写真やメーザーの青写真が写り説明を分かりやすくしてくれていた。


「ほう、しかし一体撃破とは……

 我々魔王軍ですら手こずったと言うのにな」


「いえ、ネリス陛下。我々の相手にしたザンダラ、ガイラスは、こと厄介なまでの細胞再生力こそ今大陸に現れている邪巨神のなかでは、はっきり言って雑魚とも言えるものです。

 それでありながら、一体逃してしまったのは、ひとえに我々の実力不足です」


 ふと、パンツィアとシドーマルの方へ指で指示を送ると、パンツィアが端末を操作して、ある情報を空中へスワイプして飛ばしアイゼナがそれをキャッチし展開する。


「これが、魔王諸国連合で現在襲いかかる、200mの全長と鋼鉄のような体表を持つ、コードネーム「イワサイガミ」のような相手や、」


 魔王諸国連合に存在する街の建物を比較して、その巨大さを知らしめすよう立ち尽くす直立した地竜のような怪物の映像を後ろへずらし、


「聖マルティナ連邦を襲う、あらゆるエネルギーを吸収して攻撃に転換する邪巨神である『プリズマエル』には、あまり効果はないでしょう」


 寒空に浮かぶ巨大な雪の結晶の中心に赤い球体を持つ邪巨神、プリズマエルの映像を写し言う。


「やはりと言うべきですか、此度も邪巨神は一貫性のない怪物の集団です。

 トレイルで先日現れ今もその目から放つ石化光線のせいで下手に手出しができず移動中の個体「メタデューサ」も、現在対応できる兵器がここHALMITでも作れないと結論づけております。


 で合っているな、パンツィア?」


「はい。

 なにせ、どれもこれも巨大で通常兵器を寄せ付けない戦闘力や特異能力以外はなんの共通点もない異常な生物群です。

 何を使って殺すべきか、それぞれに対応して考える必要があり、」


「現実にある我々の戦力をどう投入していいか分からない、ということですかなパンツィア・ヘルムス魔法博士殿?」


「はい、教皇様。

 もしも全部いっぺんに対応するとなると、それでこそ現場に一度にBC兵器、魔法兵器、禁呪兵装、通常兵装、その他諸々全部持っていく必要があります。

 これを一度に使用する時点で、何が大変かはお分かりのはずですね?」


「うむ。BC兵器は持ち運ぶのも後処理も面倒、そもそも効くのか分からん。つーか、あのイワサイガミとか言うデカすぎ邪巨神に何千ガロンの毒盛れば死ぬのか?


 そもそもそんな量の毒などやれば、我ら魔族の大地は、かの人間至上主義どもの帝国である『鉄血』の首都があった場所のようのなるであろうに」


「ネリス、普通に火砲を大量に、あるいは大口径のものを貫通弾頭で集めるじゃダメ?

 その上で私たちが出れば……」


「お前も、1400年生きていれば知っているだろう?

 邪巨神はその大きさ通りとてつもなくタフで、そのくせ素早い。

 だから、我ら魔族の王、個として最強の生物である魔王でも、勝てない!」


「全盛期の私より弱いじゃあない?」


「そこの脳筋女神!!弱ってるから優しくしてあげてるのだからな!!茶化さない!!」


 はいはい、と片手を振って近くのウィンガーのエンジンを見ながらレポートを書く作業に戻るデウシアを睨みつつ、くるりと視線を戻すネリス。


「しかし、実際タニアの意見も王道よな。


 ただこれを実行するには、要塞を我々並みの速度で動かしながら戦う必要も出てくるがな。


 一番近いのは、我々がこの条約を結ぶまで密かーに作っていた…………悔しくもそこパンツィア・ヘルムスの発明でようやく完成した…………余の『大空戦艦』ぐらいしかあるまい」


「随分と思い切ったことを……まだ魔族の方々は大陸制覇を諦められず?」


「人間も似たようなものだろう、ブレイディア王よ。

 それにちゃんと種明かしから何からしたんだからこれでチャラ!

