第44話 品質改善レポート

 茨姫を探すと、茨姫も女神像の前に転移してきていた。

「これ、まさか、制限時間内に倒せなくて失敗したのか?」


 茨姫が表情を曇らせて語る。

「わかりません。制限時間内に倒せない場合はマンサーナ島の女神像の前に飛ばされます。でも、ここは、セレーツア島です」


「なら、俺たちはネフェリウスの最後の攻撃に巻き込まれて死んだのか?」

 茨姫はしょんぼりした顔で推測する。


「あの状況からして、可能性は高いですね」

「もう、何だよ。最終段階まで行ったのに、最後の最後で失敗か」


 茨姫は穏やかな顔で示唆する。

「いや、まだ失敗とは限りません。義経さんがここにいないのなら、本隊は生き残って、ネフェリウスを倒した可能性があります」


 誰かが声を上げる。

「マンサーナ島行きの簡易転移門を出すぞ。使いたい奴は勝手に使ってくれ」


 男が光る石を投げるとゲートが出現する。次々とプレイヤーがゲートに入った。

 遊太と茨姫もゲートを使った。


 マンサーナ島に飛んだプレイヤーたちが向かった先は港だった。

 港には大勢のプレイヤーがいた。誰しも、結果がどうなったのか知りたがっていた。


 港に海賊が一人、走り込んで来る。

「義経さん募集のネフェリウス戦参加者、お疲れ様。ネフェリウスは討伐された」


「おおおー」とプレイヤーから歓声が上がる。

 海賊が明るい顔で頼む。


「それで、分配金だが。一週間、待って欲しい。何せ未知のアイテムは、査定に時間が掛かる。相場もない。いったい、いくら儲けたか、現段階でまるでわからない」


 誰かが手を挙げて叫ぶ。

「俺、潜水艇の図面が出ていたら買いたいです」


 海賊は嫌がらずに答える。

「要望があるなら、直接、義経さんにメールしてくれ。最大限に考慮するそうだ。では、一度ここで解散する。俺はまだここにいるから、個別の質問も受け付けるぞ」


 ネフェリウス戦は無事に終わった。茨姫を見ると、晴れ晴れとした顔をしていた。

 漁船を確認すると異空間に戻っていた。念のために港で出して確認すると無事だった。


 操舵室に行くと、図面も無事に残っていたので、倉庫屋から配送を懸けて義経に送った。

 茨姫がすがすがしい表情で、陽気に語る。


「ネフェリウス戦が終わりましたね。ここからしばらくネフェリウス戦の募集はないですし、遊太さんは、どうしますか?」


「そうだな。まずは、鰹漁で金を貯めながら考えるよ。茨姫はどうする?」

 茨姫が穏やかな顔で要望を口にする。


「私はネフェリウスに勝ったので、この広い世界をまた冒険します。もちろん、遊太さんが船に乗ってほしいと思ったら、声を懸けてくださいね」


「そうだな。なら、必要になったら頼むよ」

 茨姫は微笑んで誘った。


「ネフェリウスに勝ったら、テッドさんやリンクルさんと一緒にヒッコリで祝勝会をしようって話になっているんです。遊太さんも来ますか?」


(知らない仲でもないが、それほど親しくもないからな)

「いや、俺は遠慮しておくよ」


「そうですか、では、また、どこかで会いましょう」

 茨姫と別れる。その日は早めにログアウトした。ピザを食べて眠る。


 朝になり、ログインする。

 いつもなら、マンサーナ島にログインするはずが、その日は違った。


 遊太の体は宇宙空間に浮いており、目の前には人型の光る存在がいた。

(ここは、いったいどこだ? マンサーナ島ではないな)


 人型が男の声で語る。

「品質改善レポートにご協力いただけますか。ご協力いただける場合は、三つの質問にお答え願います」


(運営からの調査か。初めての経験だな)

「プレイヤーにアンケートを採っているのか? いいよ。協力するよ。このゲームは良いゲームであってほしい」


 人型が感じのよい声で語る。

「最初の質問です。賢者の石を巡る冒険はいかがでしたか?」


 冒険を振り返れば、苦労はしたが、嫌な思いはしていない。ただ、ゲームとしては良くても、現実に影響する内容なので、感想を付け加えておく。


「楽しめたよ。だけど、賢者の石は、もう少し入手し易いほうがいい。あと、コンスタンスがいい味を出していたよ」


コンスタンスをさりげなく褒めておく。

人型が感じよく礼を述べる。


「高評価をありがとうございます。コンスタンスのプレイヤーも喜ぶでしょう。次の質問です。封印された時のネフェリウス戦はどうでしたか?」


「報酬が明らかになっていないから、何とも答えづらいなあ。でも、面白かったよ、漁師としてはね。ただ、ネフェリウスの影に挑戦できる参加者の数を増やしてほしいのと、宝箱の中身を奪われない措置があると、なお良い、かな」


「最後に、何か今後のご要望など、ありますか?」

 気になっていたので、この際に聞いてみることにした。


「要望はないけど、聞きたい情報がある」

「何でしょう? 答えられる内容でしたら、お答えします」


「なぜ、宇宙人は、八百万を地球人にやらせたがるんだ?」

「娯楽の提供と同時に、技術援助のためです」


 一般的に伝えられている模範的な回答が返ってきた。

 少し、突っ込んで訊く。


「本当にそれだけなのか? もっと別の目的があるんだろう?」

 人型はやんわりと回答を拒否した。


「先に答えた通りですよ。ただ、遊太様と同じ疑問を持つプレイヤーには、いつも伝えている情報があります。全ては八百万の中にございます」


「それは、自分で謎を解けって要求するの?」

「プロ・プレイヤーの中には、率先して八百万の謎を解こうと頑張っている方もございます。なので詳細はご容赦ください」


「いいか。今のところは、ゲーム内の鰹漁師で生活できているわけだし。楽しいゲームをありがとう、と答えておくよ」


 人型が強烈に光ると、遊太はマンサーナ島の女神像の前にいた。

 港に行っても茨姫はいない。遊太は気持ちも新たに一人で漁に出る。

【了】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

VRMMOで漁師をやっています~賢者の石と封印された時のネフェリウス 金暮 銀 @Gin_Kanekure

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