1-7. 学園カウンシルというもの
魔力測定からの数日は、瞬く間に過ぎていった。
ユウリは学園長の計らいにより、当初の希望である初級Aクラスへと振り分けられ、忙しい日々を送っている。
新入生は、基礎を復習する目的で、最初一週間ほどは座学のみの講義である。その後、クラスのレベルに見合った簡単な試験があり、それを全員がパスすることによって魔法実技の授業が開始される。
その試験を明日に控え、ユウリは多少不安の残る教科の本を抱えて、図書塔へと向かっていた。
この一週間で、多少なりともわかったことがある。
まず自覚したのが、多くの貴族や名家の子女達に混じって入学した一般人の《奨学生》は、孤立して当然だということ。
皆、クラスメイトとしては普通に接してくれてはいるものの、新作のドレスだの、新しい宝石のデザイナーだの、お抱えシェフの自慢だの、ユウリには到底ついていけない話題ばかりだった。
さらに、《奨学生》の入学が実に十年ぶりということで、他には一般人が一人もいないということを初めて知ったのだ。
結果、入学早々ポツンが決定してしまった彼女は、学問のためにここにいるのだと自分に言い聞かせて、なるべく気にしないようにしていた。
また、意外だったのが、初級Aというレベルが、座学のみで言えば、ユウリにとって易しいと感じる部類に入っているということだ。自分の学力が、英才教育を受けた生徒達に負けずとも劣らないという事実は、正直いって嬉しい発見だった。
しかしながら、それ以上に、彼女を驚かせたことがある。
「難しい顔してどうしたの、仔猫ちゃん」
不意に耳元で囁かれて、飛び上がりそうになったユウリの目に、淡藤色の長い髪が映る。
女生徒達の小さな悲鳴は聞こえないふりをして、真っ赤になった頰を両手で隠しながら、彼女は抗議した。
「リュカさん、それ、やめてください……」
「それ、って、どれ?」
妖しげな笑みを浮かべて戯けるその人は、先日執務室で会った、カウンシル書記官のリュカ=メイユールである。
「放課後までお勉強とは偉いね、仔猫ちゃん」
「その、仔猫ちゃんっていうのです!」
「おや」
じゃあ耳元で囁かれるのはいいんだ、と返されて、ユウリは声も出ない。
曲がりなりにも、王子である。それが、こんなに軽くて良いのだろうか、と呆然とする。
学園長からの命とあって、カウンシルメンバー達は、学園のどこにいても確実に誰かの姿を目にする程度に、ユウリを監視していた。
特に、あの恐ろしい紺の双眸は、暗殺でも企てているのではないかという鋭さをもって、彼女を射抜いてくる。ヨルンは相変わらず緩い笑顔で頭を撫でてくるし、レヴィは礼儀正しく会釈のみ、ロッシに至っては、気付かれたと分かるとあからさまに踵を返して去っていった。
その中でも、このリュカは、目立っているという自覚があるのかないのか、何かと話し掛けてきてはユウリを構い倒すのを日課にしているようである。
(し、視線が痛い……)
新入生から在学生まで例外を認めずに広がるカウンシルの人気に、噂には聞いていたものの、ユウリは驚きを隠せなかった。
メンバー達が皆、王室関係者であることを考慮しても、その人気はとどまることを知らない。
彼らが現れると、一斉にその場にいる全員の視線が集まる。女生徒からは嬌声が上がり、男子生徒達も尊敬と羨望の眼差しで見惚れた。
無理もないと思う。
彼らは一様に、美形揃いなのだ。
史上はじめてメンバー全員熟練クラスに属しているという今期のカウンシルは、類い稀ない才能と美しさの宝庫だ、と噂されるのも納得できた。
動揺のあまり、執務室で囲まれた時にはあまり気にならなかったユウリだが、改めて落ち着いてから彼らと対峙すると、必要以上に緊張してしまう。
加えて、ヨルン、ユージン、リュカ、ロッシに至っては、四大王国の次期王位継承権を持つ王子であり、秘書として仕えるレヴィでさえ、四大王国の一つパリア王国と同盟を結ぶマルセル小国の王子だ。
その高嶺の花達に構われている、何の変哲もない、一般人の《奨学生》。
反感を買うな、という方が無理だろう。
カウンシルメンバー達が自分の孤立に拍車をかけている張本人だというユウリの主張も、強ち間違いではないのかもしれない。
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