 それに、そっちのHALMITなどと言う大規模な『個人研究機関』も伏魔殿なのは変わらないだろう?」


 と、言われて、ネリスとクレドの視線にさらされるパンツィアは、肩すくめるしかない。


「伏魔殿と言えば、

 私達のこと信仰してない何処かの国も結構軍拡してたわよねぇ?」


「おや、そこら辺も含めてもう条約で実際の軍備も開示したはずでしたがな。

 あまり人間の老人をいじめないでくださいませぬか……天の届かない位置から色々ご覧になれる神々の方に及ぶような力はありませんですから」


 気がつけば、教皇タラニアと女神フィーリアがそんな会話をし、一筋縄ではいかない国家の関係を表したような雰囲気が出る。




「……うわー、纏まってんだかなんだか分からないわよねぇ、パンツィア?」


「ですねぇ……何が辛いって、私片棒担いでるんですよねぇ……胃が痛くなってきた」


 と、気がつけば寄ってきたデウシアとパンツィアは小声で会話を始める」


「……ねぇねぇ、いっそ僕らの『秘密のプロジェクト』も開示しちゃう……?」


「バッカ、おじいちゃん……!

 まだ完成もしてないじゃん……!」


 と、逆側から寄ってきたケンズォの言葉に、そうやや語気を強めて言うパンツィア。


「あ、そっか言ってなかったっけ……!

 出来たよ、『例のアレ』完成……!」


「「「えっ!?!」」」


 と、背後で静かに聴いていたシドーマル含めつい大声が出てしまい、他の皆の視線が集まる。


「どうしたパンツィア?」


「ああ、それはキャァァウッ!?」


「いやちょっとうちのお爺ちゃんの『大したことない研究』の話!!気にしないでアイゼナちゃん!」


「色々酷い……ゲフッ」


 見事な金的で黙らせたケンズォが地面へ沈む中、身振り手振りで何もないと慌てて言うパンツィア。


 ……男性陣が内股になる上に、他の皆も「いや絶対何かある」と確信した視線でパンツィアを見ていた。


「……そんなことより話を戻しましょうか!

 実はー、邪巨神に関してもう一つ情報がありまして!」


 と、明らかな誤魔化の言葉と咳払いを経て、パンツィアはこう言う。


「アカーシャ!」


《呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!!》


 と、突然立体映像の中に、あちこちに球体関節を持った自動人形オートマトンのようなパンツィアぐらい小さな女の子が現れた。


「!?」


《はぁい、疑問符いっぱいの皆さんに自己紹介〜♪


 そう、私こそ!

 HALMIT内、超速演算自動詠唱機スーパーコンピュータ管制用オートインテリジェンスアーティフィシャルスピリット、って長いかー!!


 要するに、このHALMIT全ての情報も未来も教えてくれるすごい人工精霊AIASの『アカシック・レコード』ことアカーシャだよっ☆


 各国のみんなー!会えて嬉しいよー!》


「アカーシャ、テンション高すぎ」


 と、驚く中そう自己紹介しながら飛び跳ねる立体映像の少女は、パンツィアの言葉に 《ごめーんっ☆》 と反省しているのかよく分からないあざとい仕草で答える。


「オート……何?」


「AIAS

 Aute-Intelligence Artificial Spirit

 自動詠唱機には欠かせない、オペレーティングシステムの発展版。


 言ってしまえば、我々HALMITの知恵袋から必要な事を何でも教えてくれる人工精霊ちゃんです」


《知りたい事なんでも教えてあげよ〜!(※HALMITの情報の中限定で)》


 それは、大丈夫なのかと疑うには十分な仕草と言葉だった。


「……じゃあ、アカーシャ、例のデータを」


《はいダメー!

 検索ワードはちゃんとした意味の言葉で言おうねっ!

