そこに到着できたからこそ面白い

超能力や特殊能力。今風に言い換えるとチート能力の出てくる創作って、結局は自分探しの物語だと思うのです。『こんな力があれば』『こんな風にできたら』なんて妄想と憧れを懐き、自分にはできなかったことをキャラクターにやってもらう。そして彼・彼女らに物語の中で自分探しを託す。

たくさん前例のある話で、もっと言えばファンタジーラノベは全てがそこに帰結するのではないかとも考えます。しかし、その群れから頭ひとつ飛び出す要素が実はあるのですよね。その効果を実装しつつ完結を迎えたのが『コード・オリヅル~超常現象スパイ組織で楽しいバイト生活!』

オリヅル誕生の経緯、異能者、危機的状況、ヒロインの暴走性など、最初読み始めたときは『涼宮ハルヒの憂鬱』をリスペクトした作品かな? とも思いました。それならそれで展開は予想できるので読みやすいわ、とも。
それが間違いだと気づいたときには、もうオリヅルワールドに惹き込まれていて抜け出すのが困難でしたけれど(笑)

自分の取り柄として速読ができるのですけど、この物語を速読することは出来ませんでした。それ自体はできるのです、しかしやってしまうと細かいところが記憶に残らなくなってしまう。たまにこういう構成の作品があるんですよね。作者が細かい言葉、ひとつひとつにも魂を込めている作品が。心から称賛します。

話は前後しましたが、自分探しの物語から頭ひとつ抜ける要素。それが『短期間での目標認識と達成』です。いつまでも戦い続け、または旅を続けた先で『俺たちの未来はここからだ!』とするのは簡単。それはそれで綺麗な終わり方だと思うし、希望のある話だなとも思いますが、逆に『いつまで探してるんだよ』とか『これだけやって分からないのか』とも思い若干冷めてしいます。

その点、この作品は主人公たちが戦いに巻き込まれてから何年も経たないうちに、それぞれの目標を見つけています。そしてブレることなくラストを迎えました。何を置いても、その着地点へと収めた筆者の胆力が素晴らしい。

本当に楽しい時間を共有できました。
最後になりましたが、ぜひこのレビューを読んでくださった方は流し読みでも良いから読んでみてください。きっと夢中になれると約束します。

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