1-4. カウンシル執務室での尋問−2
スミレ色の優しい瞳が、ユウリの前に香り立つティーカップを置きながら覗き込んできて、彼女は何故か頰が熱くなるのを感じて焦る。
「マルセル小国第一王子レヴィ=ブリュールと申します。カウンシルの秘書をしています」
レヴィが軽く会釈すると、淡藤色の長髪を気怠そうにかき上げながら、細身の男が続ける。
「パリア王国第一皇子リュカ= メイユール。面倒くさーーーーーい書記をやらされてるんだよねぇ」
「ほぼ自動筆記魔法を使ってサボってる奴が、何をいう」
「あのねー、魔力は食うんだよ、自動でも」
突っ込まれて、片手をひらひらさせながらリュカは言い返す。
くすり、と笑みを漏らした途端に、紺と濃緑の二対の瞳から冷たい視線を浴びせられ、ユウリは縮こまるようにして二人を見上げた。
「ノーラン王国第一王子ロッシ=スチュアート。会計だ」
「ユージン= バストホルム、ガイア王国第二王子、学園カウンシル副会長」
銀縁の眼鏡を押し上げながら、無感情な声音で言い放ったロッシに続き、機械的に付け加えたユージンに、ユウリは氷点下に放り出された気分になった。この二人のポーカーフェイスと鋭い眼光は、正直いって苦手だ。
(あれ、ということは)
長椅子に足を投げ出して座り、大きな欠伸をしている人物。無造作な銀の髪の下にみえる、陶器の様な肌と整った顔立ち。しかし、その銀の双眸は常に眠たそうだ。
「彼は、フィニーランド第一王子ヨルン = ブルムクヴィスト。学園カウンシル会長です」
レヴィの紹介に、ユウリは多少なりとも驚きを隠せない。
最強の魔力と最高の頭脳を持つ者のみが務められる、超特生の頂点とも言えるカウンシル会長職。
(もっと怖い感じの人かと思ってた)
それこそユージンの様な人物像を勝手に想像していたユウリは、ヨルンの醸し出す穏やかな雰囲気に飲み込まれそうになる。
凝視するユウリの気付いて緩い笑顔を向けるヨルンに、彼女ははっと居住まいを正した。
今自分が、各国の王子達及びに学園の最高執務役員達に囲まれているのだ、という事実を理解して、声が強張る。
「ユウリ= ティエンルと申します。トラン村から来ました」
「トラン? あの、辺境の? それにしては、珍しい瞳の色だよね」
リュカのコメントに、曖昧に笑って返す。嘘は言っていない。
瞳と髪の色は、地域によってある一定の法則を持っている。
王国で言えば、ガイアは紺、パリアは紫、ノーランは深緑、そしてフィニーランドは銀の色を持つものがほとんどである。その他、小国にも一般的な色というものが存在し、ユウリの育ったトラン村も例外なく茶色の瞳が共通だった。
だが、ユウリの瞳と髪は、黒檀を思わせる艶やかな漆黒だ。
「よく、言われます。正確には、幼少の時トラン村の村長に拾われたので、出身は不明なんです。この苗字も、名前しかわからなかった私に、村長がご自分の名前をつけてくれて」
四年前、トラン村のはずれで泣いていたユウリを見つけたのは、村の青年だったのだが、その容姿から警戒されたのか、半刻後その村の村長が警備団を伴って現れた。
彼は、泣きじゃくって言葉もままならない彼女を連れ帰り、美味しい食事と暖かいベッドを用意してくれ、そのまま今日までユウリを自分の子供のように育ててくれたのだ。
学園入学に関しても、進学を反対する村人達を説得して、ユウリの背中を押してくれたのは、彼だけだった。
正直なところ、彼女は保護以前のことをあまり思い出せない。
両親を喪くしたという哀しみと、独りぼっちになってしまったという絶望は、今もなお彼女を胸を苛んでいるが、どこをどうやってトラン村まで辿り着いたのかは、全くもって解らないのである。
「それは、大変でしたね」
五人の王子達とは違う、柔らかな、ともすれば緩慢な声に、そこにいた全員が振り向いた。
いつの間にか、執務室入り口に佇む人物。
「学園長!」
五人がほぼ同時に発した言葉に、この学園の最高権力者は、深く被ったフードの下から柔らかな微笑みを返すのだった。
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