 例のアレ、とかいつもの、は熟年夫婦以外使っちゃダメ!》


「それもそうか。


 じゃあアカーシャ、改めて、記録されている限り過去現在までの邪巨神の出現地点を大陸全土の地図に表示して?」


《おっけー!》


 と、あざといポーズと共に立体映像で地図が表示され、過去現れた数々の邪巨神達の顔写真と名前付きの赤い点が散りばめられていく。

 当然、最新の5体分も含めて。


「次に、撃滅されるまでの進んだルートを表示」


《はいはい、かしこまっ!》


 その赤い点をはじめとして赤いラインを地図に引いていき、縦横無尽な進撃ルートを表示していく。


「なんとまぁ、一貫性のないルートばかりであるなぁ。

 険しすぎる霊峰の数々を越えるやつからわざわざかつての魔王軍本拠地に突っ込む奴まで」


「奴らに目的を考える脳なんてあるのかどうか……」


「……ん?」


 ふと、武闘派魔王らしい意見を言うタニアとネリスの横で、訝しむような顔になるクレド。


「どうかしましたかな、クレド王?」


「いえ教皇……何故だか知りませんが……この動き…………うーむ、あまりにも気がしてならなくて……」


「いつも?」


「…………そういえば私もなんだかずっと見ていたような線ねこれ……なんだったかしら……??」


 とうとう、フェイリアもそんな事を言いはじめる。


「流石は陛下に女神フェイリア様、気づきましたか」


「「気づく?」」


「種明かしと行きましょうか。


 アカーシャ、地図を平面から地球儀に変更!」


《おっけ☆》


 瞬間、立体映像の地図が平面から地球儀の球体へと変わっていく。


 すると……」


「「「「ああっ!?!」」」」


 全員が驚く中、映し出された全ての邪巨神のルートが、


 一直線の移動進路となる。


「そうか……渡り鳥の飛行ルート!」


「後私たち神の住んでいる浮遊大陸の回遊ルート……!

 なんでジグザグに地図だと飛んでるの、って聞いた時の理由と同じ……!」


「我々は、地球儀をいつも持ち歩きませんし、つい大地は平らだと思いがちですが、実際は星は巨大な球で、曲面を認知するのには多大な距離を必要とするから気づかない。


 1000年前には魔法博士達が見つけた理屈です」


「そうか……となると、まさか彼らは……!」


「じゃあまず次の情報を。

 アカーシャ、邪巨神の『タイプG.O.』以外の『予測進路』を出して」


《ほいほい、ほいっと!》


 アカーシャの動作と共に、何かの分類の為に青色にされた邪巨神群を抜いた全ての邪巨神の線が伸びていき、ある一点で収束する。


「次に、タイプG.O.の過去進路を表示!」


《アイアイ、まーむ!》


 最後に、青い線の邪巨神達の予測過去進路が引かれていき━━━━






「重なった……!」




 やはり、赤い進路の邪巨神と同じ目的地にたどり着く。


「一体、その場所は?」


髑髏大地スカルグラウンドです」


 フォン、と映像でピックアップされた点に浮かぶその場所の名前に、皆息を飲む。


「あの……嵐に阻まれた謎の大地……!?」


「冒険者ギルドがまだあった時代より、この世界の、少なくとも大陸の中にある大地全ては冒険者によって制覇され、もはや残るは海の向こうの未開の大陸か、シンのある大地のみのこの時代、


 唯一、大陸の中に残った秘境。


 誰もたどり着けず、行ったものは戻ってこない……あの……!?」


「どういうわけか彼らの進路は、そのほぼ全てがこの大地を目指しています。


 そして、そうではない物は、どういうわけか此処からやってきているんです」


「そこから……やってくる?」


「ええ……実はこれはまだ要検証な話なのですが、」


 と、


《あ、パンツィアちゃん!生物研究連からお電話!》


 アカーシャがそんな報告を突然する。


「生物……まさかジョナスさん?」


《そう!なんだかすっごく急いでるみたい》


「ちょうど良いか……


 皆さん、今から邪巨神研究の最先端にいる魔法博士の話を聞きます。

 ちょっとお付き合いください」


 と、映像通信を起動させた瞬間、





『繋がったッ!!


 パンツィア君、大発見だ!!


 やはり、今回の4体の邪巨神のDNAも同じだ!!!』




 と、突然優しそうな顔と屈強な身体を持つ手術着の男性が、顔をアップに見れるほどカメラに近い位置で叫ぶ。


「ジョナスさん、落ち着いて!!

 後陛下その他国賓の皆様の御前!!」


『何ッ!?


