第一章 学園

1-1. 道のり

 トラン村から馬車で数日行ったところに、ノーラン王国とパリア王国の国境がある。それぞれ三つの関門があり、一つはパリア王国、もう一つはノーラン王国への入国審査、そして、その真ん中にある小さな門は、パリアーノーラン関門駅の構内へと続いていた。


「うわぁ、でっかい……」


 駅への門をくぐったユウリは、感嘆の声を上げる。

 書物や画集などで見知ってはいたものの、トラン村から実際に出て、ここを訪れるのは初めてである。

 さらに、駅といっても、関門駅は大抵の場合、宿泊施設や食事処、両国間の特産物の販売所などが併設されており、さながら小さな街くらいの規模なのだ。


 人の多さに戸惑いながらも、早々と明日の列車の切符を買って、比較的安めの宿をとる。軽食を取った後、ユウリは今朝鞄に突っ込んだままの紙束を取り出して、読み直すことにした。


 この関門駅からノーランを突っ切りながら北上し、四大国最北端の駅からケーブルカーで北山を上ると、ユウリの目的地である《北の大地》がある。

 明日、彼女はその最南部にある『学園』に入学するのだ。


 『学園』とは、教会の役割や思想を広く伝え、民衆を牽引する人材を育てるために、設立、運営されている世界最高峰の教育機関である、魔法教会設立魔法学園を指す。

 最高峰と謳われるだけあって、高い倍率を突破するには、学力のみならず、マナーや所作、立ち振る舞いなど幼い頃からの英才教育が必要だとも言われている。その性質からか、貴族、または各国王族関係者の生徒が大半だというのが現実だ。


 しかしながら、一般人にもチャンスはある。

 別枠に設けられた書類選考と論文提出を行い、自分の卓抜した才能を示せれば、魔法実技試験が設けられる。そこで、普通生と肩を並べる、もしくはそれ以上に優秀だと判断されれば、晴れて《奨学生》として、学園からの全面的なサポートを受けて入学することができるのだ。

 

 また反対に、王族関係者でも特に身分の高い生徒——例えば現国王の直系——は、《超特待生》、通称『超特』と呼ばれ、帝王学をはじめとした英才教育を受ける為に学園への入学が義務付けられている。

 そして、その中でも特に優れている者達は、『カウンシル』と呼ばれる最高執行機関へ選定され、学園の自治や主な活動運営を任されることになっている。


 次に、魔法教会である。


 東のパリア、北のノーランに、西のガイア、南のフィニーランドを足した四国は、四大王国と呼ばれ、ほぼ均等な国土と経済力を持つ。その他に数ある小国は、幾つかの例外を除いて、四大王国のうちの一国と友好協定を結び、傘下に入ることでその恩恵を受けている。


 支配や侵略とは無縁の世界。


 それはひとえに、魔法教会の思想が関係しているからだ。

 平等で平和な国家の維持という理想のもと、全ての国に関する統治を管理、監視するのが、教会の主な役目であり、ゆえに、教会は、常に中立の立場を貫く必要がある。


 この思想は、教会が発足したとされる何百年も昔、ある一人の人物によって定められた。

 四国間の国境が交差する場所に建てられた、巨大な女性の石像。


 それが、四国の王たちに平等に力を与え、世を平定したとされる《始まりの魔女》である。


 王達に魔力を与えた彼女がいなければ、『魔法』という概念は存在しなかったとする歴史学者もいるほど、その力は強大で、さらには、のちに狂った《魔女》は、国家の平等と平和を維持するためにという伝説をもって、多くの人々の畏怖の対象となっている。


 《魔女》に関する講義は、歴史と政治の時間に行われる。その他の科目にも関わってくる重要な項目なので、早い段階で単位を取っておいた方が良いだろう。


 学園の入学書類に入っていた『学園と教会』という冊子を読み終えて、ユウリは大きな欠伸をする。

 明日の列車は早い。

 明かりを消して、彼女はベットに潜り込んだ。

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