 あ……これは失礼を皆様!!』


 と、ハッとなった顔で一歩下がる青年魔法博士であるジョナス。


 改めて、周りの棚やテーブルの高さと比べて見ると、とても背が高い。

 それでいて、手術用の衣服を内側から破ってしまいそうな屈強な筋肉で身を包んでいる。

 まるでオークのようだが、彼はまぎれもない人間だった。


「君が興奮するとはよほどの事かな?

 ジョナス魔法博士。

 いや、『未確認生物ハンター』のジョナス・ジョバンニと言うべきかな?」


『いやぁ、お見苦しいところをクレド陛下。

 自分でも、相当な発見と自負しております……


 アカーシャ、早速で悪いが君の計算した邪巨神の遺伝子データを、3D映像で皆さんに見せてくれ!』


《はーい☆》


 と、軽やかな返事とともに映像は切り替わり、宙に浮く二重螺旋の画像が出てくる。


『我々、生物学者が遺伝子という概念に気づいたのは、既に100年前からです。

 我らが副学長シャーカ魔法博士の作り出した自動詠唱機コンピュータの登場によって、手作業や目を使った遺伝子解析は過去のものになりました。

 今では、あらゆる生物のDNAの差異は解析でき、それは当然邪巨神の物も過去現在全ての解析を終えてます。


 アカーシャ、このムダヴォアのDNAデータの横に、回収されたプリズマエルの物を並べてくれ』


《おおせのままーに!》


 と、似た二重螺旋構造の物が隣に映し出される。


『皆さんから見て左が、100年前現れた放射線を辺りにまき散らしたトカゲ型邪巨神『ムダヴォア』の物です。

 そして隣が、マルティナ連邦を襲ったプリズマエルの破片を解析した物』


「おい、人間!データが間違っているぞ、DNAではないか!」


 と、ネリスが声を上げる。


「ちょっと、適当なこと言わないでよネリス!失礼だよ?」


「いや、あいにく余は速読が得意でな。

 この二つが全く同じなのは分かる。

 ほれ、2重螺旋を繋ぐ塩基の色の並び方のパターンが両方とも同じではないか!」


『そこに気づくとは……いやはや流石です、雷竜魔王陛下。

 そして、私が言いたかったことはそこなのです!』


 何、と一瞬怪訝けげんな顔を見せるネリス。


『この二つは、間違いなく両者とも別の邪巨神から取ったサンプルデータです。


 しかし……アカーシャ、二つのDNAデータを重ねてくれ』


 ほいっと、と言うアカーシャの声とともにDNAの3Dデータが合わさる。


 ━━━当然のように完全一致する。


『雷竜魔王陛下のご慧眼の通り、


 この2者はDNA


 差異を探しても、僅か0.06%かそれ以下。


 染色体の数も同じ…………つまりは』


、だと!?」


『いや、これは最早と言って過言はないッ!!

 それほどまでの一致!!にも関わらず、全く形態が違う!!』


 さらに、とアカーシャにこう指示を出すジョナス。


『アカーシャ 、タイプG.O.以外の邪巨神のDNAの3Dデータを表示し、全てを重ねてくれ!』


《ちょっぴり酷使だぞー?了解!》


 と、アカーシャの手によって次々と邪巨神のDNAデータが3Dの図で現れ、重ねられていく。


「……おい、まてもしかして……!」


 超高速で重ねられていったそれらのDNA、


 記録の写真では、サメのような物から爬虫類、鳥類、哺乳類、甲殻類…………どう見ても同じ生物ではない邪巨神達のDNA。






 それら、全てが完全一致する。





「どういうことだ、これは……!?」


「なんで完全一致するんだ……!?」


『それぞれの誤差が最早兄弟や姉妹程度です。

 明らかに、生物の摂理も常識も通じないほど、それでいて何か意図でもあるかのような……!』


「意図?意図とはなんだ?」


 と、クレドの質問に深刻な顔と冷や汗を浮かべ、ジョナスはこう答える。





です。


 あくまで私見ですが』




 それは、中々衝撃的な意見だった。


「いや、それは正確ではないぞ」


 しかしネリスがそう言う。


「同一素体の血から、ここまで多種多様になるよう、『作った』のだ、これらは。


 つまり、『完全複製生物クローン』ではない。


 錬金術で言う、『改造複製生物ホムンクルス


 そう呼ぶのが妥当であろう」



 ホムンクルス。


 元は、複製人間を作る過程で、完璧な生物の複写ができないが故に、『別の生物の遺伝子』を混ぜた事に起因する人造生命体の総称。


 かつては生物兵器としてかなり猛威を振るっていた。


 しかし、100年前に締結した『大陸陸戦条約』により、毒ガスと黄金錬成兵器と並びほぼ禁止となっているため、一部の特例を除き研究はもうされていない。



「だが、だとすればあまりにも高度な……!

 わずかな差異の遺伝子の違いでこれほどまでの差異……!

 医療錬金術において最先端の我が国でも、詳しくは私に知識はないが、300年は不可能な……!」


 かつては、聖霊に決して愛されぬが故に使い捨ててもいい、と言う理念の元『安い命』として大いにホムンクルスを軍事利用していた連邦の代表として、タラニアはそう言葉を紡ぐ。


『ええ、教皇陛下。

 それだけの技術であるからこそ、もう一つの疑問も出てくるんですよ』


「もう一つの……?」


『その非効率さですよ〜。

 というかここの筋肉博士くんの突飛な発想を間に受けちゃうんですか〜??』


 と、いつの間にかひょいっ、と現れる、スリングショットと言ういつ大事なところがはみ出るかわからない格好でその豊かな胸を強調する一人の魔族、


 それも、ツノに先端がハートの尻尾とコウモリの翼───サキュバスだ。


 何が恐ろしいと言えば、派手でブレイディアでもかなりの露出度を誇る服の上に着るは、医療従事者かつ医師免許を持つ者のみに許される『白衣』だった。


「あれ、ビュティビュティさん!」


『はろー、パンツィアちゃん♪

 今日も可愛い姿にメロメロですよ〜♡』


 と、そのサキュバス医師──ビュティビュティはパンツィアを見るなり投げキッスをする。


 種族的にやっぱり年端もいかない容姿のものが好きなのか?



「あんなのにも医師免許が取れるのか」


『こんなのでも、医療従事者としてもう200年ですぅ!

 免許が出た頃取ってから毎回ちゃんと学会に出てますしねー!』


「ビュティビュティさんはこれでも、感染症対策医師としても優秀なんです」


『ハイ紹介ありがとうございまーす!

 で、今の紹介でお察ししてくれる優秀な人は分かるかもしれませんが、あ分からないほともいますか!


 じゃあ言ってあげますけど、そもそも邪巨神全部クローンだとして、なんでそんな技術あるのにあんなモノしか送ってこないんです?って話でして』


 やや、態度に難はある物言いだが、そう言われればと納得する言葉だった。


「たしかに、それだけの技術があるならば……」


『私なら、致死率が高くで感染力の強い、我々のいる場所では血清もワクチンも作れないような細菌かウィルスを作りますね。

 あんな巨大な恐怖をわざわざ作るなら、もっと小さくどう猛なものを送った方がいい。


 100年前、あの鉄血と戦った時も、

 砲弾や魔法なんかより、呪いすら生温く感じる破傷風やその他感染合併症の方が恐ろしかった。


 ああ、皆さん兵士は数でしか数えてないんでしたっけ?そりゃごめんなさ────』


『ビュティビュティ先生!私怨はそこまでだ!!』


 と、舌打ちするビュティビュティを押しのけて再びジョナスが再び画面に映る。


『いや失礼を。ただ、彼女の言うこともごもっともです。

 我々は、前大戦での紳士的な条約の元行動しているが、』


『どーだか怪しいものですけどね』


『静かに!

 ともかく、こんな物を送ってくる相手です。

 いや、相手と断定するには情報不足ですが……』


「つまり、邪巨神という人為的に何か手を加えられている生物を送れる相手が、なぜもっと有効な手段を取らないのか分からない、と?」


『ええ。私は軍事も政治も専門外ですが、それでもこの事実がおかしい事は分かります』


『あー、そういえば例のデータ出たので童貞君をバカにしない優しい私は持ってきてあげましたよー』


『何!?出たのか……見せてくれ。

 アカーシャ、データを写してくれ!!

 邪巨神の『共生菌』と『付着菌』の遺伝子データだ』


《はいはい……ちょっとまってねっ☆》


 と手渡されたメモリースティックを手元の自動詠唱機に刺す映像の中、ほうとクレドはうなづく。


「どう言う事ですかなクレド殿?」


「生物は、実に多くの細菌と共に生きているのは忘れがちな事実です。

 当然邪巨神といえど、腸内細菌や体表に付着した菌があるはずです」


「邪巨神のお尻の中の物を調べてどうする?」


『あらあら、さっすが一番自国の下っ端の命とか衛生環境にかける費用が安い国は言うこと違いますねぇ!!

 そのお尻の中のアレが我々に優しい菌ばかりとでも!?』


『…………結論から言うと優しい菌だが、君はこの結果を見たのか?』


『はい?

 …………はぁ!?!』


 と、皮肉たっぷりの態度から一変、メガネまでかけてどうもカメラ近くのデータを凝視して突然そんな声を上げるビュティビュティ。


『皆さん、これを見てください』


 手元を操作して、こちらの立体映像に映る新たなDNA映像。


 吹き出しの中には『腸内細菌』の図。


 ────当然のように、邪巨神のDNAと一致する。




「ここまで来ると笑えんな」


「余、あのドスケベ生意気医者は嫌いだし、そっちの筋肉学者の説に1票」


「それはそれとして、難しい話抜きに気持ち悪い結果……」


「…………つまり相手は、何らかの意思を持って彼らを送ってきていると言うわけね……」


 クレド以下、皆難しい顔になりそれを見つめる。


『……ありえないんですけどぉ…………はぁ??』


『いっそサルファ剤でも死ぬ細菌と邪巨神のDNAまで一緒とは……邪巨神もサルファで死んでくれればいいのだが』


「こんな結果になるなんて…………!!

 タイプG.O.の方がまだわかりやすいだなんて……!!」


「まて、ちっこいの!!

 さっきから気になっていたが、この遺伝子が一致している以外の青い点の邪巨神、それはなんだ?」


 と、パンツィアのつぶやきに反応したネリスが尋ねる。


「ああ、これは……ジョナスさんお願い!」


『いいとも、そっちの方が僕の専門分野だ!』


 と、説明しようとした時だった。


《あ、ごめん!今度はテトラちゃんから緊急通信!》


 タイミングよく、アカーシャがそんなことを言う


「え?テトラちゃんが?」


《うん!

 『例えパンツィアが今王様と謁見中だろうと問答無用で繋げ!』だって》


「ただ事じゃあないね……繋いで!」


 一応、『友人』のただ事ではない言い方に、パンツィアは答えることにした。


《映像通信だね、出るよ!》


 瞬間、





 ────ズガァァァァァン!!!!


 爆発する大地、そして現れる、巨大な光る眼。



 ────グギャァァァ……グォォォォン!!




 どう猛な牙の光る口を開け、直立する竜のような怪物が映し出される。


『『『『なっ……!!』』』』


 全員が驚く中、カメラが揺れ動き、大きなアップで褐色肌のドワーフの少女の顔が映る。



『パンツィアぁぁぁぁぁッッ!!!

 邪巨神が出てきたぞぉぉぉぉ!!!!!

 あのケンズォ爺さん家のめっちゃ近くでぇぇぇぇ!!』


 画面は乱暴に振れ、今度は2体のオートマトンメイドが情けない顔をして映る。


『助けるのだなぁ、大至急─────ッッ!!』


『死にたくないよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』




 その背後で、あの怪物の暴れた証の土砂が宙を舞い、そして通信が切れる。


《映像途絶えたよ!

 最後の信号を逆探知……


 カティーナの森南南西!!》


「嘘だろ!?ボクん家じゃん!!!


 今『カーペルト君』いるんだぞ!?!」


「父上が!?」

「お爺様が!?」


 信じられない、クレドとアイゼナが驚く中、パンツィアは意を決して言う。



「行かなきゃ……!

 カーペルトさんと、も守らないと……!!」




          ***

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